邦題 『ウォーターマーク』
日本盤:Sony Records MHCP201 2004年2月25日再発
US盤:Columbia Records
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ささめごとThis album was produced from December 7, 1976 to December 23, 1977
アルバムWatermark
1作目が正統派のAngel Clare、2作目が「S&GのG」というイメージから抜け出たBreakaway、そしてこの3作目Watermark。肩の力も抜けて、すごくまとまった作品に仕上がっています。チャート
このアルバムの一番の特徴は、Jimmy Webb(ジミー・ウェッブ)の作品集であることです。Paul Simon、James Taylor(ジェームズ・テイラー)とのハーモニーが美しい、Sam Cooke(サム・クック)の"(What A) Wonderful World"とアイルランドのトラディショナル・ソングである"She Moved Through The Fair"(これもアレンジはJimmyです)以外は全てJimmyの曲です。
プロデューサーはArt自身で、アソシエイト・プロデューサーにMuscle Shoals Rhythm Section(マッスル・ショールズ・リズム・セクション)のBarry Backett(バリー・ベケット)を迎えています。
ワールド・ワイド・バージョンは、1978年春に発売され、全米19位までチャートを上昇しました。(1977年10月にオランダなどヨーロッパの一部で先行限定発売されました。詳しくは下記を参照してください。)ゲスト・ミュージシャン1977年に"Crying In My Sleep"が先行シングル発売されて全米25位に、1978年にはシングル"(What A) Wonderful World"が17位にチャート・インしました。
これ以後、Artのアルバムにたびたび顔を出すLeah Kunkel(リア・カンケル)(The Mamas and PapasのCass Elliottの妹で、当時、ドラマー、Russ Kunkel(ラス・カンケル)の妻) が初めてバック・ボーカルで参加しています。ジャケットアイルランドのトラッド・フォーク・グループ、The Chieftains(チーフタンズ)も"All My Love's Laughter"と"She Moved Through The Fair"の2曲に参加しています。Chieftainsは、Artが参加した1999年末の"Young President's Organization"主催のミレニアム・クルーズにも、参加していました。大晦日のArtのライブでの1曲、"Water Is Wide"(妻のKim Cermakとのデュエット)にバックで参加したり、逆にArtとEric Weissberg(エリック・ワイズバーグ)が彼らのライブで"She Moved Through The Fair"に参加しました。船上コンサートの合間に、The Chieftainsは"Morning Has Broken"をArtとDiana Kralを交えてレコーディングしたそうです。更に、2000年3月17日の金曜日、ArtはThe Chieftainsのニューヨーク・シティ、カーネギーホールでの毎年恒例のセント・パトリックス・デイのコンサートにスペシャル・ゲストとして出演しました。Artは割れるような拍手の中、ステージに上がり、"She Moved Through The Fair"を、そして、息子のJamesと"Morning Has Broken"をデュエットしました。
輝くカルフォルニアの海、くつろいだ笑顔でこちらを見ている幸せそうなArtie。このジャケット写真は当時カルフォルニアで一緒に暮らしていた恋人、Laurie Bird(ローリー・バード)が撮ったものです。彼女は女優でしたが、写真家としても活動していて、J.D. Souther(J・D・サウザー)のアルバムのジャケットの写真や、自身も出演した映画『コックファイター』(原題Cockfighter 1974年作品)のスティール写真も撮影しています。Watermark Tour
このジャケットの笑顔を見、そしてこのアルバムを聞くと、Artの生活―プライベートも仕事も―が充実していたことが分かりますね…。離婚を経験したものの、新しい恋をし、ソロ・シンガーとしても安定してきたころです。
このアルバム発売後、78年3月から、ソロとしては初めての全米ツアーを行いました。バック・ボーカルにLeah Kunkel、ピアノにJohn Jarvis (ジョン・ジャーヴィス) など、スタッフも一流でした。カーネギー・ホールの2公演のうち1つにはJimmy Webbが、もう1つにはPaul Simonがステージに加わりました。オリジナル・リリースと幻の"Fingerpaint"
前述しましたように、Watermarkは1977年10月にオランダで先行発売されました。その時は、7曲目の"(What A) Wonderful World"の代わりに、Jimmy Webb作曲の"Fingerpaint"が収録されていました。しかし、同年12月23日にレコーディングされた、"(What A) Wonderful World"がヒットとなったため、1978年に"Fingerpaint"と差し替えられて、オランダを含む全世界で発売されました。なぜ、オランダで先行発売されたのか、ですが、これはヨーロッパのCBSのプレス工場がオランダにある、という単純な事情によるもののようです。このオリジナル・リリースは結局数ヶ月しか生産されず、オランダやスウェーデンで販売されただけで、ワールドワイド・リリースの後、市場から回収されました。Watermark (1977) CBS 86032
*以上の情報は、Simon&Garfunkel のメーリングリスト、simgarの1998年6月の投稿を元にしています。また、"Fingerpaint"は、Jimmyの1970年の曲です。73年発売のコメディ映画The Naked Ape のサントラ (Playboy Records) に映画のテーマ曲として、Jimmyのオリジナル・バージョンが"Fingerpainting"のタイトルで収録されています。歌詞は、The Art Garfunkel Websiteの Lyrics of Songs のページにありますので、興味のある方はどうぞ。
Artieには珍しく、低音のボーカルがとても印象的な曲です。サウンドも、Jimmy のピアノを中心としたシンプルな作りです。(ちょっとCheiftainsの香りも・・・)ある意味、"(What A) Wonderful World"とは対照的な曲と言えるのではないでしょうか。
Side One
Crying in My Sleep |
Side Two
Wooden Planes |
This album was produced from December 7, 1976 to August 12, 1977
また、オリジナル・リリースは、B面の曲順がワールドワイド・リリースと全く異なることが判明しました。完璧主義者のArtieが、"Fingerpaint"と"(What A) Wonderful World"を単に入れ替えて発売するなんてことはないだろう、とは思っていましたが、ここまで順番が違うと、かなりアルバムの印象が変わりますね。1. Crying In My Sleep (Jimmy Webb)
74年の作品で、Jimmyのオリジナルは同年のアルバムLand's End (Asylum 現在生産中止)、また93年のべスト盤のArchive (WEA)に収録されています。2. Marionette (Jimmy Webb)
67年の作品です。オリジナルは71年のアルバムAnd So On (Reprise、LPのみ)に収録。Victoria Kingston著のSimon and Garfunkel: The Definite Biology に面白い解釈が載っています。3. Shine It On Me (Jimmy Webb)「彼の作った操り人形は、愛する女性と重ねられている。音楽的にも、人形のギクシャクとした動きが軽快なメロディーで表されている。アートは、ジミー・ウェッブのアルバムAnd So On のオリジナル・バージョンよりもゆっくり歌っているが、曲の人形がギクシャクと動く感じは残している。面白いのは、ブランデンブルク門の出てくる一行が付け加えられていることだ。バッハのブランデンブルク協奏曲に敬意を表しているのではないだろうか。アートの声の質感がすばらしい。人形の失望に気づいた、年老いた男はさみしく微笑んで身を引く。彼は彼女をまた店の棚に戻し、次の男が現れるのを待つ・・・願わくば自分よりましな男を。」
74年の作品。原題は"You Might As Well Smile"だったようで、Glen Campbell(グレン・キャンベル)が74年にレコーディングしています。この改題がJimmyによるものか、Artによるものか、またどのような意味があったのか、などは不明ですが、このアルバムだけでも3曲が改題されているように、Jimmyの曲はよくタイトルが変わるそうなので、深い意味はないのかもしれません。Glen のバージョンは1999年のReunited (with Jimmy Webb 1974-1988) (Reprise)で聞くことができますが、こちらもなかなか味があります。4. Watermark (Jimmy Webb)
68年の作品で、69年、Richard Harris(リチャード・ハリス)が、アルバムThe Yard Went On Forever (Dunhil)に収録しています。このアルバムは、作詞・作曲・編曲、さらにプロデュースも Jimmy によるものです。また、1996年のWebb Sessions 1968-69 (Raven)にも入っています。5. Saturday Suit (Jimmy Webb)個人的に、この曲はとてもお気に入りなのですが、この Richard Harris のバージョンは、今まで聞いてきたArtの曲のカバーやオリジナル・バージョンの中で、「目が点度No.1」です^^;。曲から想像する女性像が全く違います。Artie のバージョンは、とてもはかなくて、繊細です。Richard Harris のバージョンは、ダイナミックで・・・そこが魅力でもあるのですが。ついつい東映映画のオープニングの「ざっぷ〜ん」という波を思い起こしてしまいました(笑)。
72年の作品。72年にLeah Kunkelの姉、Cass Elliott (キャス・エリオット) もアルバムRoad Is No Place For A Lady (RCA-Victor)でレコーディングしています。 Jimmyのオリジナルは、73年の映画The Naked Apeのサントラに収録されています。6. All My Love's Laughter (Jimmy Webb)
68年の作品で、Jimmyのオリジナルは71年のAnd So On (Reprise)とベスト盤Archive に収録。他にも、Larry Coryell や Bill Medley もカバーしています。
The Chieftains がバックで参加しています。Artの1989年のライブ・バージョンが、Up 'til Now に収録されています。7. (What A) Wonderful World (Sam Cooke, Herb Alpert & Lou Adler)
前述の通り、この曲のみ Jimmy の作曲ではありません。59年のSam Cooke (サム・クック)、Herb Alpert (ハーブ・アルバート)、Lou Adler (ルー・アドラー)の共同作品です。オリジナル・バージョンは色々なアルバムやベスト盤に入っているようですが、一番手に入りやすいのは、The Best of Sam Cooke (RCA)くらいでしょうか。オールディズの名曲なので、手に入りやすいとは思いますが、Louis Armstrong(ルイ・アームストロング)の曲とお間違えないよう・・・。8. Mr. Shuck 'n' Jive (Jimmy Webb)また、この曲のみニューヨークの A&R レコーディングスタジオでの別レコーディングで、77年12月23日に録音されました。Artと Paul Simon、James Taylor の声のミックスがとてもきれいで、心地よい曲です。プロデューサーは Phil Ramone (フィル・ラモーン)です。エレクトリック・ピアノに Richard Tee (リチャード・ティー)、ベースに Tony Levin (トニー・レヴィン)、アコースティック・ギターにPaul Simon、ドラムスが Steve Gadd (スティーヴ・ガッド)と、ゲスト・ミュージシャンもすごいですね。
72年の作品で元々は"Catharsis"【カタルシス】というタイトルでした。Jimmy の72年のアルバムLetters (Reprise)にオリジナルが収録されています。バック・ボーカルに Breakaway にも参加したDavid Crosby(ディビット・クロスビー)、Stephen Bishop (スティーヴン・ビショップ) が加わり、珍しくジャズっぽい一曲に仕上げています。レコーディング後まもなく亡くなった、アルトサックス奏者 Paul Desmond (ポール・デズモンド)も参加しています。9. Paper Chase (Jimmy Webb)
68年の作品で、同年の Richard Harris のアルバム A Tramp Shining (Dunhil)に最初に取り上げられました。このアルバムも、The Yard Went On Forever と同様、Jimmy の作詞・作曲・編曲・プロデュースで、全米第2位のヒットとなった名曲"MacArthur Park"も収録されています。10. She Moved Through The Fair (Arrangement by Jimmy Webb and Paddy Moloney)
また、1996年のWebb Sessions 1968-69 (Raven)にも入っています。
これは、アイルランドのフォーク・バラッドで、60年代のイギリスで、"Scarborough Fair"と同時期によく歌われた歌だそうです。Jimmy と The Chieftains の Paddy Moloney (パディー・モロニー)がアレンジを手がけています。The Chieftainsも演奏に参加しています。多くのミュージシャンがカバーしていますが、The Chieftains も88年の Irish Heartbeat で取り上げています。11. Someone Else (1958) (Jimmy Webb)余談ですが、1916年のアイルランドの独立への闘いを描いた映画『マイケル・コリンズ』(原題Michael Collins 1996年作品)でも、Julia Roberts (ジュリア・ロバーツ)扮する、主人公の生涯の恋人がこの歌を歌っていて、非常に印象的でした。
'1958'は、この曲が作られた年を表しています。つまり、Jimmy が12・3歳のときに、初めてかいた作品だそうです。…自分が12・3歳の時を思い起こすと、Jimmy って天才ですね…(^^;)。Art 以外のバージョンはないようです。12. Wooden Planes (Jimmy Webb)
71年の作品。"A Song For My Brother"のタイトルで、72年の Billy Joe Thomas (ビリー・ジョー・トーマス)のセルフタイトルのアルバムに収録されています。このB. J. Thomasのバージョンは、Art のバージョンよりもっとシンプルで、イントロの Jimmy のピアノがとても印象的です。Artのバージョンも、ピアノは Jimmy で、The Oklahoma Baptist University Chorale (オクラホマ・バプティスト大学聖歌隊)がコーラスに付いています。Jimmy はオクラホマ州生まれで、お父さんがバプティスト派の牧師だったというつながりからだと思います。