Breakaway  (1975)

邦題『愛への旅立ち』

日本盤:Sony Records MHCP200 2004年2月25日再発
(初のデジタル・リマスター化、解説も改稿)
US盤:Columbia Records

  1. I Believe (When I Fall In Love It Will Be Forever)
  2. Rag Doll
  3. Break Away
  4. Disney Girls
  5. Waters of March
  6. My Little Town
  7. I Only Have Eyes For You
  8. Looking For The Right One
  9. 99 Miles From L.A.
  10. The Same Old Tears On A New Background
  1. 永遠の想い
  2. 悲しきラグ・ドール
  3. 愛への旅立ち
  4. 幸福な時間
  5. 春の予感
  6. マイ・リトル・タウン
  7. 瞳は君ゆえに
  8. めぐり会い
  9. L.A.より99マイル
  10. ある愛の終わりに…

ささめごと

アルバムBreakaway

ソロ2作目。個人的にこのBreakaway からLefty までの時期を「Laurie Bird時代」と呼んでいるのですが…^^;。

Paul Simon、Art Garfunkel、 Phil Ramone (フィル・ラモーン)プロデュースの、"My Little Town"を除き、Richard Perry (リチャード・ペリー)との共同プロデュースです。Richard Perry は、1942年ニューヨーク・シティ、ブルックリン生まれのプロデューサーで、Ringo Starr (リンゴ・スター)や Carly Simon (カーリー・サイモン)、Barbra Streisand (バーブラ・ストレイザンド) など数多くのミュージシャンのプロデュースを手がけています。

このアルバムの発売直前に収録された、大変おもしろい Breakaway 特集のBBCのラジオ・インタビューが、The Art Garfunkel Website にありますので、ぜひ1度ご覧下さい。こちらです。訳をこちらに載せておきます。このアルバム作りに大きな役割を果たした、プロデューサーのRichard Perry も出演しています。ささめごとのほうに、曲に関係するコメントへのリンクも張っておきます。

同年の秋に BBC の My Top Twelve という人気ラジオ番組に出演した際も、この Breakaway のことを話していて、興味深いです。

チャート
1975年10月に発売され、アメリカ9位、イギリス7位というヒット作品になりました。
先行シングル発売された"I Only Have Eyes For You/Looking For The Right One"は全米18位、イギリスで1位(!)までチャートを上昇しました。
ゲスト・ミュージシャン
Graham Nash (グレアム・ナッシュ)、 David Crosby (デイビット・クロスビー)、 The Beach Boys の Bruce Johnston (ブルース・ジョンストン) など、ゲスト・ミュージシャンも豪華です。

特筆すべきは、当時無名のソングライターだった Stephen Bishop (スティーヴン・ビショップ)の登用で、8と10の2曲は彼の曲です。ArtがTV番組"Tonight Show"でたまたま流れていた Stephen の曲を気に入り、共通の友人の Leah Kunkel (リア・カンケル)にStephen を紹介してもらったようです。ジャケットに"Special thanks to Leah Kunkel"と明記されているのはこのためだと思われます。

ちなみに、このとき流れた曲は、A&M レコードの名アレンジャーとして知られる、Nick De Caro (ニック・デ・カロ)の歌う"Under The Jamican Moon"ではないか、と思われます。この曲は、Stephen と Leah の共作で、Nick De Caro の1974年のアルバム、Italian Graffiti (Blue Thumb 廃盤)に収録されています。Stephen はソングライター、バック・ヴォーカリストとしてBreakaway 以降も、Art のアルバムの多くに登場します。

前述の BBC の Breakaway ラジオ・インタビューで、プロデューサーの Richard Perry は、Stephen Bishop について、

「ロサンジェルスの、すばらしい才能溢れる若い新人ソングライターです。彼の曲をこれから多く耳にするようになると思います。スティーヴン・ビショップの曲は、特にアート・ガーファンクルにぴったり来ますね。ほんと、僕は、アートの計画の中に、全部スティーヴン・ビショップの曲ばっかりのアルバムをいつか作るっていうのがあるんじゃないかと思います。全部とてもきれいで、ロマンティックなメロディーでね。」
と語っています。実際は、次作 Watermark は、Jimmy Webb の作品集になったわけですが、Breakaway 製作終了時にすでに「作品集」というコンセプトが語られているのはおもしろいですね。

また、ピアノに Larry Knectel (ラリー・ネクテル)、John Jarvis (ジョン・ジャーヴィス)、Leah Kunkel の当時の夫で、セッション・ドラマーとして評価の高い Russ Kunkel (ラス・カンケル)、Andrew Gold (アンドリュー・ゴールド)、Louie Shelton (ルイ・シェルトン)といった、Art のお気に入りのミュージシャンが多数参加しています。

ジャケット
このアルバムのジャケットは、サウンドのイメージによく合っています。

発売当時、日本のFM ラジオで言われていたそうですが、このジャケットの表の女性二人は実は男性であり、「虚実の愛」を表し(だからArtie が硬い表情をしている)、裏が、Art の求める「真実の愛」である、とのことです。

www.artgarfunkel.com によると、表の、Art の左側の女性(顔のよく見えない方)と、裏の女性は、Art の人生において大きな影響を及ぼし、後に自殺した恋人、Laurie Bird (ローリー・バード)ではないかとのことです。ふたりは75年7月に出会い、熱い恋に落ちていました。

ジャケット写真で彼が着ている服に注目しましょう。彼は、気に入った服はとことん着る、というポリシーの持ち主なのでしょうか、このシャツを75年10月にゲスト出演した、Paul Simon がホストの Saturday Night Live でも、82年のS&G再結成コンサートのための来日時のインタビューでも、と何度も着ています。

また、このジャケットは、Jimmy Webb (ジミー・ウェッブ)のアルバムAngel Heart (Columbia, 1982)のジャケットと似ている、とも言う声も。

1. I Believe(When I Fall In Love It Will Be Forever) (Yvonne Wright/ Stevie Wonder)
Stevie Wonder (スティービー・ワンダー)の曲にYvonne Wright (イヴォンヌ・ライト)が詞をつけた、72年の共同作品です。Stevieのオリジナル・バージョンは72年のアルバムTalking Book (Motown)、99年のボックスセットAt The Close Of The Century (Motown)に収録されています。
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2. Rag Doll (Steve Eaton)
Steve Eaton (スティーヴ・イートン) は、The Carpenters (ザ・カーペンターズ) の1977年のヒット曲"All You Get from Love is a Love Song"(邦題「ふたりのラヴ・ソング」)の作者でもあり、自身も2枚アルバムを出しています。

この曲は、Steve の73年の作品で、オリジナル・バージョンは 彼の最初のアルバムHey Mr. Daydreamer (Capitol、1974年)に収録されています。The Van (1977年、アメリカ)という青春コメディ映画にもSteve Eatonのバージョンが使われています。また、他にも Sammy Johns (サミー・ジョンズ) のセルフ・タイトル・アルバム(General Recordings, 1973)、Lenny LeBlanc (レニー・ルブラン) のセルフ・タイトル・アルバム(Big Tree、1976) (甘くて素敵なバージョンだそうです)などでカバーされています。Hey Mr. Daydreamer とSammy Johns のアルバムは、どちらもJay Sentor (ジェイ・センター)のプロデュースによるものです。

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3. Break Away (Barnard Gallagher, Graham Lyle)
"A Heart In New York" (Scissors Cut 収録)の作者でもある、イギリスのデュオ・グループ Gallagher & Lyle (ギャラガー&ライル:1964-79にデュオとして活動) の作品で、Richard Perry がイギリスに行った時にたまたま見つけた書き下ろし曲だそうです。

セルフ・カバーはタイトルが"Breakaway"で、76年の同タイトルのアルバム(A&M)、91年リリースの Very Best Of Gallagher&Lyle (A&M)(このアルバムには"A Heart In New York"も収録)、98年に発売されたCD、Gallagher&Lyle Best of Live に入っています。

Crosby, Stills, Nash & Young (クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング)の David Crosby (デイビット・クロスビー)と Graham Nash (グレアム・ナッシュ)、Bruce Johnston (ブルース・ジョンストン)、Toni Tennile (トニー・テニール)がバック・ボーカルをつけています。

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4. Disney Girls(Bruce Johnston)
The Beach Boys (ビーチ・ボーイズ) の Bruce Johnston (ブルース・ジョンストン)の71年の作品です。作者のBruce Johnston がバック・ボーカル、ピアノ、口笛で、The Captain & Tennile (ザ・キャプテン・アンド・テニール)のToni Tennile (トニー・テニール)がバック・ボーカルで参加しています。

The Captain & Tennile (1973-)は、それまで Beach Boys でキーボードを弾いていた Daryl Dragon (ダリル・ドラゴン) (=Captain) が妻の Toni Tennile とチームを組み、70年代後半にヒットしました。75年のアルバム Love Will Keep Us Together (A&M) で、"Disney Girls" を取り上げています。(77年のベスト盤にも収録)

Beach Boys のバージョンは、71年の Surf's Up (Capital)に収録されています。また、作者のBruce は77年のソロアルバム Going Public でもこの曲を取り上げており、こちらの方がArtie のバージョンに近いしっとりした仕上がりになっています。

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5. Waters Of March(Antonio Carlos Jobim)
ボサノバの父、Antonio Carlos Jobim (アントニオ・カルロス・ジョビン: 1927-1994)の1972年アルバムJobim (PolygramからCDで再発)にオリジナルが入っています。英語の詞も、Jobim によるものだそうですが、74年の Elis Regina (エリス・レジ―ナ)とのアルバム Elis & Tom (Verve)(邦題は『ばらに降る雨』)に収録されているのはポルトガル語バージョンだそうです。他にもいろいろなミュージシャンによってカバーされています。

邦題「春の予感」ですが、もともとは、秋の始まりを歌ったものだそうです。南半球のブラジルの3月は、夏の終わりですから。Artieは、この曲を子どもの目から見た世界を歌ったもの、としていますが、Jobim が自宅を建てる時の情景をそのまま歌にしたものだそうです。視線がとても低いので、まるで子どもが世界を見て驚いているかのように描かれている、とのことです。一日の繰り返しから、人生の繰り返しにまで発展するかのように、一つの循環コードで作られている曲とのこと。深いですね、ボサノバは^^。(Jobim に関しては歌さんに教えていただきました。)

インタビューでも話題に上っている、元 Little Feat (リトル・フィート)のキーボードのBill Payne (ビル・ペイン) は、この曲のほかにも2曲にクレジットされていますが、87年の滝上よう子さんのライナー・ノーツによると、このセッションがきっかけで、後に注目したいアーティストとしてArt の名を真っ先にあげていたそうです。

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6. My Little Town (Paul Simon)
1970年のアルバム、Bridge Over Troubled Water 以来 、約5年ぶりのS&Gのスタジオ・レコーディングです。今のところ、解散後最初で最後のスタジオ・レコーディングとなっています。Paul のアルバム Still Crazy After All These Years (1975, Warner Bro. 邦題『時の流れに』)にも収録され、グラミー賞の Best Rock Performance by a Duo or Group with Vocal にノミネートされました。(受賞したのは、Eaglesの"Lyin' Eyes"。)

この曲に関しては、資料がたくさんあるのですが、ちぇしゃさんのサイト(2004年現在閉鎖中) Calling Elvis 別館 に掲載されている1990年の BBC Paul Simon Songbook インタビュー(Part 5)でも色々と話しています。ホストは、Breakaway の時と同じ、Stuart Grandy です。

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7. I Only Have Eyes For You (Al Dubin & Harry Warren)
1934年のAl Dubin (アル・デュビン) とHarry Warren (ハリー・ウォーレン) の作品。

59年にThe Flamingos (ザ・フラミンゴス)が大ヒットさせたDoo-Wopのスタンダード・ナンバーです。Flamingo Serenade (59年、Collectables) または62年のベスト盤、The Sound Of Flamingo (Collectables) に収録されています。数え切れないほどのミュージシャンに取り上げられてきた名曲ですが、Art のバージョンの人気は高いです。イギリスでは第1位になりました。結婚式のファースト・ダンスにはこの曲を、と言う声も良く聞きます。

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8. Looking For The Right One (Stephen Bishop) 

Stephen Bishop (スティーヴン・ビショップ) のセルフ・カバーは、1978年のアルバム Bish(MCA 生産中止) に収録。このアルバムには Art もバック・ボーカルで参加しています。また、88年のベスト盤Best of Bish (Rhino 廃盤)、94年のベスト盤 On & On (MCA)にも収録されています。

82年の Miss Right (La Donna giusta)(アメリカ・イタリア共同作品)というコメディ映画の主題歌としてArt のバージョンが使われたようです。主人公の男性が、3人のガール・フレンドから1人を選ぶと言う、どたばたセックス・コメディだったようで、ファンとしては、Artieのこの曲を使って欲しくなかった気がしますが^^;。

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9. 99 Miles From L.A. (Albert Hammond & Hal David)
Angel Clare の"Mary Was An Only Child"にもクレジットされている、Albert Hammond (アルバート・ハモンド)の作曲。作詞は、Bart Bacharach(バート・バカラック) と作曲チームを組んでいたことで知られる、Hal David (ハル・デイビット)です。

Albert のオリジナルは75年リリースのアルバム 99 Miles From L.A. (Epic、廃盤)、77年のWhen I Need You (Epic、廃盤)に収録されています。他にも、Julio Iglesias (フリオ・イグレシアス)が90年の Starry Night (Columbia)、Johnny Mathis (ジョニー・マティス)が75年のFeelings (Columbia)などでカバーしています。

余談ですか、99マイルというと、約160km、ですね。どこにいたんでしょうか、この曲に出てくる彼は。

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10. The Same Old Tears On a New Background (Stephen Bishop)
Stephen の75年の作品。セルフ・カバーは、1976年のデビューアルバム、Careless (MCA) にライブ・バージョンが入っています。このアルバムには Art もボーカル参加しています。


情報を提供してくださった、Hiroさん、Musty Dustyさん、歌さん、ありがとうございました。
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