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エッセイ「木もれ日のアトリエから」A |
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我が家のキッチンの片隅には、小さな宝物がしまってあります。それは誰が見てもおよそ宝物
とは思えないものですが、私にとっては自分の結婚を振り返らせてくれる大切なものなのです。
思えば、ずいぶん若い頃から「結婚」に憧れを持っていたような気がします。でも、その憧れが
強いほど逆に、自分の理想の人なんて見つかるわけない、と心のどこかに醒めた気持ちもあったかも
しれません。その上私には、自分は愛されない人間なのではないかという強い劣等感がありました。
(一匹狼的なところがあり、どちらかといえば人付き合いの苦手な私に、人生の半分、いや三分の一を
一緒に過ごせる人との出会いなんてあるのだろうか・・・)もしかしたら、私には結婚する日は来ないかも
しれないとさえ思えてくるのでした。
20代後半にさしかかり、まわりの友人が次々と結婚を決めはじめると、自分だけが取り残されていく
ような気持ちになりました。人並みにあせってみたりもし、結婚という問題は私にとっては本当に
高い高い山のように感じられました。
しかし、クリスチャンであるからには、やはりクリスチャンの相手と家庭を築きたいと考えていた私は、
祈ったり、聖書を読んだりしているうちに、こう思えるようになってきました。
「人は、お互いの弱さを助け合い、高め合うために一緒になるのだし、私を愛してくださっている神さまは、
私の人生に最善のことをしてくださるはず。あせるのはやめて、神さまにお任せしよう」と。
そう決めると、今までとは全く違った静かな思いになることができました。今の主人と出会ったのは、
それからまもなくのことです。なんと初対面から2週間で結婚が決まりました。
結婚式は小さな教会で、式とティーパーティーだけの質素なものでしたが、一つだけ贅沢にしたものが
あります。オフホワイトのバラのブーケとティアラを身につけたことです。
私は時々、冷凍庫の中から、13年前の結婚式につけたこのバラのティアラを出しては眺めるのです。
白いバラはもうセピア色に変わりましたが、私にとっては、いつまでも変わらない大切な宝物なのです。
フォトエッセイ集『木もれ日のアトリエから』('99発行)より |
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