エッセイ「木もれ日のアトリエから」@ 
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 おつかいの帰り、自転車で、いつもと違う道を通ってみようと、ガタガタの畑道を走りました。

もう晩秋だというのにとても暖かで、すぐに家に帰ってしまうのがもったいないような気がしたからです。


 植木がズラリと並ぶ畑を抜けた途端、「わあ!きれい!」と思わず声が出てしまうほどに美しい菊畑が

広がっていました。白、ピンク、黄色のボーダーラインが息を飲むほどあざやかです。


 自転車を降りて転がしながらゆっくり行くと、今度は真っ白にはじけた綿の実が目に飛び込んできました。

ことばも出ないくらいうれしくて、しばらく眺めていました。

 
 ちょうど作業をしていた農家のおばさんの姿が見えたので、声をかけて綿の実を少し譲ってもらいました。

リースを作ると言った私の顔があんまりうれしそうだったのか、近くにあった大きな赤とうがらしや黄色の

フェンネルの花まで、「特別に大サービスね」と言って、切ってくれました。


 色とりどりの花や実でかごがいっぱいになった自転車をこぎながら、

「遠回りしてよかったなあ」と、つくづく思いました。菊畑の一部を切り取ってきたように、

部屋の中もパッと明るくなりました。

 
 それにしても四季折々に見られる自然の織りなす色は、美しく多彩です。

空の色も木の葉の色も一日として同じことはないでしょう。また、大自然の中に限らず、

おつかいの帰りの畑道にも、もらってきた赤いとうがらしにも、様々な色があって

素敵なハーモニーを奏でているような気がします。


 小さな赤いりんごをひとつとってみても、よくよく見ると赤だけでなく黄緑や茶もあり、深い色合いを

作り出しているのがわかります。夕焼けも、私は真っ赤よりは、ほとんど夕日が沈みかけている頃の色が
好きです。

薄墨にほんの少し茜色が残っているような空は、ため息が出るほどいい色だなあと思います。


 きっと神さまの絵の具箱には、人の心を慰め励ますような色がぎっしりと詰まっているのでしょうね。


                                  フォトエッセイ集『木もれ日のアトリエから』より
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