中島「栄21型」発動機 取扱説明書

 下の図は昭和18年(1943年)当時の「栄の取扱説明書」より複写しました。下記の説明の文面は旧かな使いですが、一部漢字は現代文字に修正しています。栄の前の「寿」の説明書は未だ外国用語をそのままカタカナに、あるいは言語のままで表示されているのが多かったのですが、「栄」ではそれが少し減り、アルファベットはほとんどありません。また、このあとの「誉」では極力日本語表示になっていて読みずらく、また用紙も図も甚だ悪いものとなっており資材不足の当時を伺い知ることができます。


第一項 起動器(スターターのこと)

 起動器は電動慣性起動器一型にして後蓋中央部に8本のボルトにて装着せられ其の取付部は海空No.513に適応す。電動慣性起動器は慣性起動器と小型電動機とを連結せる起動器本体と電路切断器、嵌合器、昇圧器及び起動レバとより成り其の操作は操縦席内の起動レバのみに依り行い得。

 第-4401図の配線図に就き其の動作を説明すれば次の如し。

1)起動レバを押せば電路4-5が接続し1-2-3-4-5-6-7-8なる回路を形成するを以て此の回路中の電路切断器が電気的に作動し電路9-10と接続す。然る時は1-2-9-10-11-12-8なる回路を形成せられ電動機は回転し慣性起動器のハズミ車を高速回転せめ数秒にしてハズミ車は所要の回転に達っす。

2)起動レバを引けば電路4-5は遮断せられ同時に電路4-14が接続せられて1-2-3-4-14-15-13-12-8及1-2-3-4-14-15-16-17-8なる二つの回路が形成せらるゝを以て其の回路中の嵌合器は電磁石の原理により起動器噛合作動レバを引きクランク軸を回転せしめ之と同時に昇圧器が作動し恰も起動用磁石発電機を作動せしむると同様なる働きをなし点火せしむ。

3)尚本起動器は蓄電池の消耗せる場合は手動にてハズミ車を回転せしめ得る手動把手あり此の場合は起動用磁石発電機の操作も必要とす。

   第二項 起 動 

1)起動時の要領並に注意事項

イ)絞弁開度を概ね10〜15%に置き之れ以上開き過ぎざる様注意すべし。

ロ)起動前の注射は絞弁を振る事なくポンプを使用し発動機冷態時の場合は3本乃至4本程度行ひつゝプロペラを手廻しすべし。

ハ)起動後運転状態並にブースト不安定の場合は絞弁を振る事なく注射ポンプを使用し適当に補ふべし。

ニ)以上述べたる事は極寒時(大気温度概ね零度付近)を示し大気温度が10℃以上なる時起動容易なれば従来の絞弁代用にて差支へなし。

ホ)本気化器で起動時特に注意すべき事は絞弁開度を開き過ぎざることなり。斯くすることにより逆火を防止す。即ち起動を試みる場合も起動後絞弁レバーを振る必要がある場合も余り開度を大にすれば逆火し易き故細かく振るべし。

ヘ)電動機に過大の電流の流れざる如く事情の許す限り手動にて慣性起動器を数回転したる後スイッチを押す様心掛くべし。

ト)手動慣性起動器に依り起動する場合はプロペラが約半回転するを見計ひスイッチを入れ起動用発電機にて起動を試みるべし。


「注射」とは面白い表現です。これはキャブレターの中に直接燃料を注ぎ込むためのポンプの様です。自動車にもひところチョークバルブがありましたが、それと同じです。エンジンが始動しないといって、燃料を「注射」し過ぎると、星型エンジンの下側のシリンダーが生ガソリンを吸い込んでガソリンハンマーを起こしピストンを壊すことが多かった様で執拗に注意を喚起しています。このころは未だ燃料噴射が出来ておらず、3次元運動するだけにキャブレターは背面飛行や宙返り時にもエンストしないように大変な工夫が凝らしてありました。

エンジン本体透視図

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