ヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」の舞台になったスペイン内乱で、ファシスト政権側の戦闘機として活躍したフイアットCR32の発展型である。
張線を使わないW形のワ一レン型翼間支柱など、外形には多くの共通点があるが、エンジンを液冷から空冷2列星型14気筒に強化し、プロペラも定速式に変えるなど、各部に改良が加えられ、スタイルも最後の複葉戦闘機らしい技術的に洗練されたものになっている。 しかし小池さんのCR32のイラストと比べると、CR32の方がずっとイタリアらしく美しいデザイン(スタイリング)と思ってしまうのは私だけだろうか?
1938年(昭13)に初飛行し、第二次世界大戦では、バトルオブブリテンにも参加し、終戦まで、少数とはいえ、ともかく現役として使われていたとされている。 列強諸国が全て低翼・単葉・引込脚の戦闘機の開発に進んでいたこの時期に、イタリア空軍が複葉戦闘機を開発したのは、同空軍の戦闘機乗りが十字軍の騎士のように、戦闘機を自由自在に操り、敵機と渡り合う格闘戦闘を好んだからだ。
その技術的根拠は、複葉戦闘機では上下の翼がお互いに助け合って、急激な旋回時にもなかなか失速しないだけでなく、失速してもまだ舵の効きが残るため、同じ翼面積の主翼を使えば、旋回半径は小さくなり、複雑なドッグファイトの飛行ができる利点がある。 加えて開放風防が使われているのも、頬に当たる風で飛行状況を感知するために必要と、パイロットが強硬に主張したからだ。
この類の話は日本の陸海軍航空でも、97戦の後継機種開発においてベテランパイロット達が同じような考えを持っていたのはご承知の話である。 設計技術者は先進的な考えで新技術を採用したがるのに対し、運用者達は保守的な考えになるのはどの世界共通であるが、どちらが正解かは一概に言えない気がする。 技術屋が先進性を求め過ぎて、実用性や生産性を損ねた例も少なくない。
CR32は、スペイン内戦で一撃離脱戦法を具現したポリカルポフT−16に大勝していたし、CR42の最大速度などの数字は、さすがに最後の複葉戦闘機らしく、イギリスのグロスター・ゲラジエーターやわが陸軍の九五式戦闘機より優れているが、この戦闘機を開発し、量産し、使い続けたことは、明らかにアナクロニズム(時代錯誤)だった。 |