中国黒竜江省酪農乳業発展計画
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1.ベースライン調査

ベースライン調査では、小規模な草地改良技術を向上するに際しての基礎的な情報(土壌、植生、利用されている牧草等)の調査を行うとともに、当分野と関連する法令(草原法)についてその概要を把握した。

(1) 気候

安達市は中緯度、北温帯のユーラシア大陸の季節風気候区内に位置し、冷温帯大陸性半乾燥季節風気候(中国における気候区分)に属する。

主要な特徴として次の点があげられる。

  • 冬季の寒く、乾燥した気候は200日間以上続く
  • 夏季の多雨暑熱気候、時間は約120日間と短い。年降雨量は少なくて、蒸発量は大きく、その比は1:3.7である。
  • 乾燥気候で、季節風環流に加え風の通り道が狭まる影響を受け、春秋の季節風は強く、その頻度も多い。

安達市の年の平均気温(36年、以下同じ)は3.2度。年毎の気温の相違は大きくない。

年間では1月の気温が最低で、平均気温が-19.9度、最高気温が-25.4度。また7月の気温は最高であり、平均が22.8度、最低が17.9度、1月から7月は気温は月ごとに上昇し、月あたりは6.1度上昇する。3から4月には気温の上昇度合い最も大きく、月あたりは11.2度上昇する。8から12月には気温は月ごとに下がり、月当たりでは7.48度下がる。10から11月に気温が下がるのは最も速く、月あたりは11.5度下がる。歴史上の最高気温は39.5 度(1979年7月24日)、最低気温-44.3度(1915年1月21日)である。ここ100年来、安達地区の気温は次第に上昇してきている。この50年、平均気温で0.8度、最高気温は0.6度、最低気温は1.1度上昇した。

市内においても気温の違いがあり、南部の有効積算気温は2800度、北部では2600度となっている。

安達市の年の日照時間合計は2659時間、年輻射エネルギーは125.77kcal/平方cmであり、農作物の成長に支障はない。

安達においては降雨量は6〜9月に集中している。1993年降雨量は536.1mmであるが、春季(3〜5月)が26.8mm(年間降水量の5%)、夏季(6〜8月)が400.1mm(74.63%)、秋季(9〜10月)が93.8mm(17.50%)、冬季(11〜翌2月)が15.4mm(2.87%)となっている。

近年の平均降雨量は419.7mmで、年間降水量の最も多かったのは680.5mm(1960年)、最小は248.2mmの(1989年)である。

区域内の降水量分布は均一ではなく、東北地区の降水は比較的多く、430mm以上ある。一方で南西地区は少なく、400mmより少ない。

安達における風に関する季節的な変化は明らかである。春秋には北西風と南西風が交互し、風が吹く頻度は年間で最も多く、風速も年間では最も大である。夏季は南西の風、冬季は北西の風が多い。ここは黒竜江省の中でも風の多い地帯である。年間の風速は3.2〜5.2m/秒、平均の風速は3.9m/秒である。各月の風速を見ると、1月、8月は最小で、平均に3.2m/秒である;3月、4月、5月、10月は比較的強く、平均4.65m/秒となっている。

(2) 水文

安達市は松花江の北岸、嫩江の東岸の「江北湿地」に属する。境界内には自然の河川はなく、水は域内で閉じた状態となっており、域外に流れ出ることは無い。区内には19の沼がまばらに分布しており、その中の5つの沼は貯水池に改造されている。60-70年代、肇安新河が人工的に掘削された。それは全長が124km、最大流量は30立方m/秒である。1976年、全長が41.8km、流量7.5立方m/秒の任民引渠を人工的に建設した。

地下水は多く掘削される第4紀層の表層地下水と被圧地下水の2種類があり、双方合計貯水量は約74.13億立方mになる。

年取水可能量は5.86億立方mになる。その中、表層地下水は3.06億立方m、被圧地下水は2.8億立方mとなる。表層地下水は深さ2〜8メートルである。汚染を受け、水質は悪い。塩類濃度は6〜8mg/リットル、総アルカリは7.6〜19.0mg/リットル、フッ素含量は2〜4mg/リットルである。一方被圧地下水を含む層は約20m前後の深さにある。水質は良く、塩類濃度7.2mg/リットル、総アルカリは6.3〜1.5mg/リットル、フッ素含量は0.67〜1.5mg/リットルである。

(3) 土壌と農業

安達市の土壌区分

安達の土壌は東アジア大陸地帯土壌の黒土地帯にある(中国での区分)。安達の土壌は次の6つの土壌区分に分けられる(いずれも中国における区分である)。

  1. 黒色石灰質土類
    通称"黒土"。草原土壌よりもアルカリ度は弱く、安達市の主要な農業用地となっている。面積は10.35万ヘクタール、全市の土壌の面積の31%を占める。
  2. 草原土類
    主に平原がゆるやかに窪んでいる地形の所に分布する湖積土壌。面積は17.22万ヘクタールで、全市の土壌の面積の52%を占める。地形の関係で地表水、地下水が集まり、これによりアルカリ性の塩分が集積する。耕地に用いるのに適さず、草原として主に放牧利用される。
  3. 沼沢土類
    平原の凹部、沼(当地では「泡」と称する)の周囲に分布する。塩分が極度に集積しており、加えて通気性に乏しい。降雨時期には滞水し、耕地には適さない。面積は1.23万ヘクタールで、全市土壌の3%を占める。
  4. 塩土類
    面積が2.01万ヘクタール、全市の土壌の面積の6%を占める。草原塩土、アルカリ化塩土、沼沢塩土に細区分される。
  5. アルカリ土類
    面積1.81万ヘクタール、全市の土壌の面積の5%を占める。平原の低地に分布する。
  6. 砂土類
    沼の周囲にあり、砂丘状をなしている。面積は0.4万ヘクタール、全市の土壌面積の1%を占める。土質は痩せており、風により浸食されやすい。耕作に適さない。

黒龍江省南部(哈爾濱〜大慶間)の土壌と農業

哈爾濱から安達を経て大慶に至る高速道路(哈大高速公路:延長約150km)周辺の土地利用状況を見ると、下記のように大きく3つに区分される。

  1. 哈爾濱〜肇東のやや東の間
    トウモロコシを主体とする純然たる耕種農業地帯であり、一部に小規模な草地が見られる他は畑地となっている。また哈爾濱近辺には一部水田も見られる。
    このようなことから土壌は前記の「黒色石灰質土類」ではないかと思われる。
    なお、おなじくトウモロコシであっても安達近辺よりも単収は高い。これは土壌の性質がより作物栽培に適している(土壌ph、肥沃度等)ものと考えられる。
  2. 肇東のやや東〜安達近辺
    肇東は哈爾濱と安達の中間やや哈爾濱寄りにあるが、肇東のやや東側から安達にかけては草地(放牧地)と耕地が交錯している。
    「黒色石灰質土類」のところに耕地が、「草原土壌」のところに草地(放牧地)が立地しているものと思われる。
    なお、同じく放牧地であっても草生状況に違いが見られる。比較的草の生育が良いところと、夏季になっても緑に乏しいところがある。これは土壌の違いに加えて草原の管理状況、特に放牧圧による違いという要因も大きく、長年にわたって強放牧を続けてきたところは草生が衰退したものと思われる。
  3. 安達と大慶の間
    安達近辺は上記2に記したと同様な草原が続くが、大慶に近づくと湿地〜沼地に変化する。

プロジェクトサイト(酪農サイト:友誼牧場)の土壌と土地利用

プロジェクトサイト(酪農サイト)となっている友誼牧場は「草原土壌」に立地し、粗放的な土地利用を行っているが、牛の使用方法は舎飼いを主体としており、草地からは年1回の刈り取り利用(乾草調製)を行っている。(他に比較的土壌の良いところでトウモロコシを栽培してサイレージ調製を行っている)

なお、プロジェクトサイト周辺を含む航空写真("Google Earth"による)を次に示す。

緑色の区画された部分は農地、白色部分は主に草原。プロジェクトサイトは画像の中央やや右寄りにある。

(4) 土壌の分析

土壌分析は、プロジェクト開始当初は当プロジェクトの乳製品製造(チーズ)担当長期専門家に依頼するとともに、1件については日本の家畜改良センターに依頼して分析した。その後は黒龍江省畜牧研究所に依頼して行った。ただし、分析機器の関係から畜牧研究所では現時点ではpH及び窒素含有率のみ分析可能とのことであり、今後はpH及び窒素含有率以外の成分分析(リン酸、カリウム、カルシウム等)ができるのかどうか、また他の機関にこれら成分分析も含めて分析依頼できるのかどうか調べる必要がある。

土壌分析結果(1)

(含有率単位:%)
 pH水分固形分うち
NaCl
有機物固形分中
の有機物割合
土壌水分中
の塩分濃度
放牧地、表層5cm以内10.1619.3480.660.198.4610.490.98
放牧地、深さ20cm9.894.9795.030.154.064.273.02
採草地、表層5cm以内8.3011.5888.420.2712.3914.012.33
採草地、深さ20cm9.7315.5384.470.2010.6012.551.29
トウモロコシ栽培地、表層5cm以内8.097.3592.650.2115.5216.752.86
サンプル採取場所:友誼牧場
サンプル採取:2002年7月2日  分析:2002年8月12日
分析担当者:当プロジェクトの乳製品製造(チーズ)担当長期専門家
単位:%(pH以外)

土壌分析結果(2)

pHNH4-NNO3-NP2O5K2OCaOMgOCEC燐酸吸
収係数
腐植
トルオグ法ブレイ法
10.511.360.444.146.574.132,380177.916.252501.6
サンプル採取場所:友誼牧場
サンプル採取及び分析:2002年9月
分析機関:家畜改良センター
単位:mg/100g土壌(pH、燐酸吸収係数、CEC、腐植以外)、%(腐植)

(5) 草地の植生

安達の草地の多くはアルカリ性の強い「草原土壌」に立地しており、放牧草の主体は羊草である場合が多い。また草原土壌の中で比較的アルカリの弱い部分に草が生え、これを取り囲むアルカリの強い部分には植生が乏しい(ほとんど何も生えていない)ことが多い。また植生部分は周囲の強アルカリ土壌の中に島状になっている場合が多いが、この中央部分は羊草が無くなり、雑草が主体になっている場合が多い。このような草地内の植生状況の変異については更にその理由等を解明する必要がある。

(6) 禁牧措置及び草原改良

禁牧措置は次項で述べる「草原法」に基づき行われているものであるが、ここでは技術的側面について述べる。

中国の東北部及び西部の草原地帯では、経済発展と農業・牧畜振興施策により家畜飼養が増えたが、その主要な飼料資源たる草原については、ほとんど改良を施すことがなかった。このため、放牧圧が高まり衰退した草原が増え、大きな問題となっている。

他の地域の状況は不明であるが、当地では草原は末端の行政機関(郷、鎮)が所有し、農家はこれを利用するが、施肥等の管理は行わない。ここを管理する行政機関も実質的には施肥等の草原を改善する方策は全くとっていない。

また草原の利用は、、当該集落の農家(複数)が随時草の状況を見ながら、良い草のある所に放牧するのであって計画的に行うのではない。草地の牧養力を超える頭数が放牧されるようになり牧草が衰退してきても、草地を維持するために放牧頭数を減らして計画的に放牧するということは行われてこなかった。また当地では牛糞は乾燥させて燃料としても用いられるため、草原に落とされた牛糞もほとんどが持ち去られてしまう。農家に聞くと「牛糞は持ち去らない」と言っているが、実際には草原は過放牧であり、多くの牛糞が残されているはずであるが、実際には牛糞はほとんど見られない。

このように草原は放牧利用するが、施肥等の草原を維持、改良する措置が全くとられないままに経過し、草地は衰退してきており、場所によっては裸地化がかなり進行してきているものもある。

このことを背景に草原法が改正され(草原法の改正については事項参照)、2004年より禁牧措置がとられるようになった。禁牧措置により放牧は禁止され、禁牧されているところの多くでは年に1回の採草のみが行われている。しかし、施肥は全く行われていない。(草原に施肥するということは全く考えられていない。)


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