1999.9.6

Philadelphonic
G. Love & Special Sauce
(Okeh/550 Music)

for What's In? Magazine

 フィラデルフォニック。G・ラヴが運営するインディ・レーベル名そのものをアルバム・タイトルに冠した新作。2年ぶりのメジャー第4作だ。俺の街で生まれる音楽ってのはこれなんだぜっ! という、フィラデルフィアからやってきたホワイト・ソウル・ボーイとしての気概に満ちたタイトルにまず胸が奮える。音のほうも心機一転。ヒップホップ感覚をまぶしながらブルース/フォーク/カントリー/R&B/ファンクなどルーツ・ミュージック魂まるだしでぶっとばす……といったこれまでの手触りを下敷きに、しかし表面的な音作りの方向性をぐっと洗練した感じ。G・ラヴの視点が50年代フィラデルフィアから60〜70年代のフィラデルフィアへと移ったということだろうか。70年代ニュー・ソウル/スウィート・ソウル色や60年代末ふうポップ・ソウル色が8割増し。

 とはいえ、若者のくせして長年ルーツ・ミュージックにどっぷり浸かってきた男だけに、表層をいくら洗練させたところでぶっといボトムは変わらない。頼もしい。ある意味じゃ、これぞ理想的な90年代版ブルー・アイド・ソウル。素晴らしい1枚だ。演奏の中核を成す楽器はG・ラヴのギターとハーモニカ、ジム・プレスコットのウッド・ベース、ジェフリー・クレメンズのドラムという、これまでと変わらぬものながら、それぞれの表現力の幅がとてつもなく広がっている。楽曲そのものもこれまで以上にポップかつ緻密に構築されているようだし。ヒップホップ感覚との融合に関しても過去どのアルバムよりも絶妙だし。売れるか?


Live
Tower Of Power
(Epic)

 曲折を経て、ガリバルディ&ロッコの最強ドラム&ベース・コンビが再結集したタワー・オヴ・パワーの新作は、去年のワールド・ツアーから、地元カリフォルニアでのパフォーマンスを収めたライヴ盤。去年の9月の来日公演時と同じラインアップだ。

 エミリオやドックといった、タワー・オヴ・パワーになくてはならないホーン陣ももちろん健在。新たに加わったトランペッター、ジェシー・マクガイアもすごいね。新旧プレイヤー入り乱れて、相変わらず鉄壁のTOPサウンドを聞かせてくれる。

 エミリオがリード・ヴォーカルをつとめる3曲以外は、近年のヴォーカリスト、ブレント・カーターによるもの。とはいえ、唯一無比の切れ味を誇るホーン・アンサンブルと屈強のドラム&ベース・チームによる脅威の16ビート・ファンク・グルーヴさえあればタワー・オヴ・パワーは無敵だ。古い曲から近作まで。ばっちりです。

 これで、チェスター・トンプソンとグレッグ・アダムズがいてくれれば……って、それだったら昔のアルバム聞いてろってか(笑)。あ、そういや、もうすぐライノから2枚組ベストも出ます。唯一未CD化だったシングルB面曲「ストローク75」も入ってるとか。国内盤も出るみたいです。



The Austin Sessions
Kris Kristofferson
(Atlantic)

 以前、ドン・ウォズをプロデューサーに迎えてリリースされたアルバムでも、この人ならではの本来の持ち味のようなものが再評価されていて。しばし愛聴盤になっていたのだけれど。今回のもいい感じ。ジャクソン・ブラウン、スティーヴ・アール、ヴィンス・ギル、アリソン・クラウス、マーク・ノップラーらをデュエット・パートナーに迎え、往年の代表曲(「ミー・アンド・ボビー・マギー」「フォー・ザ・グッド・タイムズ」「ヘルプ・ミー・メイク・イット・スルー・ザ・ナイト」「ホワイ・ミー」などなど)を再演した1枚だ。

 タイトル通り、オースティンでのアコースティック中心のセッション。しみます。この人の鉄壁のストーリーテラーぶりにも磨きがかかり、これはもう大人でないとわからない超美味な仕上がりです。



Gentleman Of
Leisure

Jesse Winchester
(Sugar Hill)

 ジェリー・ダグラス、ジョン・ガードナー、スティーヴ・クロッパー、ヴィンス・ギルらのバックアップを受けながらナッシュヴィルでレコーディングされた新作。

 これが、けっこうあなどれない出来。いい曲いっぱい入っているし。ちょっとトロピカルな味わいをたたえたような、あるいはポップ・ソウルっぽいような楽曲が特にいい。かつての恐怖のダブジャケ髭面4連発ファースト・アルバムのような迫力はさすがにないものの、いまだいい味出しながら歌い続けているんだなぁ……という事実にほのぼのしちゃうような1枚です。

 渡り者に惚れちゃいけないぜ……的な「フリーホイーリン」とか、いいっすよ。



Brand New Year
The Bottle Rockets
(Doolittle)

 せっかくメジャーのアトランティックと契約が決まって本格的に進撃開始かと思ったら、完成した新作アルバムを長らく寝かされたあげく、ようやくリリースされてツアーに出たとたん、いきなり契約終了を宣告されてしまったという悲劇のルーツ・ロック野郎たち、ボトル・ロケッツ。

 でも、彼らはめげることなくドゥーリトル・レーベルと新規契約を果たして再始動。野太いアメリカン・バー・バンドとしてのアイデンティティを再度強調するかのような本作をリリースした。全体によりハードになったかな。ほっとしました。

 ただ、歌詞の面ではちょっと自虐/屈折が目立ち始めたかな。仕方ないとは思うけど(笑)。がんばれっ。



Songs About
Cowgirls

Protein
(Work)

 サンフランシスコの3人組のセカンド・アルバム。ファーストは買わなかったんだけど、今回、このタイトルに惹かれて買っちまいました。

 仕上がりはほぼアルバム・タイトルとジャケットから想像できる通り。エネルギッシュかつブライトなギター・リフと、勢いあるハーモニーと、毒のある歌詞と。ずば抜けた楽曲はないけれど、あまり期待せずに買ったので、それなりに楽しめました。新世代のカウ・パンクみたいな?



Make The Music
2000

Rahzel
(MCA)

 ザ・ルーツの一員であり、“ゴッドファザー・オヴ・ノイズ”を自称するヒューマンビート・ボックス野郎のソロ・アルバムだ。

 シングルの「オール・アイ・ノウ」とか、ビズ・マーキーの「メイク・ザ・ミュージック・ウィズ・ユア・マウス、ビズ」をリメイクしたタイトル・チューンとか、スリック・リックをゲストに迎えた「ナイト・ライダーズ」とか、Qティップ絡みの「トゥ・ザ・ビート」とか、なかなか聞き物も多い。

 個人的には近ごろヒップホップ・アルバムに胸ときめくことがめっきり減っちゃってるのだけれど、これはわりと楽しめたかな。



Katharine Whalen's
Jazz Squad

Katharine Whalen's
Jazz Squad

(Mammoth)

 スクァーレル・ナット・ジッパーズの歌姫(&バンジョー奏者)、キャサリーン・ホエールンのソロ・プロジェクトによる初アルバム。このユニットでツアーもやっているらしく、けっこうリキの入った1枚だ。

 オリジナル曲もあるけれど、基本的には「ディード・アイ・ドゥ」「ノー・グレイター・ラヴ」「イエスタデイズ」「ナウ・オア・ネヴァー」「ザット・オールド・フィーリング」など、往年のジャズ・ソングのカヴァー。ビリー・ホリデイ好きというキャサリーンさんの趣味全開の仕上がりだ。

 ポスト・パンク的な屈折をはらんだナット・ジッパーズより、ぐっとストレートに憧れの音楽にアプローチしている感じ。その辺を物足りないと思うか、こっちのほうが素直でいいと思うかで評価が変わりそうかな。ぼくはちょっと物足りなかったけど、好感度は高し……です。



The Lady In Red
The Hot Club Of
San Francisco

(Clarity Recordings)

 なーんと、マイク2本でステレオ2チャン録音されたというホット・クラブ・オヴ・サンフランシスコの新作。バンド名からわかる通り、ジャンゴ・ラインハルト好きの西海岸野郎たちなわけで、基本的にはインスト。でも、マニア・マルダー、ダン・ヒックス、バーバラ・デインの3人がそれぞれ1曲ずつヴォーカルを披露している。まあ、ぼくとしてはこのヴォーカルものが聞きたくて買ったわけですが。

 マリア・マルダーは「ラヴァー・マン」を再演。これも悪くないけど、ダン・ヒックスの「エヴリシング・ハプンズ・トゥ・ミー」がよいです。



Farmisht,
Flatulence, Origami,
ARF!!! and me...

Lee Hazlwood /
Al Casey Combo

(Clarity Recordings)

 これもジャズ/オールド・タイム系の1枚。

 ナンシー・シナトラの往年のデュエット・パートナーとして、あるいはデュアン・エディやアストロノウツをはじめとする様々なアーティストのプロデューサーとしておなじみの重要人物、リー・ヘイズルウッドが25年以上ぶりに放つソロ・アルバムだ。しかも、バックをつとめるのはこれまたベテラン、アル・ケイシーのバンド。で、何をやっているかと言えば、「ハニーサックル・ローズ」「エイント・ミスビーヘイヴン」「イット・ハッド・トゥ・ビー・ユー」「ドント・ゲット・アラウンド・マッチ・エニーモア」「メイキン・フーピー」といったグッド・オールド・スタンダード・チューンばかり。

 ヘイズルウッドの復活ならば、オリジナル曲で聞きたかったという思いはあるものの、これはこれでけっこうよいです。ジャズ・ソングばかりなのに、どこかカントリー色が漂うところもグッドっす。



The Lost American
Songwriter:

Bare Bones II
Tom Pacheco
(Road Goes On Forever
Records)

 名盤『ウッドストック・ウィンター』のプロデュースもつとめた現ザ・バンドのギタリスト、ジム・ワイダーと二人で仕上げた2枚組。副題通り『ベア・ボーンズ・アンド・バーブド・ワイア』の続編的な作品だ。

 今の時代、真っ正直なシンガー・ソングライターとして歌い続けていくことの苦悩と誇りが交錯。武士は食わねど…っぽいニュアンスがうっとうしいと思えるムキには、さすがに2枚組というボリュームがキツイかも。むずかしいところだな。

 好感をもって接することが前提となるアルバムだけど、そうやって聞けば胸が震える瞬間、少なくないです。



MOM 3
Various Artists
(Surfdog/Hollywood)

 出るたびに紹介しているベネフィット・コンピ。3作目にはベック、バットホール・サーファーズ、スヌープ・ドッグ・ウィズ・レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、リサ・ローブ、ジェインズ・アディクション、パール・ジャム、ジミー・バフェット、ジェームス・テイラー、クリス・アイザック、ポール・マッカートニー、ベン・ハーパー、エヴァークリア、スマッシュ・マウスなどがそれぞれ新録/旧録を提供。

 で、ぼくたち、君たちの最大の興味は、ノッケに収録されているウィルソン&セッツァー、ダブル・ブライアンの共演による「リトル・デュース・クーペ」なわけですが。まあ、それほどすごい出来ってわけじゃないです。でも、両者のファンとしてはやっぱり押さえておきたい1曲かも。まだプロデュース・クレジットにはジョー・トーマスの名前あり(笑)。どうせならブライアン・セッツァー・オーケストラでやってくれればよかったのにね。




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