
1998.2.10

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Train Kept
A-Rollin'
Paul Burlison
(Sweetfish)
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またまた遅まきながらの紹介ですが。
以前紹介したスコッティ・ムーア&DJフォンタナの盤に続いて、去年の9月ごろ、同じスウィートフィッシュ・レコードから出た強力なロカビリー・トリビュート・アルバム。ようやく渋谷タワー・レコードで見つけました。うれしい。
スコッティ&DJは初期エルヴィス・プレスリーをバックアップしていた連中としておなじみだけど、こちらのポール・バーリソンはジョニー・バーネットのとこにいた人。ジョニー&ドーシー・バーネットとともに、不滅のザ・ロックンロール・トリオを形成していたグレイト・ギタリストだ。ヤードバーズがカヴァーしたことでも知られる――あと、日本じゃ「レモン・ティー」としても知られる(笑)――「トレイン・ケプト・ア・ローリン」のオリジネイターですよ。
そんなごきげんなバーリソンへの敬愛を炸裂させつつ、ここで彼をバックアップしているのは、レヴォン・ヘルム、リック・ダンコ、メイヴィス・ステイプル、ギャリー・タレント、キム・ウィルソン(ファビュラス・サンダーバーズ)、デイヴィッド・ヒダルゴ&セサル・ロサス(ロス・ロボス)、DJフォンタナ、そしてドーシー・バーネットの息子であるところのビリー・バーネットなどなど。
スコッティ&DJの盤に比べるとちょっと地味なラインアップだけど、むしろ色合いがピンポイントっぽく凝縮されているぶん、かっこいいかも。ミックスを手がけたのは、佐野元春ファンも注目のジョン・ホルブルックさん。
スワンプ/カントリー・ロックのどしょっぽねを存分に思い知らせてくれるノリノリの1枚です。
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Low Estate
Sixteen Horsepower
(A&M)
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コロラド出身のちょっと不思議なルーツ・ロック系バンド。確かこれが3枚目かな。
トワンギー・ギター、フィドル、バンジョー、アコーディオン、チェロといった楽器を面白く組み合わせて聞かせる感じは変わらず。以前よりもドライヴ感は増したようだ。演奏にさらなる推進力が備わってきた。
とはいえ、そういう、とことん陽気になってもよさそうなアレンジを施しているにもかかわらず、なぜかぐーっとダークなイメージで全編覆い尽くされているのも相変わらず。人はみな、あらかじめ罪人として生きていくしかない…というような、なんつーか、こう、独自の宗教観というか、人生観のようなものがあるらしくて。かといって聞く者に懺悔を強いるわけでもなく、自ら懺悔するわけでもない。アメリカ中西部の森の奥の教会とかに足を踏み入れたら、すんげえやばそうな牧師が出て来ちゃったみたいな感じ? なんだかよくわかんないけどさ。
デイヴィッド・バーンとかボノとかに影響を受けたのかなと思わせるリード・ヴォーカルのトーンがダークなせいかもしれないけれど。ともあれ、『ツイン・ピークス』とかの底辺に流れていた、あのやばいアメリカの感じを、より見えやすい形で構築しようとしている連中。その味はこの新作にもうまい具合に反映されている。暗いけど、かなり引き込まれるのは確かだ。
アメリカの人間椅子みたいなものか? 違うか。
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Barrel Chested
Slobberbone
(Doolittle)
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インナー・ブックレットの最後に、小さく "Remember: It's rock." って書いてあって。ほぉ……って思ったんだけど。
けっこう重厚な音圧でまくしたてるテキサス出身の3人組。最近4人になったらしい。これがセカンドだと思う。少なくともぼくにとっては2枚目。トゥワンギーなグランジとでも言いますか(なんだ、それは)。けっこう強力なハード・ロック・グルーヴを聞かせたかと思うと、突如、生ギターのカントリー・ピッキングとドプロが軽快に鳴り響く曲が出てきたり、で、その曲のサビではバンド全体がまたまたとんでもない音圧でドイガガ・ドイガガ……とカントリー・ビートをぶちかましたり。
クレイジー・ホースみたいだなと思う瞬間もある。Eストリート・バンドみたいだなと思える瞬間もある。サウンドガーデンみたいだと思う瞬間もある。ちょっと気になるバンドかも。それなりに味わい深い曲、書いてます。これもオルタナ・カントリーになっちゃうのかな?
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Caught in a Trap
and I Can't Back Out
'Cause I Love You
Too Much, Baby
Mark Eitzel
(Matador)
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エルヴィス・プレスリーの「サスピシャス・マインド」の歌詞をもじったアルバム・タイトルが面白い……つーか、なげーよ、まったく。
アメリカン・ミュージック・クラブ解散後、たぶん3枚目のソロ作。これがいちばんいい出来なんじゃないかな。去年、ピーター・バック絡みで話題になった『ウェスト』よりも、ぼくは好き。アルバム前半が生ギター弾き語りによる、あの独特な、ティム・ハーディンというか、チェット・ベイカーというか、まあ、そういうつぶやきヴォーカルで淡々と綴る感じで進んで。途中、5曲目からキッド・コンゴ・パワーズによるノイジーかつイマジネイティヴなエレクトリック・ギターが絡んできて、6曲目から、最近ソロ・プロジェクトも評判がいいジェイムズ・マックニュー(ヨ・ラ・テンゴ)のベースと、スティーヴ・シェリー(ソニック・ユース)のドラムが入ってきて、どんどんずぶずぶの世界になっていって、で、最後の2曲がまた弾き語り。
当然、輸入盤には歌詞も何も付いてないので、ちょっと厳しいけど。かなり巧妙に組み上げられた韻も含めて、じっくり付き合ってみたくなる1枚です。ずぶずぶだけど。
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Got No Shadow
Mary Lou Lord
(Work/Sony)
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以前、キル・ロック・スターズ・レコードからミニ・アルバムを2枚くらい出していたコだよね。たぶん。ポール・ハーディングとかジュリアナ・ハットフィールドとかが参加したバンド・サウンドもあったものの、他は大方アコースティック・ギター弾き語りだったように記憶している。違ってるかもしんない。ブツがどこ行ったかわかんなくなっちゃってるもんで(笑)。
で、いよいよメジャー・デビュー盤が登場。今回は大方がバンド付き。ジェイソン・フォークナーが関わっていたスザンナ・ホフスのアルバムとか、ああいうのに近い、ジャングリー・ギター・ポップの要素も取り入れたフォーク・ポップって感じかな。自らの曲と、ニック・サロマン(どういうつながりだ?)の曲、および共作がほとんど。カヴァーもいくつか入っているけれど、中でもフリーディ・ジョンストンの曲を取り上げているのがよいですね。いいセンス。
日本で人気が出そうな気もする。
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Growing, Pains
Billie Myers
(Universal)
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私、デズモンド・チャイルドって好きでね。キッスとか、ボン・ジョビとか、ジョーン・ジェットとかにバカポップな楽曲を提供してきたプロデューサー/ソングライター。自分のソロ・アルバムとかだと、気取っちゃうのか、ハードめのAORみたいになっちゃって面白くないんだけど。他人に提供する楽曲のえぐさときたら、もうごきげんで。日本で言うと、相川七瀬に曲提供しているときの織田哲郎みたいな。ああいう感じ。好きなんですよ。
で、そんなデズモンド・チャイルドが見出した新人女性シンガー・ソングライターだって言うので、もう期待しまくりで聞いてみたら。
これはまじでした(笑)。いや、別にふざけたものを期待していたわけじゃないけど。けっこうスケールでかめの真摯なシンガー・ソングライター。歌声も深いし。でも、そうなると、デズモンド・チャイルドのプロデュースでよかったのかなぁ……という気もする。マイケル・ボルトンのアルバム聞いてるみたいなアレンジなんだもん。そのほうが売れるの? 個人的にはもうちょいシンプルかつ生っぽい音で聞いてみたいアーティストです。
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Little Plastic Castle
Ani DiFranco
(Righteous Babe)
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日本でもすっかり人気者となったディフランコおねーたまの新作。12枚目? 13枚目? よくわかりません。96年の『Dilate』ではじめて彼女のことを知ったぼくにとっては4枚目くらいのアルバム。
テキサス州オースティンでのレコーディング。ホーンを導入してアフリカっぽいビートを取り入れていたり、全体にこれまで以上にバンドっぽい仕上がりになっているようだ。自分が弾く生ギターと、おなじみアンディさんのドラムとだけで展開するライヴ・ビデオを見たことがあったけれど、そこでも発揮されていたごきげんなタイム感というか、グルーヴというか、そういうものがより研ぎ澄まされた感じ。切れ味は相変わらず鋭い。
ラストに14分の大作が入っていて。そこで展開される静かなジャムに、この人の底力を見る。
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Cold and Bouncy
The High Llamas
(V2/Alpaca)
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前作『ハワイ』をもって、「キャビネッセンス」徹底再現路線も一区切りってとこだろうか。ハイラマズの新作は、ブライアンとかバカラックとかドナルド・フェイゲンとか、自らのアイドル・ソングライターたちの要素を宅録風味たっぷりの今様ムーグ・ポップとして再構築した感じの仕上がり。
もちろん、楽曲は相変わらず『ペット・サウンズ』〜『スマイル』時代のブライアンっぽいものだけれど、以前よりも“今”との接点が明確になった気がする。ただねぇ、どうも腰がすわってない感じがしちゃうんだよなぁ。太さがないというか。それがむしろハイラマズの持ち味なんだとは思うものの。おかげでぼくは、ハイラマズの音、あまり長く聞いてらんないです。好きなんだけどね、基本的には。
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Time Peace
Terry Callier
(Verve Forecast)
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『ターン・オン・ユア・ラヴ』が懐かしい、テリー・キャリアーの新作。ロンドンのアシッド・ジャズ・シーン周辺で再発盤とかいろいろ出て、若い世代のリスナーの間でも今やけっこうな人気なんだってね。知りませんでした。
ファラオ・サンダースとかも含むホーン群のいいプレイも続出。渋いリズム・アレンジも気持ちいい。曲も深い。R&Bチャートで過去1曲しかヒットのない人だけど、カーティスあたりにも通じるフォーキーなシカゴ・ソウルの担い手としてはやっぱり忘れられない個性だけに、この復活はうれしい。ぼわっとあたたかい歌声もしみます。
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