1998.1.13

Naked Baby Photos
Ben Folds Five
(Caroline)
 タイトルが表わす通り、デビュー以降現在まで、バンド活動初期のありのままの姿を一気公開した感じのニュー・アルバム。96年の東京・渋谷クラブ・クアトロでの音源も含む各地でのライヴ・ヴァージョンを中心に、デモ・ヴァージョン、オリジナル・シングル・ヴァージョン、スタジオでのサウンド・チェックのときに録音されたもの、ラジオのためのライヴ、ファースト・アルバムからのアウト・テイクなどで構成されている。

 でも、内容は充実。曲がいいし。セカンド・アルバムではベン・フォールズのソロ色も強まってはいたものの、本盤を聞くとやっぱりこいつらはバンドなんだなぁということを改めて思い知る。まあ、これで一区切りつけて、次のステップへと向かうということだとすると、今後大きく持ち味が変わってくる可能性もないとは言えないけど。

 ファン以外の人が聞いたら散漫に思えるかもしれない1枚。でも、ファンにとっては必携の1枚。1曲ごとにベン・フォールズがコメントを寄せているのだけれど、その中で日本の観客について、「曲が終わったことがわかんなかったみたいで、おかげでレコーディングするには絶好だった」とか「『フリー・バード』がヒットしてない国ではバラードがやりやすいね」とか語ってて。ちょい複雑な気分。



Controversial Negro
The John Spencer
Blues Explosion

(Toy's Factory)
 日本からのオファーで実現したライヴ盤。アメリカでプロモーション盤として出回っていた96年11月、アリゾナ州トゥーソンでのライヴ音源に、さらに2曲を加えたものだ。12月アタマの発売ですが、ちょっと遅れて入手しました。

 ロックンロールとかブルースが持っている原初的な衝動のようなものだけを思い切り研ぎ澄ましたこいつらの音には、ほんと、惹きつけられる。今回はライヴってこともあって、その勢いがさらに20パーセント増しって感じ。乱暴な部分ばかりが目立ちがちなバンドだけれど、こうした原初的なパワーを効果的に炸裂させるための確かなテクニックなり、ルーツ・ミュージックに対する深い洞察なりをメンバー全員が持ち合わせているのがポイント。そこんとこを見逃しちゃもったいない。

 なんか、この人たちの評価って、“音楽的背景だとか、そーゆー細かいこと言わずに、えーいっ、腰振っちゃえー!”みたいなものが主流になってるみたい。それでも別に聞く人それぞれの問題だからいいんだけどさ。アメリカの民族音楽としてのロックンロールとかブルースとか、そういうものが今ひとつ体系的に身体にしみ込んでいない日本人リスナーとしては、もうちょいその辺の背景に興味をもったほうが、より有効にこの人たちのすごさを体験できるんじゃないかと思うのだ。ベックにせよ、この人たちにせよ、そのすごさの2割くらいしか語られていない気がして。

 なんてさ。おぢさんロック・ファンはうるさいね、毎度(笑)。



Featuring...Ice Cube
Various Artists
(Priority)
 これ、面白くて、うれしいコンピレーションだ。他アーティストのアルバムに出向いたもの、あるいは自分のアルバムに他アーティストを迎えたもの、取り混ぜて編まれたアイス・キューブの共演集。90年の『AmeriKKKa's Most Wanted』に入っていたチャック・Dやヨー・ヨーとの共演曲から、97年、ドクター・ドレとともに参加したスカーフェイスとの共演曲まで。KHOPをフィーチャーした新曲も1曲。90年代のギャングスタ・ヒップホップ・サウンドの変遷をたどるにも絶好だ。

 クール・G・ラップの『Live And Let Die』に入ってた曲とか、WCアンド・ザ・マッド・サークルとの曲とか、好きだったなぁ。

 93年の『Lethal Injection』で、ジョージ・クリントンと共演した「バップ・ガン」は、当時、すごく複雑な気分になった1曲。ファンカデリックの「ワン・ネーション・アンダー・ザ・グルーヴ」をもとに作り上げた作品で。かつて日本人であるぼくはこの曲を聞きながら、“ひとつのグルーヴのもとに集った者の心はひとつ”というコンセプトに胸を震わせたわけだけれど。しかし、少なくともこのアルバムでは確実に部外者だった。アイス・キューブとジョージ・クリントンの爆発的なコンビネーションのもとで謳歌される“ワン・ネーション”のヴィジョンは、ぐっと閉鎖的。間違いなく黒人だけのネーションだった。

 もちろん、ぼくが単に甘い夢を体感していただけだったのかもしれないけれど。良くも悪くも、いろんな意味でヒップホップが大きな曲がり角に差し掛かりつつあったことを思い知らせてくれた、まあ、思い出の1曲ではありますね。



Live
Erykah Badu
(Kedar/Universal)
 最近、渋谷あたりの輸入盤屋さんに行くと、これがよく店内BGMとしてかかってますわ。去年の4月、この人のファースト・アルバムをここで紹介したときは、もっとヒップホップ寄りの感覚を持った人だと思っていたのだけれど、ファースト・アルバムでのあの感触はサウンド・クリエイターたちによるところが大きかったのかも。本ライヴ盤では、よりニュー・クラシック・ソウルというか、フュージョンというか、ジャズというか、そっちに寄った個性を発揮している。たぶんこの人本来の持ち味に寄ったものなんだろう。

 ファースト・アルバムからの曲のプロモーション・ビデオとか見て、けっこう芝居っ気の強い人なんだなということも知った。今回は妊娠中、おっきくなったおなかをぽっこり見せながらのヴィジュアル展開だったりして。強そうな人だね。



Generations
Kyle Jason
(Slam Jamz/Sony)
 ニュー・クラシック・ソウル寄りってことで、これも紹介しましょう。去年の8月くらいにアメリカで出た盤。取り上げ損ねてたんだけど、12月になって国内盤も出たので、それをきっかけにピックアップしました。

 マーヴィン・ゲイとカーティス・メイフィールドの間を、ちょっとカーティス寄りのスタンスでうろうろしている感じの(どんな感じだ!(笑))人。とはいえ、チャック・Dのレーベルからのデビューってこともあり、時代感のようなものはしっかりとらえられているような気がする。96年にはPファンク・ツアーにも参加していたそうで、その辺の人脈もどかっと参加。優等生に90年代流ファンクしている手触りが、ちょっと物足りなさを感じさせるものの、何曲かかなりかっこいい作品もあり。



All The King's Men
Scotty Moore,
D.J. Fontana

(Sweetfish)
 続いて、取り上げ損ねていた盤、第2弾。やはり去年の8月ごろ、アメリカでリリースされた1枚だ。これはずっと買いたかったのに、なぜかレコード屋さんで遭遇することなく年を超しちゃった盤。通常パッケージに入ったヨーロッパ盤は何度か見かけたんだけど、先日ようやくデジパック仕様のアメリカ盤を見つけてゲットしました。今さらですが紹介します。

 50年代から60年代にかけて、エルヴィス・プレスリーのロックンロール・サウンドをバックアップし続けたギタリストのスコッティ・ムーアと、ドラマーのDJフォンタナを中心に、彼らを尊敬する様々な後輩たちが集ったすばらしいトリビュート・アルバム。ザ・バンドとキース・リチャードが共演していたり、ジェフ・ベックとロン・ウッドが再会していたりするのが、なんだかうれしい。偉大な存在を媒介にすると、夢の組み合わせも簡単に実現するってことだね。

 その他、ジョー・イーライ、スティーヴ・アール、マーヴェリックス、ロニー・マクダウェル、トレイシー・ネルソン、ボディーンズ、チープ・トリック、ジョー・ルイス・ウォーカーなど、カントリーからロック、ブルースまで、面白い人脈が勢揃い。やはり50年代、ともにエルヴィスのバックをつとめたベーシスト、故ビル・ブラックのバンドとムーア&フォンタナが共演しているのもごきげんだった。



Live On Letterman:
Music From The Late Show
Various Artists
(Reprise)
 アメリカに旅行で行ったときとか、夜はだいたいこの番組を見ている感じ。デヴィッド・レターマンの『レイト・ショー』。いわゆるトーク・ショーだけど。ゲストが豪華で。生演奏も多くて。見ながらアメリカに住みたくなったことしばしばです。お調子者です。

 で、そんな豪華な音源の中からコンパイルされた名演集。ジェリー・ガルシア&デイヴィッド・グリスマン、シェリル・クロウ、ルー・リード、デイヴ・マシューズ・バンド、アレサ・フランクリン、ポーラ・コール、エルヴィス・コステロ&バート・バカラック、ライル・ラヴェット&アル・グリーン、ヴァン・モリソン&シニード・オコナー&チーフタンズ、ジュエル&フリー、ロッド・スチュワート、REM、レニー・クラヴィッツ、パティ・スミスというラインアップだ。とんでもない取り合わせのデュエットもあって、楽しい。1曲ごとに拍手つながりで世界がどんどん変わるので、散漫っちゃ散漫なアルバムだけれど、海を隔てた日本でヨダレ流すには十分だね。

 コステロ&バカラックが、やっぱり白眉かな。



Live From 6A:
Conan O'Brien
Various Artists
(Mercury)
 で、もうひとつ類似盤。これは去年のいつごろ出たのかわからないのだけれど。こちらもNBCの人気番組『レイト・ナイト』でオンエアされた豪華なゲスト・ライヴの音源を集めた1枚。アニ・ディフランコ、デイヴィッド・ボウイ、マシュー・スウィート、ジャミロクワイ、ビョーク、また出たエルヴィス・コステロ、ケイク、ジョナサン・リッチマン、エドウィン・コリンズ、311、ソウル・コフィング、そしてスクウォーレル・ナット・ジッパーズ。

 こっちのほうがCMJ寄りというか、なんというか(笑)。レターマンのより、人選は魅力的だ。演奏もいい。1曲ごとのつながりもこっちのほうが無理がないみたい。デヴィッド・ボウイだけ、浮いてる気はするけど。マシュー・スウィートが出た回は、ちょうどハワイに行ってるとき見たので、あっ、あのときの音だ……と思ったら、これだけサウンド・チェックでレコーディングされたものでした(笑)。




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