2000.6.6

Mermaid Avenue
Vol. II

Billy Bragg & Wilco
(Elektra)

 こいつに続く第2弾。ほぼ2年ぶりに登場した続編だ。

 前作同様、ビリー・ブラッグとウィルコ(もちろんジェフ・トウィーディ&ジェイ・ベネット中心)が、ウッディ・ガスリーが残した未発表詩にメロディをつけて歌い綴った1枚。ナタリー・マーチャントやコリー・ハリスがリード・ヴォーカルを担当する曲もあり、この辺は明らかに前作を受け継ぐもの。メロディのほうは大方1995〜98年に書かれたものなので、前作のアウトテイクも多いのだろう。

 とはいえ、2000年のクレジットになっているものもある。彼らが目指したテーマおよびサウンドが特に時代性に縛られたものではないので、2年のブランクを経てもその感動は変わらない。



Smile
The Jayhawks
(Sony/Columbia)

for What's In? Magazine

 通算6枚目。結成以来の中心メンバー、マール・オルソンが脱退し、もうひとりの看板ソングライター、ゲイリー・ルーリスを中心にバンドを立て直してから2枚目にあたる新作だ。オルソン在籍時はオルタナティヴ・カントリーの旗手というか、ルーツ・ロック的な志向性と洗練された音楽センスとをいいバランスで同居させた音作りで評価を確立した彼らだが、前作『サウンド・オヴ・ライズ』からは、ストレートなカントリー・ロック寄りのアプローチは減少し、ずいぶんとウェットに、叙情的になった。今の時代に生きるサウンドというよりは、時代に流されない永遠のフォーク・ポップ・サウンドを目指し始めた感じ。

 本盤もその流れをそのまま受け継ぐ1枚だ。前作では過渡期ならではの陰鬱さが目立つ局面も多かったけれど、さすがにそのあたりはだいぶ解消。バンドとしていい状態に戻りつつあるということだろう。アルバム・タイトルが胸をうつ。1からして、いきなり往年のビージーズあたりを思わせる美メロ&美コーラスが炸裂。ペダル・スティールをはじめカントリー系の楽器もいろいろと使われてはいるものの、手触りはやけにポップだ。ループを使うなど時代の先端気分に目配りした曲もあるにはあるが、前作同様、むしろ時代感を超越した音作りを聞かせる曲のほうがいい仕上がり。

 プロデュースはルー・リード、キッス、ピーター・ゲイブリエル、アリス・クーパーら大物との仕事で知られるボブ・エズリン。この人選にも新生ジェイホークスの並々ならぬ意欲が表われている。


Mad Season
Matchbox Twenty
(Atlantic)

 REM、カウンティング・クロウズ、パール・ジャム…といった方向のバンドが大好きなぼくとしては、この人たちにも抗えるわけがありません。アメリカではフーティ&ザ・ブロウフィッシュのあとを受ける存在として、古めの表現でいえば“ヤッピー”っぽい連中の間で大いに支持を獲得しているらしい。うーむ、そういう受け方なのか。ちょっと複雑だけど。デビュー盤が長い期間にわたってバカ売れした背景にはそうした支持層がいたってことだ。

 そんなわけで、本盤もたぶんアメリカではバカ売れでしょう。今回も中心メンバー、ロブ・トーマスのソングライターとしての才能がたっぷり発揮された名曲ぞろい。いいアルバムだ。ロブさんはサンタナの「スムース」のリード・ヴォーカリストとして歌のうまさも存分に披露したし、新たなタイプのファンが目を向ける可能性もありそうだ。サンタナから学んだのか、えぐい哀愁をただよわせた曲とかもあるし(笑)。

 ただ、個人的にはなんだかギターとかの音色がラインっぽくて。音作りの面では少々物足りなさも…。



Start With The Soul
Alvin Youngblood Hart
(Hannibal/Rykodisc)

 この人、どのジャンルからの視点で語ればいいのかわからない代表だろうけど。でも、いつも素晴らしく濃密なアルバムを出してくれていて。いよいよ3枚目が出ました。ジム・ディッキンソンのプロデュースのもと、南部音楽総まくり的な作品に仕上げている。といっても、よく並べて語られるベン・ハーパーとかみたいな、ひたすらまじめなアプローチを展開しているわけではなく、この人の場合、かなり勢いというか、遊び心というか、そういったものを大事にしている感触があって。ぼくは好きです。

 ファンキー・ブルース、カントリー・ブルース、ロックンロール、サザン・ロック、スワンプ・ロック、メンフィス・ソウルなどなど、思い切りのいいグルーヴが満載。もろカントリー・ロックってのもありますよ。まじで。もちろんギターもたっぷり披露していて。渋いブルース弾き語りから、リンク・レイみたいなやばいトレモロ・エレキまで、あれこれ楽しめる。オリジナル、カヴァー半々の選曲もいい。



Dusty Trails
Dusty Trails
(Atlantic)

 ルシャス・ジャクソンのヴィヴィアンと、ブリーダーズのジョセフィーンが組んだユニット。コースターズのアルバム『クラシックス・ウィズ・ア・K』でもこの組み合わせは実現していたので、その続編という感じでとらえればいいのかな。

 こないだ、知人の紹介でニューヨークから若いミュージシャン君が東京にやってきて。そのときに会っていろいろ話したのだけれど、彼はフランスの音楽だとか、スウェーデンの音楽だとか、ブラジルの音楽だとか、あとコーネリアスとかピチカートとか日本の音楽だとか、そういうのが大好きで。そのくせヴァン・ダイク・パークスは知らなかったり。そういうアメリカ人ミュージシャン、最近は多いよね。ダスティ・トレイルズも大きく見ればそういう流れに位置しているんだと思う。ヴァン・ダイクは知ってると思うけど(笑)。

 むりやりアメリカの流れでとらえれば、バカラックとか、『フレンズ』のころのブライアン・ウィルソンとか、そういうものかな。インスト、歌もの、交錯する架空のおしゃれなサウンドトラックってところか。けっこういい曲、あります。

 ルシャス・ジャクソンのメンバーなどの他、なーんとエミルー・ハリスも客演。



Daisies Of
The Galaxy

Eels
(DreamWorks)

for Music Magazine

 現在のアメリカを代表する屈指のシンガー・ソングライター、Eを核に据えたイールズのサード・アルバムだ。今回もまた、内省的で、美しいEのソングライターとしての資質が全開になった仕上がり。

 相次いで体験した身内や友人の死が、よりダークかつパーソナルな手触りをもたらした前作『エレクトロ・ショック・ブルース』に比べると、ずいぶん明るく、穏やかなものになった。傑作「ノヴォケイン・フォー・ザ・ソウル」を含む96年のファースト『ビューティフル・フリーク』の味ともまた異なるポップな感触に、ファンとしても一安心。Eも立ち直ったんだなと思ったら。これは早合点。なにやら本作、『エレクトロ…』と同時期にレコーディングが進められていたものだとか。なるほど。これもまたEの人生観/音楽観の変化を表明する1枚ってことか。冒頭、ニューオリンズ葬送音楽ふうのホーン・アンサンブルでスタートするのにも何らかの意味が込められているのかも。

 グラント・リー・バッファローのグラント・リー・フィリップスとREMのピーター・バックが全面バックアップ。ホーンやストリングスも的確に配され、Eの歌世界をさりげなく、しかし絶妙に彩っている。

 リード・トラックとなる15のみ前作、前々作同様、ダスト・ブラザーズのマイケル・シンプソンとの共同プロデュース。あとはすべてEの単独プロデュース作だ。



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