Reviews   Music


Dan Bern
Dan Bern
(Work/Sony)


 曲によってボブ・ディランみたいだったり、ブルース・スプさんみたいだったり、エルヴィス・コステロみたいだったり。いいのか、そんなことで……と思うものの。かなり注目の存在みたい。放浪の旅とかにも出ている人らしく、生き方までレトロです。

 といっても、生ギター一本でもかなり聞かせる曲を作れるようで。そういう意味では今後にも期待できそう。そんなところです。



Retreat From The Sun
That Dog
(DGC)


 3枚目、かな。

 ギター&ピアノのアンナ、ベースのレイチェル、バイオリンのペトラ……という3人の女の子に、ドラムのトニー君が加わった4人組。よく引き合いに出されるリズ・フェア同様、無垢であどけない歌声で、時に不思議ちゃんっぽく、時に残酷に独特の世界観を作り上げるバンドだ。これまでのアルバムの中で、いちばんよくできた盤じゃないかな。

 リズ・フェアやヴェルカ・ソルトとも仕事しているブラッド・ウッドがプロデュース。前回このレビュー・ページでも取り上げたパルサーズとか、ペトラも参加しているレンタルズとか、その辺が好きな人だったらばっちりの仕上がりだ。クールな曲ではもちろん、どんなにラウドな曲でも、けっしてカタルシスに到達しないような、醒めたたたずまいのロック・アルバムです。



Sound Of Lies
The Jayhawks
(American Recordings)


 マーク・オルソンが脱退してしまったジェイホークスの新作。もうひとりの看板ソングライター、ゲイリー・ルーリスがふんばってなかなかの出来になっている。

 でも、ずいぶんとサウンドの手触りは変わった。もちろんカントリー・ロック寄りのアプローチとかはそのままながら、ずいぶんとウェットになった感じ。今の時代に生きるサウンドというよりは、時代に流されない永遠のフォーク・ポップ・サウンドをめざした一枚なのかな。

 『サザン・アクセンツ』のころのトム・ペティを思わせるルーズさが印象的な「Trouble」や、切ないメロディが胸をうつ「It's Up To You」や「Poor Little Fish」など、佳曲ぞろい。できればバンド名を変えて再スタートしてほしかったな。



Life After Death
Notorious B.I.G.
(Bad Boy)


for What's In? Magazine (May, 1997)

 このアルバム・タイトル。前作が『Ready To Die』だったからこそのものだけれど。今となっては別の意味を持ってしまった。やばいよ。ヘタするとこれがギャングスタ・ラップ最後の大作ってことになるのかもしれない。去る3月9日、衝撃の銃撃死をとげたビギーのラスト・アルバムだ。奇しくも、同じく銃殺されたトゥパック同様、豪華ゲストをたっぷり迎えた2枚組。今やアメリカのポップ・シーンのメインストリームど真ん中に位置するヒップホップの中心人物……という自信を象徴するものなのだろうけれど。その自信がやけに空虚なものにさえ思えてくる。こんな状況を迎えるために彼らはヒップホップという素晴らしいストリート・カルチャーを成長させてきたわけじゃないはずなのに。聞きながら、どこかくやしい思いを捨て去ることができなかった。

 音のほうはむちゃくちゃ充実している。ショーン・パフィ・コムズやナシーム・メリック、スティーヴィー・Jらバッド・ボーイ・エンターテインメントの面々はもちろん、DJプレミア、モブ・ディープのハヴォック、イージー・モー・ビー、ディギン・イン・ザ・クレイツ・クルーのバックワイルド、ボーン・サグズ・ン・ハーモニー、ノーティ・バイ・ネイチャーのケイ・ジー、リル・キム、クラーク・ケント、112、トゥ・ショート、R・ケリー、DMC、そしてなんとなんとウータン・クランのRZAなどがゲストとして、あるいはプロデューサーとして入り乱れる大傑作。新時代のポップ・ファンクの完成盤といってもいい。この盤が幕引きになってしまわないことを心から祈っている。



The Untouchable
Scarface
(Rap-A-Lot/Noo Trybe)


 かっこいいアルバムなんだけど。

 最初聞いたとき、ドクター・ドレのアルバムかと思った。1曲、ドレのプロデュースのもと、アイス・キューブやトゥー・ショートと共演した曲も入っているので、そんなイメージが特に強かったのかもしれないけれど。ゲトー・ボーイズを率いてHタウン・サウンドを確立してみせたスカーフェイスにしちゃ、ちょっと腰が低いんじゃないかって気もする。

 そこそこHタウンのムードをかもしだしている曲もないわけじゃないし、どんなサウンドだろうがこの人の存在感はやっぱり見事だとは思う。実際、サウンドはかっこいいし。でも、なんだかワクワクしないんだなぁ。近ごろヒップホップのアルバムを買ってくると、東の連中はみんなウータン・クランみたいで、西の連中はみんなドレみたいで。このアルバムもそういう流れを壊してはくれなかったってことだ。

 2パックの『All Eyes On Me』や、上で紹介したビギーのアルバムとかの場合は、まあ、彼らはシーンの中心人物だったわけで。大小様々なヒップホップ・ムーヴメントの立て役者たちとの盛んな交流による“地域色の減少”にも、なんというか、いわばクインシー・ジョーンズのアルバムみたいな意味合いがあったんだろうけど。スカーフェイスさんにはもっとヤバイ道を歩んでほしいというのが、ぼくの正直な気持ちです。

 でも、かっこいいから愛聴してたりして(笑)。



I Got Next
KRS-One
(Jive)


 その点、この人は守るべきものをきっちり守っている感じがして、いい。ブギー・ダウン・プロダクション在籍時に残した大傑作『Criminal Minded』や『Ghetto Music: The Blueprint of Hip Hop』あたりを思い起こさせる充実した仕上がりの新作だ。

 サイプレス・ヒルのDJマグズとかレッドマンとかJOEとか、要所要所に様々なプロデューサー/ゲストを配しながら、がしがし聞かせてくれる。ブロンディの「ラプチャー」とシュガーヒル・ギャングの「ラッパーズ・デライト」を合体させた「Step Into A World」みたいな遊び心も楽しい。「ラウンド・ミッドナイト」からのサンプルをバックにジャズのスキャットふうにラップする「A Friend」のグルーヴもごきげん。

 I Got Next……ってのは、次は俺の番だって意味でしょうか。意味深だ。これをKRS-Oneの決意宣言と受け取ってもいいのかな。期待はふくらむ。



Share My World
Mary J. Blige
(MCA)


 評判いいみたいだけど。

 あまりぐっときませんでした。ヒップホップ・ソウルの女王、と言われてきた彼女、その音楽スタイルが新奇だったころはよかったけど、今やみんなこういう音だからなぁ。となると、時折りやたらピッチが甘くなったりするヴォーカルが気になっちゃって。

 これまで彼女のアルバムの最大の魅力は、ショーン・パフィ・コムズが作り出すオケ抜きには考えられなかったわけで。でも、今回はパフィ抜き。ジャム&ルイス、R・ケリー、ベビーフェイス、トラックマスターズ、ジェームス・エムトゥーメといった面々がプロデュースに参加。ぶっちゃけた話、なんかフツーの今ふうブラック・ミュージックだなぁとしか思えない。

 もちろん、フツーの今ふうブラック・ミュージックを聞きたいと思ったときには悪くない仕上がりなんだけど。それにしても、ちょっと過大評価されすぎじゃないかなぁ。アルバムのオープニング、これまでに獲得した数々のアワードの発表アナウンスみたいなやつがコラージュされてるんだけど、もはや彼女はそういう“冠”がないともたない状態にあるってことを逆説的に証明しちゃってるような感じもある。

 『NYアンダーカヴァー』に収録されていたアレサの「ナチュラル・ウーマン」のカヴァーとか、なんとナタリー・コールをカヴァーした「アワー・ラヴ」とか、そういうオーソドックスな方向に行こうとしているのかな。それだと、んー、やっぱり歌に深みがなさすぎって気もするんだけど。どうしたいんだ、メアリー・J?