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筋肉注射「大人の上腕」勉強会  2021年2月10

今日の勉強会は、筋肉に安全確実に注射しよう、というテーマです。

筋肉注射、特に上腕は結構事故事例多く(参考1)激しい痛みや苦痛から訴訟になった例や皮膚潰瘍を起こして皮膚移植が必要となった例(参考2)もあります。そのためか筋肉注射には怖い、ものすごく痛いというイメージを持つ人も多いようです。どうすれば安全に筋肉内に注射ができるかがコロナワクチン接種において重要な課題です。

事故例を調べると、大部分は筋肉内のみに薬液が入っていたわけではなさそうです。そこで、安全な部位と手技の確認をしていきましょう。

厚生労働省のホームページにて、新人看護職員研修ガイドライン改訂版「技術指導の例」にて、筋肉注射の方法を出しています(参考3)。やはりこれを基準とするべきでしょう。しかしながら、そこに書いてある手技の記載は

(1)肩峰から三横指下を

(2)45~90度の角度で

と、かなりあっさりです。これをもう少し詳しく確認しましょう。

まず、(1)肩峰から三横指下、についてです。

筋肉を確認します(参考4)。注射するのは三角筋です。三角筋は、お椀をかぶせたような形で、肩から上腕にかけて位置します。(図1) 

まずは、避けなければならない大事な血管と神経の走行を確認しましょう。腕の後方奥に上腕動脈と太い神経が走っています。そして腋のあたりから三角筋内側から外側に向かって腋窩神経と後回旋動脈が走っています。(図2)

図2

筋肉と避けるべき血管の走行を書いた図(図3)(参考5)も参考にして下さい。できれば図1をプリントアウトして、ご自分で記入してみると分りやすいと思います。
図3

さて、ここまで確認すると、「肩峰から三横指下」は理にかなっているようです。が、ここで「肩峰」をきちんと確認しましょう。後方の方が辺縁の位置が分りやすいのですが、注射位置が後方にならないよう、意識して腕の外側、三角筋の最も膨らんだところを注射するようにしましょう。

また、「技術指導の例」では、袖をまくり上げるのではなく、肩を出してもらう、と書いてあります。

当然、実際は皮下脂肪と表皮で覆われた状態で肩と腕の筋肉を確認することになるので、触った感触と同時に目でもしっかり見て位置を確認することはとても大切なことです。自然な体位で肩から上腕を確認できるよう、肩を出してもらうようにしましょう。

結論その1:「肩峰」と三角筋、腋窩の位置確認は大事!

  標準は「肩峰から三横指下」でOK

           腕の側面に。後方なりすぎに注意

図4

 

次に、注射針を刺す深さと角度についてです。

筋肉に届くには何センチ刺せば良いでしょう。あまり深いと骨にあたる。残念ながら、「技術指導の例」には何センチとは書いてありません。

まず、深すぎる場合を考えます。筋肉が薄い人や針が深く入りすぎると針は筋肉を超えて上腕骨に当たるはずです。骨だけならまだしも、注意しなければならないのは上腕骨と肩の間にある関節包です(図5)。「肩峰から三横指下」では三角筋下滑液包を刺す可能性があります。関節包に薬液が入ってしまうSIRVA(Shoulder Injury Related to Vactine)が海外で多数報告されているそうです(参考1)。

関節包に入ると滑液の逆流で確認できます。骨に当たったら少し引き抜けば良いのですが、当たってなくても滑液(透明な液)の逆流がないかを確認したほうが良いでしょう。

図5

こう聞くと、深すぎて骨に当てる、というのはできるだけ避けたくなるので、針の深さを浅くしたくなります。しかし、筋肉に注射するためには、少なくとも皮下脂肪を超えなければなりません。

 エコーで日本人の上腕皮下脂肪を測定した論文(参考6)を参考にすると、

皮下脂肪は0.6cm~1.2cmくらい(体格による。女性の方が皮下脂肪厚く筋は薄く難しい傾向)のようです。

針は先を鋭利にするため斜め(B:べベルという)になっており、針先斜めが普通のRB針は約2mm(テルモ社製を測定)でした。つまり、筋肉内に確実に2mm以上入らないといけないことになります。

また、筋肉の厚さは三角筋の太い部分では普通は1cm以上あると考えられます。(しかしこれは個人差があり、筋肉が薄いとその分骨の近くに針が進む可能性があることは気にとめておいて下さい。

以上より、進める針の深さは1.5cmなら大丈夫、ということになります。

しかしこれはあくまでも目安です。慣れた人は、針を刺していくときの感触で、皮下脂肪か筋肉か判断できることがあります。脂肪層はゆるやかに進み、筋肉に入るとゴリゴリと針が吸いつかれるような感じが筆者の感覚です。

結論その2:標準日本人には1.5cmの深さ。

  体形により例外あり。皮下脂肪が多いなら2cm。

  または、1cm程で筋肉に入った感触それから3mm。
      

さて、角度の問題です。「技術指導の例」では、45~90度と角度が書かれています。これはしかし何に対する角度でしょう?皮膚表面?三角筋はお椀状になっていてどこからみた角度か分りません。では上腕骨に対して?

安全な場所と深さは結構狭い範囲なので、あまり斜めにしない方が無難です。ですから刺す角度は、図1をイメージしながらだいたい90度で良いと思います。

ところで、「技術指導の例」では、逆流確認をするよう書かれています。動脈は注射器を引かなくても逆流が分ることがありますが、静脈と上述の滑液の確認をするためには、やはり逆流確認をしたが良いと思います。もし逆流があったら、B(べベル)から考えて3mmは引いて、逆流がなくなったのを確認して打てば良いでしょう。(薬液の性状によって、逆流があったら打たないで抜いて、反対の腕に打ち直す方が良いという指導が今後あるかもしれません)。


追記(2021年2月22日);

 安心して筋肉注射ができることを願ってこの資料を作ったのですが、勉強会のあと、「詳しく聞くと筋肉注射が怖くなった」という意見が出てしまいました。でも実際の現場は、実は「テキトー」で、怖さを知った上での「テキトー」こそが安全につながると思っています。ですから、ここまで読んでいただいたという前提で、どう「テキトー」にするかの見解を述べたいと思います。

まず、打つ位置ですが、「肩峰3横指」は結局のところ何cm、という指標ではなく、肩峰の下縁を薬指で押さえつつ人差し指で筋肉の弾力を確認して打つ場所を定める、ということだと解釈します。

指を広げすぎて下方になると腋窩神経と血管のラインに当たるかもしれません。でも、これらの神経や血管は後方から前方へ枝分かれしているので、筋肉表面近くは末梢神経と動脈と言って良いほど細くなっており、きちんと筋肉の厚さを確認できたら普通はそれほど恐れることは無いと思われます。もちろん、避けることができるのなら避けた方が良いでしょう。同様に、普通に三角筋の厚さのある所に注射したのなら、1.5cmの深さで骨や関節包に当たる可能性はまずないと言っても良いと思います。これももちろん、皮下脂肪の厚そうな人や筋肉が本当に薄っぺらのような人もいますから、怖さを知っての適宜判断となるでしょう。

角度については、針先の感触を確かめながら打つなら斜めにした方が長く針を進めるので、ある程度角度をつけた方がやりやすい、という術者もいるでしょうし、注射針と注射器を固定しやすい持ち方のこともあり、術者それぞれの経験の方がマニュアルに勝ります。ただ、90度近くでないと1.5cmの深さでは筋肉に届かない恐れがあるので、そこは注意して下さい。

なお、「逆流確認」は、小児科では行わないという意見もいただきました。でもこれは大人に対しての項で、さらにここでは上記理由のため逆流確認を推奨していますが、手技は煩雑となるので、現場判断となるでしょう。また、急に陰圧をかけると周囲の細胞を痛めるとの指摘もあるそうです。これら逆流確認を否定する根拠となる文献をみつけられなかったので、ここでは厚生労働省の技術指導を優先します。ただ、「急な陰圧」は避けた方が良いでしょう。。

参考一覧

奈良県立医科大学整形外科・臨床研修センター「筋肉注射手技マニュアル」(参考1)
https://www.nmu-resident.jp/intramuscular.html

皮膚潰瘍を起こして皮膚移植が必要となった例(参考2)

https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/256.pdf

厚生労働省平成23年「技術指導の例」(参考3)

https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000037510.pdf

ATLAS第2版(参考4)「Anatomy A Regional Atlas of the Human Body, 2nd Edition Urban $ Schwarzenberg 1981

筋肉と避けるべき血管の走行を書いた図(参考5)

「三角筋への筋肉内注射 腋窩神経を損傷しないための適切な部位」

http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/handle/2297/6178?hit=-1&caller=xc-search

 エコーで日本人の上腕皮下脂肪を測定した論文(参考6)

「BMIからアセスメントする筋肉内注射時の適切な注射針刺入深度の検討」https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/34/1/34_201405/_html/-char/ja


おまけ
(質問が以下のようにありましたので、補足です。)

「腕の位置をどう指示する?」・・・肩は自然体で、まっすぐ伸ばして手のひらは体幹を向く、が一番肩峰と三角筋がわかりやすいと思います。

「つまむか?」・・・表皮は張った方が痛くないし注射器と腕の保持のためには有効。つまんで皮下脂肪が厚くなることに注意しましょう。筋肉も持ち上げるよう、つまむというより「つかむ」感覚です。

「痛みの確認は?」・・・すぐ近くに神経があるかもしれない(特に末梢は個人差多し)ので、「手先などびりびりしませんか」と確認しましょう

「もむ?」・・・もみたいのが人情だけど、さするくらいが良いでしょう(参考2)。血液が止まりにくい疾患や薬を飲んでいる可能性がある方には、2分程度押さえて内出血がないか確認しましょう。


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