Last UpDate (09/12/30)
「まったく、お前の所為ですっかり遅くなってしまったではないか」
眉をつり上げ、声を荒げる端正な顔立ちの少女。
頭の両脇に白い薔薇の髪留めによって結われた黒く長い髪の毛が、彼女の怒りに同調する様に逆立つ。
小柄だが出るところは出て引っ込むところは引っ込んだ理想的体型は、白いセーラー服と黒いスカート、そこから伸びる脚は白いオーバーニーで隠されている。
「何言ってるんだ。元を正せばマリジェリカの所為じゃないか」
彼女の怒りを受け流す様に軽い口調で言い返す青年。
整った容姿と、長身で均整の取れた体躯。
崩した白の上着と制服の黒いズボンを着こなす姿はなかなか様になっていた。
二人はやや小走り気味に学校へと向かう道を歩く。
「そ、それはそうかも知れないが、そもそもトイレの鍵が壊れているのが、だな……」
自分から出してしまったトイレの話に言葉を詰まらせ、頬を朱に染めながらうつむく。
「そりゃそーけど、ノックしたらちゃんと返事しろよっ。一緒に住んでるんだから変な遠慮するなって」
いくら一緒に住んでいるとはいえ、血の繋がった家族でもない人間に、トイレに入っていることが知られるのは、やはり年頃の女性には恥ずかしいものがある。
すぐに返事をしなければならなかったが、一瞬躊躇ってしまったために、無情にも扉は開けられてしまったのだ。
……マリジェリカと、彼女と言い合いをする青年マルスは現在同じ家に住む同居人である。
普通の高校性にしか見えない彼らだが、実は秘密組織「UGN(ユニバーサル・ジーン・ネットワーク)」に所属するエージェントだ。
UGNとは、遺伝子の異常によって特殊な能力を発現してしまった者達の日常を護るために発足された組織で、彼らが起こす事件や事象を未然に防ぎ、必要であれば討伐も行う。
そうして発現してしまった能力を、暴走させる者は少なくない。そうなってしまった彼らから人々の日常を脅かすことの無い様に行動する。
UGNからの任務によってこの町に派遣されたマリジェリカは、元々この町の出身であったマルスの家を仮の住まいとしているのだ。
ちなみにマルスは英国人とのハーフで、マリジェリカはフランスからの留学生と言う事になっている。
同居人になってからすでに半年以上たつが、今回のトイレ事件のような事故は結構な頻度で起こっていた。
そしてその度に二人は喧嘩し、この朝の様な光景が繰り返されている。
元々妹のいるマルスの生活習慣の所為もあるが、彼にとって、女性を特別扱いする機会がそうそうないからだ。
「んぐぐぐ〜」
「恥ずかしいからだっ」とは簡単には言えない。そこから言及されたらそれこそ恥ずかしい女故の性。
「そうそう、朝練と言えば、お前が新体操部なんてなぁ」
顔を赤くして口ごもるマリジェリカに、さすがのマルスも察したのか話題を切り替えた。
タイミングは微妙だが、マリジェリカにとってトイレの話を続けるよりはずっと良い。
「な、なんだ文句でもあるのか?」
歩調に合わせて揺れる髪の毛を右手で後ろに払い、仏頂面で答えるマリジェリカ。
UGNに所属する彼らには、当然組織から任務が言い渡される。
それによって転校したりすることもしばしばあるが、今回マリジェリカに与えられた任務は、現在通う学校の新体操部に、遺伝子異常によって能力を得た者が居ると言う情報の真偽を調査すること。
それには潜入調査が一番手っ取り早いという組織の判断で、彼女は新体操部に入部したのだ。
マルスはチラッと彼女を見やり、
「アレってレオタード着て、リボンをくるくろ回して、結構笑顔だったりしないといけないんだろ?」
意地悪の悪い笑みを口元に浮かべる。
それを見て、マルスが言いたいことを大体理解したマリジェリカは、
「問題ない。これは私のミッションだ。完璧にこなしてみせる」
と、マルスが言葉を続ける前に答えた。
どのような任務でも、それが「任務」であれば、彼女はそれを完璧にこなさなければならない。というプロ意識を持っている。
15歳の今、小学生になれと言われればなるし、普段冷静沈着で知的な彼女が、アイドルとして普段よりも可愛い声、加えてとびきりのスマイルで歌えと言われれば歌う。
……そう言った任務も実際に下される可能性があるのだ。恐るべき秘密組織、UGN。
「マリジェリカのレオタード、笑顔ねぇ……」
マリジェリカが言い切ったのを受けて思わず想像するマルス。
白い肌をピッタリと包み、体のラインを浮かび上がらせる白いレオタードでリボンをくるくると回し、笑顔を振りまくマリジェリカ。
思わず、立ち止まり彼女を見る。 彼が止まったのをみて、少し先で歩を止め、振り返るマリジェリカ。
「どうした?」と不思議そうに首をかしげる彼女に、
「案外似合うかもな……。オレも週末見に行って良いか?」
ニッっといたずらっぽく笑う。
「ななな、何を言っている! 茶化すのも大概にしろっ」
赤面し、動揺するマリジェリカ。
「別に良いだろ? ほら、オレもお前の任務に対する姿勢ってのを見させて貰おうと思ってさ」
そう言われると何も言い返せない。「い、良いだろう」と、渋々承諾する。
「じゃ、楽しみにしてるぜ」
軽くウィンク。
「おっと、ほら、お互い間に合わなくなっちまうぜ」
言うなり走り出した。
「ま、待てっ」と、マリジェリカも走り出す。
「プロ意識」だけでこなしていた任務だったが、ちょっぴり心が弾んだ。
そのことに本人は全く気がついて居ないのだが。
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