Last UpDate (09/08/05)
どこまでも続く蒼穹の下、どこまでも広がる紺碧の海。
その入り口である白い砂浜は、早朝であるにもかかわらず日差しに焼かれ、足をつけるのが躊躇われるほどに熱い。
それらが交わる境界線を嬉しそうに走る、ビキニの少女が一人。
「うひゃぁっ」
打ち寄せた波が足下をすくう。
少女はバランスを崩しそうになりながらも、敢えてその境界線の上を走っている様だ。
海辺ではありふれた波の行き来も、普段は内陸から出てこない者にとってはいつ見ても珍しい。
「エリナぁ〜。あんまり遠くへ行っちゃダメだよ〜」
少し離れたところから声がかかる。
彼女、エリナは元気よく振り返り、その勢いで「はいですぅ〜!」片手を上げて手を振った。
それに合わせて、豊満な胸とそれを覆う水着に付いたフリルが可愛らしく揺れる。
普段はメイド服を着こなす彼女の水着に、このフリルは外せないと、店長によって特注されたものだ。
主人を捜して宛のない旅していたエリナ。
この海の家の前を通りかかった時、店長に呼び止められ、この夏だけの臨時の店員として働くことになった。
しかし猛暑の中、涼を求めて来た人々の前を見るからに暑苦しいメイド服で歩かれたら困る、という理由で水着を着せられていたのだ。
まだ人もまばらな砂浜を子供のようにはしゃぐ。冷たい海と熱い砂浜の温度差が心地よい。
砂浜に打ち寄せた波の中、日の光に煌めいた砂や貝殻が、宝石をちりばめた様に美しい。
うだるような暑さの中、連日よく働いてくれる彼女へのささやかなご褒美として与えられた、長めの休憩時間。
「出迎える店員の心身共に健常な笑顔。それこそがこの浜で休暇を過ごす人々にとって、何よりの癒しだ」という信念を持つ、この海の家の店長の計らいによるものだった。
彼女の旅をひとときここでとどめさせたのかも知れない。
「エリナぁ〜。そろそろ戻っておいで〜」
人が増え始めた頃合いで、海と空を眺める彼女を呼ぶ。振り返り「はいですぅ!」と明るく返事をする。
屈託のないその笑顔は、向けられた方も笑い返してしまうような程清々しい。
波打ち際からサクサクと、熱い砂浜から避難するかのように屋根のある方へと走り出すと、丁度、飛行機が空高く、日差しをかすめて飛んでいった。
その後ろには軌跡の様に雲がついて行く。
「おお〜」と見上げた彼女は、すぐに振り返って自分の足跡を見つめた。
「エリナ、早く〜」
店長の声に、ハッと我に帰り、再び走り出すエリナ。
その後ろには小さな足跡がついていた。
まだまっさらな彼女の心に刻まれて来た、旅の思い出のように……。
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