Last UpDate (09/07/23)
ルルルンルンルン♪
ルルルンルンルン♪
ルルルンルンルンルンルー♪
……テレビ画面の中で、花冠を付けた男性がくるくると曲に合わせて踊っている。
容姿はそこそこだがその服装がとても残念……いや、独特だった。
全身を覆うピンク色の服と、首もとに付けた大きな蒼いリボン。その異様さを引き立たせる、がっしりとした体つき。
誰がどう見てもセンスを疑う姿だが、彼を主役としたドラマやアニメは今、お茶の間では大人気の番組となっていた。
「あ、始まりましたよ閣下!」
テレビの前に陣取る黒髪ショートカットの少女が、頭の左右に付いた菊の髪飾りをわっさわっさと可愛らしく揺らしながら、一際嬉しそうに嬌声を上げた。
小柄な身体を包む白い道着を思わせる服は、余った袖が邪魔にならないように帯で縛られており、黒い下の袴の丈は動きやすさに重点を置いたのか、膝の上迄の長さで止まっている。
とても見えないが彼女は里で1,2を争うほどの戦闘力を持った騎士であり、「菊の神」毛呂山 菊華と言えば、花の神以外でも知る者が多い。
「全く、何でこんなものが良いのかしらね?」
とは言いつつも画面から目を話さず、見ているのは白い着物の女性。
頭から生えた一対の梅の枝、白い肌に尖った耳、腰裏まで伸びた白い髪の姿は人間と言うよりは妖精に近い。
背こそ菊華よりも高いが、プロポーション……特に胸のあたりは平均的に見ても、少々寂しい。
「梅の神」越生 梅。決して目立つ役割ではないが、民衆の意見を集め、言いにくい意見であろうと王に伝える重要なポストに位置する。
「そう言わないで、梅。これも王にとって大切な仕事なのだから」
鮮やかな青の髪を頭の両脇に結い、それでもなお長い髪を背に流す。
髪の青と、肩と胸元をあらわにしたベアトップとで際だつ白く透けるような肌。 梅や菊華の足りない部分を全て満たした体型。 梅を宥めた落ち着いた口調とたおやかな仕草。全てもって高貴さを感じさせる「富貴菊の神」サイネリア。
王に次ぐ地位にある花の女神として彼を支え、付き従いながらも一歩後ろを歩く、慎ましくも無くてはならない女性だ。
「先週は閣下が、ようやく見つけた幸せの花が溶岩に落ちてしまうのも構わず、死神キルスパイダーに襲われ、窮地に陥ったデスカマキリを助ける所で終わってしまったんです! 今週はどうなってしまうのでしょう!」
手に汗握り話す菊華は、本当にこの日、この時間を待ちわびた子供のように目を輝かせている。
「落ち着きなさい」と良いながらも菊華を避け、画面が見える場所を確保しようとして動く梅。
そんな彼女たちを温かい目で見つめるのは、サボテンで出来た椅子に座した、画面の中でくるくると踊る男性とそっくりな人物……、「花の王」ルンルン。
彼女たちが見ていたテレビ番組は「花の里のルンルン」。まさに現「花の王」ルンルンをモデルに創られた大作アニメなのだ。
「花の王」と言われると、プロテアや牡丹、ひまわりなどを連想するが、どういう訳か彼は「サボテンの神」である。
番組が始まり程なくすると、
「閣下、そこでフラワーサンシャインです!!」
叫び、白熱した菊華が拳を振り上げる。
画面の中では先週助けたはずのデスカマキリとルンルンが戦っていた。
「ちょっと、見えないじゃない」
澄ました態度を取っていた梅も、いつの間にか食い入るように画面を見ている。
その様子を「あらあら」とにこやかに見守るサイネリア。ルンルンも二人の様子に満足そうに頷き、笑っていた。
やがて番組も終わり、今回の話と次週への期待をひとしきり語り合うと、
「……次週もとても楽しみですね! それでは閣下、私は里の見回りにいって参ります」
と、菊華はその場を離れていった。
サイネリアも「今晩の会議の資料を纏めてきますね」と退席する。
そして、部屋には梅とルンルンだけになり、静寂が訪れた。
梅はチラチラとルンルンの方を見るが、彼は何も話そうとせず、黙して座しているだけである。
先程まで騒がしかっただけに、二人だけの沈黙が際だつ。
「……あんた、さっきから一言も喋っていないけど……どうしたの?」
たまりかねて梅が訪ねると、彼は無言で椅子に目をやった。よく見ると微かに震え、額には汗を浮かべている。
「……もしかして……その椅子、痛いの?」
大きく首を縦に振る。
先程から無言だったのは痛みに耐えていたから。暖かく笑っているように見えたのは、引きつった顔を誤魔化す為だったと告白した。
花の里の住民達から贈られた、ルンルンが司る「サボテン」の椅子。
今日卸し、これに座って番組を見ようと思い、深く腰をかけたら、あまりの痛さに声も出ない。
すぐに立とうと肘掛けに手を掛けると、そこにも棘があり、立つに立てなくなってしまったと言う。
心配性の菊華やサイネリアには言えないと、今の今まで耐えていたのだ。
「あんたって……ホントにバカねぇ……」
ため息をつきながらもルンルンの手を引っ張る梅。
菊華やサイネリアに比べ、微妙なポストにいる彼女にとって、時々こうしてルンルンに頼られるのは決して嫌なことではない。
ちょっと間抜けな彼をこうして支えていくのも悪くはないと、心の中でそっと思うのだった。
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