Last UpDate (09/04/10)
「はかいのよくが……うずくー!」(暗闇の雲)
快活な声と満面の笑みを向ける銀髪の少女ルミア。
露出された白い肌を隠すわずかな黒と赤の衣装。身体を覆う物は殆ど無い。いつもは流すままの銀髪にもウェーブがかかっている。
「良い感じだよルミアちゃん! けどもっと渋くいってみようか」
ルミアの声に応えたのは、櫟澤凪。
ボーイッシュなショートカットに頭の頂点からぴょこんとでた癖っ毛、強い意志を秘めた瞳、整った顔を少年のように輝かせている。
ここは小江戸市にあるアパート、櫟澤荘の一室。
二人……特に凪は、来るコスプレイベントに向けて張り切って準備中なのだ。
「しぶいのきらいー!」
先程までの笑顔を潜め、眉間にしわを寄せ文字通り渋い顔をするルミア。幼い見た目よりも更に中身が幼いルミアにとって、凪の要望は難しすぎて理解出来なかった。
しかし、凪はそこで諦めずにPSP(プレイステーションポータブル)を手に取り、「暗闇の雲」の「vsオニオンナイト」のエンカウントボイスを再生する。
「こうだよルミアちゃん! 上手くできたらきっとマリエスタさんも喜ぶからっ」
マリエスタの名前を聞いて反応するルミア。
マリエスタは親のいないルミアの母親代わりをしているシスターで、ルミアにとって一番大好きな存在である。
おかーさん(マリエスタ)→喜ぶ→わかめたくさん
というシンプルな図式が頭に浮かび、彼女の中に眠る何かが目覚めた。
ルミアの瞳の奧に食欲の闘志が燃える。
凪を指さし……心の中ではワカメを指さし、
「こざかしいガキめ!」(暗闇の雲)
普段の脳天気な彼女からは全く想像も付かないような台詞。
「待っていろワカメ!」という、こよなく愛するワカメへの気持ちがこもっているだけに、ゲーム内のセリフのモノとはベクトルは違うが真に迫っていた。
「ル、ルミア!?」
凪の後ろから悲鳴にも似た声を上げたのは、修道服に身を包んだ黒いロングヘアの、ルミアの「おかーさん」ことマリエスタ。
ルミアのセリフとともに部屋に入ってきた彼女は、ルミアの姿と言葉に口をパクパクさせ動けないでいる。
「あ、えーっと、マリエスタさん、これはね……」
固まったマリエスタに、気まずそうに説明をしようとする凪。
「ルミアが服を着て笑っているなんて! 凪さん、一体どんな魔法を!?」
「……へ?」
予想に反して、マリエスタは凪の両肩を掴み、真剣な顔を寄せるマリエスタ。
いや、たしかに服だけどさ……と、言いそうになるが、ここで本当のことを言ったら反対されかねない。
ルミアのセリフも聞かれなかった様だし、ここは誤魔化しきるのが最良。
「ほら、ボクたち仲がいいからさ。ルミアにお願いして着て貰ったんだっ」
大丈夫、嘘は言ってない。しかし目を合わさずに言う。
「そうなんですか。……でも、先程の言葉は何なんですか?」
後ろめたい凪に満面の笑みで聞くマリエスタ。
その顔の後ろには「ゴゴゴ」という効果音が浮かんで出ていそうなプレッシャーを感じる。
「ぜつぼうとは、どんなあじだ?」(暗闇の雲)
無邪気に言い放つルミアの言葉が、追い打ちをかけ、マリエスタのプレッシャーを更に強大にしていった。
「嘘はいけませんよ? 凪さん?」
微笑みのまま、マリエスタ。
ルミアの前では余程のことがない限り笑みを崩さない。彼女は一貫してルミアの良き母で在ろうとする。
「ボクにはまだやるべき事が!」(WoL)
現状絶対的なプレッシャーに対し、思わずゲーム内のセリフをもじって返す凪。
「ふう」と短くため息をつき、
「覚悟は良いのですね?」(アルティミシア)
ゲームを知らないはずのマリエスタから出たセリフに、ちょこっとだけ喜ぶ凪。
……30秒後、凪は全てを白状し、マリエスタの「聖書チョップ(教育的指導)」によって撃沈したのだった。
「ボク……がんばったよね?」(オニオンナイト)
それでもへこたれていないようだったが……。
P.S 後日、イベント会場で魔女と雲のコスプレをした親子が見かけられたとか。
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