Last UpDate (09/04/10)

天空神殿の午後

「天空宮殿の午後」

蒼穹の空から暖かな日の光が注ぐ広場。「風の女神」となった麻莉亜の、新しい宮殿の一角。
天を仰ぎ、空に見えたそれは、実は外の風景をそのまま通し写す天井であり、壁である。
広場に見えたそこは、宮殿の一室であり、それを認識させるかのようにいくつかの白い柱が立ち並んでいた。

「麻莉亜様、何度言ったら解りますの!」

 

天に抜けるような声が部屋に、廊下に、宮殿内へと響き渡る。
声を上げたのは、銀髪に白い制服の少女、ミューゼル。
天使学校を主席で卒業した優秀な天使である上に、容姿も端麗。家柄も良く、現在は麻莉亜の座天使を勤めている。
折角の容姿も、眉間にしわを寄せた今の表情の前では影を潜めているが。

「だ、だって仕方ないじゃない。困ってる人たちを放っておけないしっ」

ミューゼルから目をそらしつつ、頬をかきながらしどろもどろに応える、黒髪をポニーテールにした美女、麻莉亜。
神々の世界へと侵攻し支配しようと復活した邪神ファイロを倒し、「風の女神」となった。
怒られて視線をそらす様は、責任を背負った神というよりも、未だ人間らしさが残っている。

 

「そんなことだからっ……!」

 

再び声を荒げようとしたミューゼルに、

 

「ミューゼル、そんなに怒らなくたって……」

 

対して、蚊の鳴くようなオドオドとした声で彼女をいさめようとする少年、クロ。
ミューゼルと同じく、銀髪に制服姿。
天使学校を末席で卒業した、いわゆる「おちこぼれ」天使だが、色々あって、現在ではミューゼルの上司にあたる熾天使を勤めている。

 

「クロは黙っていなさい!」

 

しかし、その威厳は見る影もない。

 

怒ったミューゼルに頭が上がらない二人。

 

神としての経験が未だ浅い麻莉亜は、出先の世界で頻繁に問題を起こす。
圧政を敷く王や魔王を倒す。天災から人々を救う。等、世界が成長するための試練を彼女自ら解決してしまったり、
迷子捜し、猫探し、屋根修理やら、解体工事etc……便利屋まがいの事まで行うなど、人々が解決するべき事にまで力を貸してしまう。

 

一時は良い行いであっても、気まぐれに不公平を生むだけではなく、大局的にみれば、世界を堕落させる要因となってしまう。

 

それが頭で解っていても、目の前で起こっている事を見逃せない。そして、そのたびに、その事象の修正、収拾にミューゼルが走り回っている。

 

今回は子供が手放し、空高くあがってしまった風船を常人では有り得ないジャンプで取り、返したというシンプルなもの。
「風船を手放せば麻莉亜様が現れる」という噂が立ってしまい、世界の空を風船が覆った。
結果、日の光が遮られ、世界の平均気温が下がったという……。
事態を重くみたミューゼルは、一部の野鳥に風船を割る習性、人の生活に近い鳥に飛行物を咥え巣に持ち帰る習性を持たせ、「鳥の未知の生態が生み出した奇跡」となるように事態を収拾した。

 

クロはそんな麻莉亜を、ミューゼルと同じようにフォローしようとするも、彼女の実力に一歩及ばない。
もっとも、それが出来たとしてもその性根から、後100年は彼女に逆らうことは出来そうにないが……。

 

まるでに母親に叱られる子供のようにミューゼルの前でおとなしくなる二人。
状況と声だけを聞けば、怒られている二人の方が立場が上だとはとても思えないだろう。

 

「……解りましたかっ!」

 

一通り説教を終え、息をつく。

 

「うん、ごめんね。ミューゼル。これからはもっと気をつける」

 

手を合わせ、謝る麻莉亜。

 

「いえ。少し言い過ぎましたわ。……お茶を淹れますわね」

 

先程までの剣幕が嘘のように、落ち着いた声で応えるミューゼル。
手際よくテーブルを片付け、お茶の準備をする。
麻莉亜に席を勧め、クロを「お湯を湧かしてきて下さる?」と退室させた。

 

「ああは言いましたが、麻莉亜様の誰にでも優しい所、嫌いではありませんわ」

 

目を合わせないように、小さな声でミューゼル。

 

「うん、有り難うミューゼル。これからも宜しくね」

 

微笑み、応える麻莉亜。
少しして、戻ってきたクロと三人。昼下がりの優しい一時を過ごすのだった。

 

勇者屋キャラ辞典:来須 麻莉亜ミューゼル・エスカティアクロ
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