風祭駅から塔ノ峰曾我丘陵から箱根連山。中央の駒ヶ岳の左下に塔ノ峰

箱根外輪山の東側は金時山から塔ノ峰までなら辿っていたが、塔ノ峰から小田原方面に沈みゆく部分は歩いていなかった。休日出勤の振替休日、半日コースで手頃だとばかり、春の日の朝も遅くなってからでかけてみた。塔ノ峰へは塔ノ沢駅ないし箱根湯本駅から阿弥陀寺経由で登るものと風祭駅から尾根筋をたどるものとある。かつて阿弥陀寺経由で登ったことがあるので、今回は風祭駅から登り、阿弥陀寺へと下ることにした。


小田原駅で乗り換え、箱根登山鉄道の風祭駅に着いたのは昼過ぎだった。線路の北側に併走する車道に出て、小田原側へ戻るように歩く。小さな川の手前で上流へと左に折れると、車の往来も減って、静かな集落のなかだ。
春の花 色とりどり
本日、天気はよいのだが、尾根を越えて吹き下ろしてくる風が強い。用水路に下がるユキヤナギがしきりに揺れる。ボケは木だからしっかりしたものだ。真っ赤な花を揺るがせることなく立っている。暖かいので少々の風では寒さを感じない。ゆるやかとはいえ車道を上っていけば、登高が久しぶりのせいもあって汗ばむほどだ。振り返れば背後の眺めが開けていて、外輪山南部に頭を出す白銀山や聖岳、その北東にある669.2m峰が対岸の尾根上に霞んでいる。
風祭駅北東より白銀山方面の外輪山を望む
風祭駅北東より白銀山方面の外輪山を望む
顕著なコブの右側は聖岳ではと思う・・・
一車線程度の道幅が続いているうちは昔ながらの里の雰囲気だったが、唐突に二車線道路にぶつかって開発の程度の不自然さを味わう。サンサンヒルズ某前とかいうバス停が立っており、名前からすると保養施設かなにかがあるのかと思わせる(これまた帰宅後に調べたら、ここにあるのは競輪選手用宿泊施設で、競輪が開催されない日は市民も宿泊できるというものなのだそうだ)。左手に向かい、三叉路を左に行けば急速に道幅が狭まって、昔ながらの塔ノ峰に向かう行程となる。三叉路に入る途中で右手に荻窪用水散策コースなるものが分岐するので立ち寄ってみると、ちょっとした西湘の展望地で得した気分になれる。彼方に先日訪れたばかりの曾我丘陵が左右に長かった。
塔ノ峰への行路は杉や桧が頭上を覆うようになっていく。平日だからか木を伐り倒す音も聞こえてくる。そちらに目をやれば今まさに大木が倒れていくところだった。
溜池かなり手前の林道沿いにある祠
林道沿いの林にあった祠
舗装と未舗装が交互する平坦路を行くと、ふと視線の先が開けて茶畑が広がりもする。尾根筋だというのに水の流れる音が耳に届く。細いながら勢いがある用水路だ。流れに沿う道のりを辿ると、その音の出所には小振りながら溜め池があった。上水之尾用水溜め池といい、傍らの説明版によれば19世紀初めに造営され、2ヘクタールの水田、18戸ばかりの農家を支えるだけの水量を保ったらしい。目の前にある池は平成元年の修復だそうだが、2世紀近く前にこの水面を眺めた人たちに思いを馳せるには十分な風情がある。
上水之尾用水溜池
上水之尾用水溜池
溜め池を過ぎると林道は三叉路にぶつかる。塔ノ峰へは左へ、車止めのゲートを回り込んで、使用されないのにやたらと幅の広い舗装道を上がっていく。これがまた歩くにはつまらない林道で、眺望がまるでなく、同じような調子で空虚に明るい道路が延びていく。溜め池までの道のりも舗装路だったが、なにがしか生活感があった。この山中を貫く道路は予算があったからつくったとしか思えない。二車線近くあって車両すれ違いの退避場所まであって雪のない4月に閉鎖しているというのはどういうことだろう。造ったからには使え、というのではなく、そもそもこれだけの規模で造る必要があったのだろうか。


可能な限り早足で登っていくと、左手に分岐する山道が目に入る。反対側を見ると、植林の幼木を抜けて延びてきた踏み跡があることに気づく。ここには塔ノ峰〜水之尾を示す標識が立っており、そういえば先ほどの車止めゲートを越えてすぐのところにも立っていたことを思いだす。そのあたりから山道が始まっていたのかもしれない。腹の立つ林道を楽して歩くよりはヤブっぽくとも山道を辿ってきた方がだいぶマシだったはずだが、手持ちのガイマップに案内が乗っていないということはあまり歩かれていないのだろう。
塔ノ峰へと続く山道に入ってみると、最初こそ木の根が頻繁に出ていて歩きにくいが、徐々に穏やかなものになってくる。眺望のない植林帯が続くが、道筋はよく踏まれていて間違えようが無く、林床には低い雑木が適度に生えていて見回す分には単調にならずよい(林業経営として見たらどうかはわからないが・・・)。行く手に高まる山影を見るようになり、右手に明星ヶ岳らしい姿を認めれば、塔ノ峰はもうすぐだ。
と思いつつなぜか道を間違える。ふと気づくと山腹を行く踏み跡に入って、文字通り踏み幅しかない跡を追っている。「これは仕事道だ」と気づいて稜線にむりやり戻ると、幅1メートルほどの踏み跡に出た。少々戻ってみたが、どこで間違えたのかよくわからない。気をとりなおして高みに向かうと、すぐに山頂だった。
塔ノ峰山頂
塔ノ峰山頂
周囲は木々に覆われて眺望はほとんどない。里同様に風が相変わらず強く、頭上の木々が盛んに揺れる。再び明星ヶ岳、その背後の明神ヶ岳を梢越しに望み、小広く開けた片隅に腰を下ろして食事をする。風祭駅前の無人販売で買った柑橘類を食べてみる。酸味と甘みががほどよくてじつに美味しい。最近のミカンは4月になっても甘いものなのか、と感心した。(じっさいには清見というミカンとオレンジの混合種だと帰宅後に知った。)
美味い美味いと食べていると、明星ヶ岳方面から2名のパーティが来た。本日山中で出会ったのはこの人たちだけだった。


下りは阿弥陀寺方面に下った。照葉樹の厚ぼったい葉を眺めつつ、いつまで経ってもうるさいままの風の音を聴きつつ、あいかわらず眺望のない道のりを行く。寺の屋根が見えてくれば山道は終わりだ。参道に咲く桜など見上げつつ、本日のところは箱根湯本に下ることにして、変わらず急な坂道を辿っていった。
夕日に染まる門前の桜
夕日に染まる門前の桜
2012/4/9

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