小野子三山十二ヶ岳から小野子山

渋川駅を出た吾妻線は、右手に子持山を見送ると小野子山を間近に見上げるようになる。ここから西に中ノ岳、十二ヶ岳と連なるのが小野子三山で、東西両端の二山の人気が高く、車道が高いところまで通じているため車でやってきて往復するというのが一般的になっているようだ。高崎から吾妻線始発の次に乗って小野上駅に降り立ったのは、休日だというのにわたし一人だった。小野子山から三山を通して歩いてみたが、車道歩きも長くかなりの労力が必要なので、この山々については個別に車を使うのが正しい気がする。それでも縦走は前から暖めていた案だったので、達成感はひとしおだった。


三山の東端にある小野子山は、子持山との鞍部に当たる峠から植林のなかの道を往復する人が多いらしいが、小野上駅からの車道の途中から始まる南陵の尾根道のほうが自然林が多く、長いのさえ厭わなければ歩いて格段に気持ちよいことだろう。山体は三山のなかでいちばん大きいが山頂は広くなく、眺めもあまりよくない。この山の神髄は南陵の尾根歩きにあると思える。山道に入る手前には駐車スペースもふんだんにあり、じっさい車も停まっていたが、山頂往復をして下ってきたのは単独行のかたが一人だけだった。
山頂部がはげ山状態の十二ヶ岳はもっとも展望に優れ、目の前の小野子山はもちろん榛名山も雄大に見渡すことができる。この山へは三山縦走以外だと小野上温泉駅からやはり長い車道を上がって山道をたどるコースが二本ある。西側のコースを下りで歩いてみたが、車道が長い上に傾斜が急だ。山道として歩けるところは比較的短く、しかも植林のなかが多いので、山頂からの展望を除けば舗装道歩きばかりが印象に残ることになるだろう。この山のみを訪れるのならこちらも車を準備するのが正解と思える。
小野子山から十二ヶ岳(左)、中岳
小野子山から十二ヶ岳(左)、中ノ岳
十二ヶ岳から西日に霞む榛名山群
十二ヶ岳から西日に霞む榛名山群
十月中旬の登り口では稲束が田圃の真ん中にかけられていたが、山の上であっても紅葉には少々早かったようだった。それでも湿気の落ちた山道は秋の空気で爽快である。小野子山から中ノ岳に歩くひとは少ないようで、誰にも会わない。ここでの眺めは梢越しにしかないものの内省的な雰囲気が漂い、悪くない。中ノ岳から十二ヶ岳への鞍部に下ると、右に女道、左に男道が分かれる。ここは左手の道を選ぶと、岩壁の端を登るような急登で、ぐいぐいと高度を稼ぐ。左手の岩場に高い木が生えようもないため、日が回って明るくもある。目の前がさらに明るくなればそこが頂上だ。予想以上に開放的な空間が縦走の締めくくりにふさわしかった。
下り着いた小野上温泉駅付近には夕闇が漂っていた。日帰り入浴施設が駅前にあるが、この時間帯は地元の方たちが次々とやってくるもののようで、その勢いに押されて入らずじまいで終わった。本数の少ない吾妻線は先ほど出て行ってしまったばかりなので、無人駅のホームで待つうちに日はすぐに暮れてしまったのだった。
2002/10/14

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