鶴島金剛山、名倉金剛山、高倉山藤野駅裏の岩戸山より、雪で白い大室山(最奥)、道志の主稜線の前に名倉金剛山および鶴島金剛山の山稜。手前は一本松山。(2月)

藤野駅周辺には金剛山と名のつく山がいくつかある。その一つは日蓮大橋を渡って左手にあるもので、地名を冠して杉金剛山または日蓮金剛山と呼ばれるらしい。これは駅のホームからも間近に望められ、左手に宝山へと続く稜線を伸ばしている。これ以外にも藤野町名倉地区南方に高まる稜線に金剛山とされるピークが二つあり、西にあって高い方が鶴島金剛山、稜線中程にあるのが名倉金剛山と呼ばれるらしい。


中央本線藤野駅から弁天橋で相模湖を渡り、一本松山を越えて向原の集落に出るのが名倉金剛山に向かうときの定番コースらしい。一本松山を下ると車道に出てしまって山歩きの気分がそがれるが、春であれば軒先や道ばたで咲く花々が華やかで愉しく、左手にはゆるやかな谷間を隔てて杉金剛山が間近に見え、その背後には石老山が望めて展望も悪くない。振り返れば陣馬山がゆったりと稜線を伸ばし、生藤山や茅丸あたりの上下する山稜がちょっとした高山風情を醸し出している。
目にして愉しいのは山ばかりではなく、「芸術の町」を標榜する藤野町が配置した野外美術品も観て飽きることがない。空き地に直立する赤錆びた鉄柱、木々のなかに無造作に転がされた丸岩、山腹から睨む二つの目・・・。天然の照明と季節毎に移り変わる背景は訪れるごとに異なり、作品自体の表情もまた微妙に変わる。そして変わらない存在感が安心を呼ぶ。
畑地を抜けて稜線に登り出す
畑地を抜けて稜線に登り出す(4月)
集落を抜けると畑が広がる。金剛山へはその畑地の中を行き、稜線に上がるか細い踏み跡を追う。山道はすぐに幅広のものとなり、眺めのない雑木林の道を半時もかからずに稜線に出る。左に行けば藤野町の名倉金剛山、右に行けば上野原町の鶴島金剛山で、鶴島金剛山へは細くアップダウンがある雑木林の道を行く。山頂には大きな岩が鎮座しており、周囲は灌木に取り囲まれていて展望は梢越しだ。だが里近くの低山の明るさと周遊ルートから外れた山頂の静けさがあいまって隠れ家めいたよい雰囲気でもある。
鶴島金剛山山頂(2月)
鶴島金剛山山頂(2月)
来た道を戻って名倉金剛山に向かう。葛原から登ってきた登路を見送ると、足下はすっかり散策路になる。稜線は右手が切り立っていて危険防止の白い柵が設置されており、やむをえないとはいえやや興ざめだ。歩く道筋そのものは広く気持ちのよいもので、行路の真ん中に鎮座する胸の高さくらいの木の祠が目に入れば名倉金剛山だ。社は銅板葺きらしき屋根が大きく、小振りな本体と併せて全体に華奢で上品に見える。神々(の社)が集結している名倉の石楯尾神社に持っていっても存在感で引けを取ることはないだろう。
このあたりは南方の木々が切れて丹沢山塊や峰山の眺めがよい。とはいえ一番目立つのは遙か下に見下ろす病院の建物と駐車場なのだが。峰山の左手にある石砂山は手前の枝が被ってしまってよく見えない。正面に壁のように立つ丹沢焼山から黍殻山の右手には檜洞丸と大室山が覇を競い合い、その手前には道志の山々が臣下のごとくひれ伏している。
名倉金剛山より丹沢主脈(後)、峰山(中央)
名倉金剛山より丹沢主脈(後)、峰山(中央)
名倉金剛山の古峰神社
名倉金剛山の古峰神社
いまは傍らに「名倉金剛山」の標柱が立つ
名倉金剛山からはあいかわらず幅広の道で心地よい。途中、左手の草むらに隠れるように建つ社や、”高倉山”の文字がようやく読める錆びた山名表示の横たわる小ピークもあって飽きさせない。山道が下り始めると階段道となり、下り着くのは車道が越える天神峠で、ここも石楯山近くの名倉峠同様に切り通しとなっている。


左手に少し移動したところから山道は再開する。急な登りで始まる山道が落ち着くとベンチが現れ、傍らに”高倉山”の文字が明瞭に読める標識が立っている。その先には妙に頭の丸い石塔が地面から突き出していて土俗的な信仰の跡かと思わせられるのだが、表面に刻まれた読みとりにくい文面から察するに何かの記念碑らしい。
天神峠を越えてからは木々の枝振りが愉しいものの展望がない道が続く。眺めもよく明るい金剛山の稜線に対して高倉山の先はかなり内省的だ。コースが北に向きを変え、一度ばかり上野原方面が垣間見えたと思うと下りに転じ、いまいちど石砂山あたりを眺めてみたいものだと思うのも空しく周囲の山肌は徐々に高くなって遠望を遮り、相模湖に注ぐ秋山川が下方に垣間見えるようになる。
高倉山の標識付近に立つ石塔
高倉山の標識付近に立つ石塔
対岸のバイクの練習場らしきから響き渡る爆音を耳にしつつ、幻惑するように動く水面を見下ろしながらジグザグを切って急斜面を下っていく。この下りは好ましい雰囲気とは思えない。護岸された川縁近くに降り立つとじめついた川岸の林の中の道で、木道がしつらえてあるのが救いに思える。水辺近くなのだからもう少し明るい雰囲気であっても良さそうなものなのだが、残念ながらそうは感じられない。
前方が明るくなると藤野園芸ランドの一角である農家の脇に出る。ここからは車道歩きとなり、葛原と日連を結ぶ車道に出て右手に住宅地を見下ろしながら行くと大きな分岐に出会う。左に登り気味なのは軽く山越えして弁天橋に向かうもので、下がり気味に直進するものは秋川橋を渡って杉金剛山側に出る。いずれにしても車の往来で落ち着かない。


このルートは藤野駅を起終点とする回遊ルートとして手頃なのだが、藤野園芸ランドは別として、山を下り出すあたりから先が魅力的ではない。次に歩くときは高倉山から天神峠へ引き返し、向原に出て往路を戻ろうかと思う。
2005/04/17、2008/02/16

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