菜畑山への稜線から見た今倉山  今倉山

道志山塊の今倉山は、赤鞍・朝日山稜と御正体山との間にあって、これらの山々と雁行するように稜線を並べている。伊豆半島のところでユーラシアプレートの下に沈み込むフィリピン海プレートがこれらを大地の皺のように隆起させたのがよくわかる。
名と歴史のある御正体山や、秋山山稜のどこからでも見える赤鞍・朝日山稜と比べると、同じ道志の山でも今倉山は少々地味な感じがするが、東西に長い稜線の西端に道志二十六夜山、東端に菜畑山(なばたけうら)を従え、二つに別れた明瞭な頂上部を突き上げた姿はなかなか侮れるものではない。富士急行都留市駅から道坂峠までバスかタクシーで行けば山頂まではすぐだが、これではただ単に山頂を踏んだだけになってしまう。以前より、道志二十六夜山から今倉山を越えて菜畑山までの稜線を歩きたいものと思っていた。冬山教室に通って雪の上にテントを張るのに抵抗がなくなった春先、一泊二日で歩くつもりで出かけてみた。


まずは道志二十六夜山に登る。見通しのよくない登山道を上がった末の山頂直前には、道を塞ぐかのように大きな石碑が建っていて、何かの結界を示しているようにも見える。黒っぽい表面には『廿六夜』の文字が赤く彫られ、ここも秋山二十六夜山同様に、月待ちの行事に近郷の人々が集った山であることを教えている。そのせいか山頂は驚くほど眺めがよく、南西に御正体山を見上げ、反対側には九鬼山や高川山を見下ろす。本日は飛び石連休の合間の平日なのでだれもいないが、土日休日はかなり賑わうことだろう。
今倉山に向かうと、道坂トンネル付近から分岐してきた林道が既に稜線を越えているのにぶつかった。ここまで車で来れば道志二十六夜山へはわずか20分ほどで行けてしまう。この山が遊園地化するのも遠くはないのでは、と危惧しながら、ミルクセメントを大量に吹き付けられた斜面を眺めながら登山道の入り口を探す(林道を右手にやや下ったところにあった)。
本来は今倉山を越えて少なくとも菜畑山まで行ってテントを張ろうと思っていたのだが、松山という見晴らしのいいピークの先で今倉本峰直前の鞍部に下りようとすると雪がかなりあり、踏み跡が途絶えているように見えた。この季節ここを縦走する人はいないということだろうか、仕方ない、ツボ足で下りようと進んでみると膝までもぐる。これはまずい、戻ってスパッツを付けようなどと考えているうちに15時近くになってしまった。
これより先によいテントスペースがあるかどうかわからなかったので、この付近に幕営することにした。できるだけ平らな場所を探してようやくわずかなスペースを見つけはしたものの、土はところどころ凍っていてペグが刺さらない。それもそのはず、日が落ちた稜線は低山とはいえかなり寒く、厚手のシュラフを持ってきたのが正解だったほどだ。闇夜に首を出すと大月方面に光が多少見えたが、当方の灯したキャンドルランタンの光を見上げた人はいなかっただろう。


夜が明けて、昨日見落とした踏み跡が簡単に見つかったのには驚いた。ほんの少し手前のところで下っていくトレースがあったのだ。どうも昨日は時間に追われてゆとりを無くしていたらしい。そういう意味ではここに幕営したのは正しい選択だった。逆に言えば初期計画に無理があったということでもあるが....。かなり楽に鞍部まで下り、そのまま今倉山に登り返す。北面になる道筋はあちこちにアイスバーンがあって軽アイゼンがよく利いた。「御座入山」の標識のかかる西峰を経て広いが眺めのない東峰に着く。キツツキのドラミングが盛んに聞こえてくる。
菜畑山までは道志二十六夜山からのルートとは違って比較的なだらかなコースだった。だがこちらはヤブが多い。残雪も少なくないが、クラストしていて、潜っても踝が埋まる程度なので心配するほどでもなかった。むしろ昨日今日と春先にしては日中が暑いので冷房になってちょうどいい。山稜が湾曲しているため、菜畑山に近づくと左手に今倉山が形の佳い双耳峰の姿で現れてくる。丹沢方面の眺めがいい菜畑山頂にはあずま屋があって、長野から来られたという初老のご夫婦がビールで乾杯していた。お茶でご相伴したのち、道志川方面に下った。
2001/3/18-19

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