yagiya

ある日のフライト 乗員部

20**年**月**日

時間は6時10分、ショーアップまでにはまだ20分ある。

乗員部のドアを開けたらスケジュール担当の職員から「おはようございます」と声をかけられた。
担当デスクは一番ドアに近く、メールボックスの直ぐ前にある。
こちらも「おはよう」と挨拶してメールボックスをチェックする。
スケジュール担当は乗員管理のために我々パイロットよりも早くから出社している。
いつも、”ご苦労さまです”と心のなかで感謝している。

パイロットも体調を崩すことがあり、気分がすぐれない場合には休むことがあります 。
前日に変わってもらえる場合には問題無いですが、当日の朝急に休む場合もありますのでスケジュール担当は忙しくなります。
通常はスタンバイ乗員を呼び出しします。
スタンバイ乗員を置いてない日がありますので、その時にはスケジュール担当は大変です。
管理職、休みの乗員に当たったりと・・・
そのような事態に私も呼び出される時がありましたが、定期航空会社は便を維持する使命がありますのでできるだけ協力するようにしました。
今朝は何事も無いようで、静かに来月のスケジュールを考えているようです。

メールボックスには色々なものが入っている。
社内の連絡事項、JEPPESEON ROUTE MANUALの改訂、DFM(Daily Flight Monitoring)、SAFTY NEWS、組合の情宣・・・
ピンクの封筒にJEPPESEON ROUTE MANUALの改訂が入っている。
有効日にはまだ日があるので、さっと目を通して有効日前日に差し替えることにします。
メールボックスの後ろに現在天気、ゲート番号等がチェックできるモニターがある。
しかし、今日は早めにディスパッチルームに行きたかったのでチェックすることなくロッカールームに向かった。

奥のロッカールームに入り古ぼけた帽子をとってディスパッチルーム(運航管理室、あるいは航務)に向かった。
エレベーターで2階に上がり、身分証明書、フライトバッグのセキュリティー検査を受けた。
ジャンボの場合は10数名の乗員なので順番待ちをする時がある。
ショーアップまでの時間が迫っている時にはイライラしていまう。
それにしても、決まり事ではあるが日本には馴染めない全く形式的な光景である。
世界の何処かではパイロットもハイジャックするのだろうか???

検査を終えて、空港出発ラウンジへ入るにはドアの側のセキュリティー用の暗証番号を入力しなければならない。
一苦労してやっと空港内に入ることができた。
お客様も早くから出発ゲート近くで出発時刻を待っている。



自分が乗る飛行機がどれか、ゲートは何番かはチェックしてこなかったのでまだ分からない。
スポットに入っている飛行機越しに外を見ると今にも雨が落ちそうで雲は低い。
滑走路の向こう側の海は荒れており波が高くしぶきが上がり、慶良間諸島は霞んでぼんやりと見える。
飛行機の翼の先端、垂直尾翼のRUDDER(方向舵)が風に揺れている。

すぐ近いゲートの向かい側にディスパッチルームへの扉があるが、ここでも暗証番号が必要である。
二重三重にセキュリティーを強化している。
911以降世界は変わったのか?
難しい世の中になってしまったのだろうか?

絶大な信頼を得てお客様はパイロットに命を託し乗っていただく。
セキュリティーチェックをしないとその信頼が崩れてしまうのだろうか???
それとも、セキュリティーチェックをしているので信頼しているのだろうか?

フライト前にエネルギーを削ぐようなことを毎回こなさないと飛行準備もできないし、飛行機にも乗れない。
今日もそんなことを考えながらディスパッチルームへの階段を降りていった。
こんなことが無ければどんなにか楽だろう・・・
決まり事で、直ぐにはどうにもならないがついつい考えてしまう・・・
何事もなくディスパッチルームに直行し飛行準備を始めたあの頃が懐かしい・・・

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