ある日のフライト ディスパッチルーム |
![]() |
20**年**月**日 ディスパッチルーム(運航管理室or航務)は運航乗務員にとっては飛行準備のための重要な部署である。 大きな引き戸を引いて入ると目が合って挨拶する方、知らないかのように自分の仕事をこなしている方、皆忙しそうに準備をしている。 台風接近のため皆慌ただしく仕事をしている。 パイロットの”出発前の確認事項”については航空法で定められている。 1,当該航空機及びこれに装備すべきものの整備状況 2,離陸重量、着陸重量、重心位置及び重量分布 3,法第九十九条 の規定により国土交通大臣が提供する情報(以下「航空情報」という。) 4,当該航行に必要な気象情報 5,燃料及び滑油の搭載量及びその品質 6,積載物の安全性 1,の整備状況についてはファイルされているいるのをチェックし、詳細については飛行機に行ってから確認整備士からブリーフィングを受ける。 6,の積載物の安全性については飛行機に着いてから搭載担当の責任者からブリーフィングを受けます。 COPI(コーパイ・副操縦士)は既にクリアランスログに目を通していた。 「おはよう、今日はよろしく!」と右手を軽く上げお互いに挨拶した。 形式的ではあるが、「今日は体調はどうかな?」、「アルコールは大丈夫かな?」とお互いに確認した。 健康状態には全く問題がないことを確認し、先ずは天気図から目を通していく。 ![]() ![]() ![]() ![]() 天気図は入り口の右側の壁にところ狭しと掲載されている。 一番上左から右へそして下の方へ、高層天気図、観測時と予報、エマグラム(高度を縦軸に取り温度と露点温度と風が記載されている)、地上天気図、雲画像、レーダー画像等がある。 いつも見慣れた天気図に目を通したが、今日は特別に台風情報を念入りにチェックしなければならない。 一刻一刻と天気は変化していくので、天気図はフライトにはそんなに有効とは思えない。 これから準備をして飛び上がっていくまでにはかなりの時間がかかる。 それ故に、私はフライト現場で天気を読むことを重要視した。 その時の現場にて雲の状況を確かめ、揺れている場合は特に見過ごしそうな薄い雲に注意をはらう。 (自分流の揺れを避ける方法は後述する事にする) ![]() ![]() 天気図のチェックが済んだら今度はNOTAM(Notice to Airmen・航空情報)をチェックする。 コーパイに、「ノータムはどうかな?」と尋ねながら自分も目を通していった。 フライトに関わる飛行場施設情報、危険情報、軍事演習、花火等、飛行の安全に影響すると思われるもので特別に早く知らせる必要がある項目について箇条書きに示されている。 ちょっと見にくいのが難点でいつも改善を申し入れているがなかなか改善されない。 改善案も提案しているのだが、私の改善策があまり良くないか、それともやる気が無いのか1,2年くらい経っているが変わり映えがしない。 私は、いつも見たり使ったりするのはより良くなるなるように改善したくなる。 先日から新しいのは出てなくフライトに支障ないことを確認した。 コーパイと一緒に台風の進路予想図を見ると、宮古、石垣の手前から北東に進路を変え沖縄と大東島の間を通過する予想である。 まだ発達段階ではあるが沖縄本島及び先島も直撃することは免れそうだ。 しかし、あくまで予報であって予報通りに行くとは限らない。 計画段階では取りうるであろうコースについて考えながらプランする。 ROIG **2100Z 05032KT 9999 FEW007 SCT014 BKN040 24/17 Q0982 LATEST(最新)の気象情報は、風は強いが風向きがよくフライトには問題ない状況である。 Dispatch職員に現在の気象状況を石垣の運航担当者に電話で問い合わせたがほとんど変わらないようである。 石垣のランウェイは04/22であるが、今日はRWY04の風でほぼ正対している。 台風の進路からすると、しばらくこの風向きが続くのでクロスウィンドになる心配はない。 ちょっと気になるのは、台風の影響でレーダーエコー(雨域)が散在していることだ。 台風のスパイラルエコーの一番外側のエコーではあるが、これがかかると急に激しい雨になり同時に風が強くなる。 石垣は於茂登岳の影響で北西から吹いてくる風は揺れるが、北東風は障害物がないので揺れが少ない。 「風が強くなっても風向きがいいから問題ないな」と、コーパイとレーダーエコー図(雨域)を見ながら話し合った。 フライトの出発の可否判断は、到着予定時刻に着陸できる最低気象条件以上でなければならない。 幸いにも大きなレーダーエコーはなく、散在するエコーがかかったとしても長時間続くことはないと判断される。 ひと通り確認事項についてはチェックしたのでカンパニー・クリアランスログに目を通した。 日付、航空機番号、機長名、予定出発時刻、到着時刻、ルート名、飛行高度、対地速度、所要時間、搭載燃料の計画・・・等など 飛行高度については初便であるのでどの高度も選択できるがその選択に気を使うことはない。 何時間も前の天気図であれこれと解析することは無駄である。 上がってからでも雲の状況を確かめながらどの高度でもリクエスト通りに飛べるので標準高度である26,000feetにした。 搭載燃料は路線毎に標準的な燃料量が決められているが、気象状況その他の理由でパイロットと運航管理者が協議して決定する。 今日は、散在する積乱雲のエコーがかかると滑走路が見えずに進入復行も考えられる。 進入復行1回分の燃料と待機のための燃料、航路上での積乱雲を避けて飛ぶ燃料ロスも考慮する。 この便の燃料は特別に多めに搭載することで運航管理者と合意した。 ALTERNATE AIRPORT(代替空港)は通常は宮古空港に取るが、今日は台風の影響を考えて那覇空港にしている。 全てに合意したのでフライトプラン(飛行計画)を提出するようにお願いした。 客室乗員課から電話が入り、客室乗務員をショーアップさせるかどうか、それともシップブリーフィング(飛行機でのブリーフィング)なのか訪ねてきた。 それほど時間もなかったのでシップブリーフィングでやりますと伝えさせた。 機長は着陸できないかも知れないと出発するわけではない。 出発前の確認事項を十分に確認し着陸を確信して出発する。 しかし、分析が甘いのか稀には予想以上に天気が悪くなり引き返すこともある。 その場合には自分の至らなさと自然の凄さを実感する。 自然に逆らうことは出来ないので、無理をせずに代替空港に向かう。 搭載燃料量、お客様の数、バッゲージ、搭載貨物量が分かれば、離陸重量、着陸重量、重心位置、重量分布はコンピューターが計算してくれる。 運航管理の職員が、ウェイト&バランスシートを使い手書きで線引して求めていた頃を思うと随分と楽になったものだと思う時がある。 私を含めて古いパイロットは、昔のやり方、新しいやり方、両方共知っているが、若いパイロットは今やっていることが当たり前で昔のことを考えることはない。 航空機についてもそうである。 現在はグラスコクピットの航空機が当たり前だが、以前は素晴らしく精巧な機械式の計器であった。 グラスコクピットにおいてはフライトに関する情報は全て計算されて表示され、また自動操縦でその通りに狂いもなく飛んでくれる。 以前は、フライトに関する情報はパイロット自身が暗算で大体の数値を計算して操縦したものだ。 プロとして奥深いものがあったが、現在はボタンとスイッチで勝手に飛んでくれる。 余談になってしまったが、クリアランスログとウェイト&バランスシートに署名して飛行準備は完了した。 スポットは23番で、ボーディングブリッジ付きのターミナル先端の方のスポットである。 「それでは行ってきます」と運行管理のスタッフに声をかけてコーパイと共に飛行機に向かった。 ![]() 前ページ 次ページ |
|