yagiya

ある日のフライト プリフライト1(飛行準備)

20**年**月**日


            Boarding Bridge下方

出発ラウンジを通って23番スポットへ向かった。
出発ゲート付近では椅子に座っておられる方、立ち話をしてボーディングを待っている方々の視線を感じながらゲートに向かう。
パイロットは特殊な職業である故に注目を浴びる。
特別にお辞儀ををして挨拶するわけではないが、心のなかではいつも「ありがとう」と感謝の気持を抱いている。
今日は台風接近でもあり、”飛ぶのかな〜”と心配げにこちらを見ているような気がした。
「大丈夫ですよ、任せて下さい!」と言わんとばかりに、入り口からブリッジに入るときには、背筋をピット伸ばしてゆるやかな下りのフロアを大股で飛行機に乗り込んだ。

エントランスドアを入るとキャビンアテンダントは出発準備で忙しくしていた。
A Dutyから、「おはようございます、よろしくお願いします、ブリーフィングはどうしましょうか?」と聞かれたが後でやることを伝えた。

先ずコクピット(操縦室)に入った。
フライトバッグを左座席の左脇にあるそんなに広くないスペース(かばん置き)にフライトバッグを置いた。
(かばん置きのスペースは航空機の大きさにもよるがB767は余裕のあるスペースが確保されている)
整備作業があったりするとたまにはシートが前の方にあり一番後ろに下げられてない場合がある。
その場合にはかばんが操縦桿に掛かるのでシートを目一杯後ろに下げてから置かなければならない。
今日はしっかりと下げられており、たやすくかばんをを置くことができた。

             

決められている初めのプリリマリーのチェックリスト(確認事項)をコーパイと一緒に読み上げながらチェックしていった。

コクピットから出ると確認整備士がAIRCRAFT LOGBOOK(航空日誌)を持って客席の1番シートに腰掛けて私を待っていた。
私も彼の横に腰掛けてブリーフィングを受けた。
最近のスクォーク(小さなトラブル)の整備状況、定期的な整備状況、燃料、オイルの補給状況、キャリーオーバーアイテム(小さな故障でフライトには支障ないと航空局の認可を得ている修理持ち越しアイテム)等・・・
今日のフライトには何ら支障ないことのブリーフィングであった。

キャリー・オーバー,修理持ち越し(carry-over)
不具合状態の修理を,やむを得ず他の整備基地や以後の整備の段階に持ち越すこと。
この場合は,所定の検査従事者が耐空性に著しい影響をおよぼさないことを確認して,処理区分,方法,時期,および必要な暫定処置を,所定の用紙に記載しておかなければならない。

その飛行機を飛ばす最終的な判断はあくまで機長である。
機長が変わることで判断が変わってはいけないので安全を満足する標準的な判断基準を設けたのがキャリオーバー基準である。


確認整備士の署名の確認、ログブックの受け取りの署名を済ませてから、キャビンブリーフィングをするためにCA(Cabin Attendant)を集めた。
通常はキャビン通路にたってブリーフィングを行う。
通路は広くはないので、A Dutyは通路に、残りの2名とコーパイは左右座席の前の方に立ってブリーフィングをする。

先ず自己紹介から始めるので、機長は***、コーパイ***、A Duty ***、B Duty ***、C duty***と順番に名前を言いあった。
   (A Dutyとは先任客室乗務員といい、2名のCAは先任の指示で仕事を進める)
AとB Dutyはベテランで顔なじみであったがC Dutyはまだチェックアウトしたばかりの新人であった。
初めは何かと落ち着きがなくオドオドするが、かえって新鮮に感じられて「頑張れよ、任したよ」と思わずにおれない。
しかし、しばらくすると自信が出てきて頼もしくなってくるものだ。

私は、先ほど運航管理室で署名をしてきたカンパニークリアランスログをコーパイより受け取り説明した。
コーパイは台風の予想進路図を持ってきてあったので、先ず気になる台風について図を見せながら飛べることを説明した。
飛行高度、対地速度、飛行時間、宮古島の上空の通過予想時間、石垣の現在天気、この先の予想天気、予想される飛行中の気流の状況、シートベルトサインの運用、緊急時の各自の持ち場の確認、着陸できなかった場合の代替飛行場・・・等
台風接近のため上空の気流は良いとはいえないが、上がってみて分かるのでシーベルトサインを付ける場合の指示について念入りに説明した。

また特別なお客の情報、予約状況は彼女達が詳しいのでディスパッチで調べてきた数との相違をお互いに確認した。
台風接近にしては100名以上と予約が多く、15分前よりボーディング開始することを申し合わせた。

説明を終えて、「エニークェッション?」と聞いた。
A Dutyの方からキャビンサービスについての質問があった。
フライトの前半は比較的サービスができるかと思われるので、シートベルトが切れているのなら早め早めにサービスをやってくださいとお願いした。
”シートベルトを点灯させる場合には連絡を入れてから状況を説明します”ということと、”急に点灯したら先ず近くの空いているシートに座ること”についても説明しその後の情報についてはPA(アナウンス)を入れて指示することを申し合わせた。
「それではよろしくお願いします」と言い、ボーディング時間に合わせるべく各自の仕事を続けることにした。


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