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由香里さんが書いたサイドストーリー 「白い影−命の輝くとき」


■ 結ばれる二人の魂 1

ブラインドを上げると、ほとばしる光の夜が静かに部屋の中に流れてきた。
ガラスの向こう側に夜の空間が広がり、光に満たされた川が浮かびあがるように揺れている。
庸介は部屋の窓際に立ち、空間を流れてゆく光の舞いを見つめた。
無数の水の光は街のともしびと幾重にも重なり、闇を埋め尽くしながら遠く夜空の彼方へと続いてゆく・・・。

満面に水をたたえる川はどこまでも優しく流れ、まばゆい煌きが美しい夜の顔を見せていた。
しばらくたたずんでいた庸介はゆっくりと振りかえった。
白い闇が漂う部屋の中で、倫子の顔がぼんやりと見えている。
胸に両手をあて、じっと立ち尽くしたまま、まっすぐに庸介を見つめている。
夜の光を背にして立つ庸介の姿は影となり、その表情は倫子には見えない。
庸介のまなざしだけを白い闇に感じている。
二人の脳裏には、初めて出逢ってからのすべてのことが走馬灯のように浮かんでいた。

それは短い時の日々だったのか、長い時の日々だったのか、あの深夜の病棟で初めて触れあった時から、不思議な運命に導かれて、今お互いを見つめあっている。
二人の心に芽生えた不思議な想いが、少しづつ膨らみ続けてゆく中で、庸介と倫子はずっとお互いを求めあってきた。その実感が庸介と倫子の心を熱く揺れ動かしてゆく・・・。
やがて、影に染まった庸介の手が、ゆっくりと倫子に差し伸べられた。
その手に惹きつけられるように倫子はそっと指先を添えた。
優しい力に惹き寄せられて、二人の白い影が、透明な光に滲んで浮かびあがってゆく。
音の無い空間に、川の流れの音色だけが二人の耳に響いていた。
白い光に照らされて、初めて庸介の表情が倫子の瞳に映る。
口元にかすかな微笑を浮かべて自分を見つめる庸介の瞳は光のせいだろうか?
澄みきった瞳は空間に漂う光を映して蒼く染まり、わずかに潤んで揺れている。
倫子が思わずはっとなったのは、その瞬間の庸介の表情の何とも言えない豊かさだった。
それが異性の放つ独特の艶なのか、淡く優しい光の中で彼の姿がある不思議な雰囲気に包まれているように感じられた。

庸介の手がそっと倫子の額に触れる。細い指先は額から倫子の頬をつたい、ゆっくりと肩先へと流れ、それとともに庸介の影がゆっくりと倫子に傾いていった。
ぬくもりを確かめ合うように抱きあう二人の影がひとつになり、漂う光の中でわずかに揺れた。
震える想いに熱い瞼を閉じた時、ずっと沈黙していた庸介の声が倫子の耳に響いた。

『恐いか・・・?』声がさらに低くなった。
『・・・震えてる・・・』
倫子はかすかに首を振った。
『・・・先生の・・側にいたいんです。ずっと・・・ずっと先生の側に・・。』
庸介は倫子のやわらかい髪に唇を触れる。
『もう・・・もう離れたくないんです・・・』
倫子は背中にまわした手に力を込めた。ゆっくりと顔をあげながら庸介を見つめる。

『・・・私がいます・・。先生をもう・・ひとりにはしません・・・だから・・・』
言いかけた倫子の唇を庸介の指がおさえた。白い闇の中で倫子は言葉を失った。
優しいまなざしのままそっとうなずく庸介を見て、言葉を失くしたまま、倫子は無意識に瞳を閉じた。
胸の中に倫子の白い顔がある。かすかに開いた唇は花の蕾のように庸介の目に映る。
惹き寄せられるように、庸介は静かにその花に唇を重ねていった。
熱い口づけは二人の感覚のすべてを包み、それとともに時の流れがその歩みを止めてゆく・・・。
熱い性の予感に倫子の思考のすべては漂う光の中に消えていった。
倫子を抱きしめる庸介の瞳に、テーブルに置かれたガラスのボートが映る。倫子の身体のぬくもりを感じながら、庸介は小さなガラスのかけらに託された倫子の愛を想い続けていた。

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