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由香里さんが書いたサイドストーリー 「白い影−命の輝くとき」


■ 開かれた心の扉 7

”一人で乗るボートはあまりに寂しい・・・”
その倫子の想いは変わらない。不安に揺れる心を抱いたまま、庸介と離れたくはなかった。倫子は足元にあるタンポポの花を見た。最初、この花は春を待ち望む由蔵のために摘んできたものだった。
間もなくこの世を去って逝く哀しい運命のあの人に、ささやかな春の兆しを見せてあげるために。けれど、倫子は石倉と同じように小さな花を見つめていた庸介のまなざしに気づいていた。
それはタンポポを届けるたび、ずっと心の中に残っていた不思議な思いだった。哀しく、寂しさを感じさせる庸介の深いまなざし・・・。
一瞬、胸が痛くなるほどの熱い何かが倫子の胸に込み上げてきた。

『先生・・・!』
震えるような感情を噛み締めて倫子は庸介を呼んだ。
その声に庸介は足を止めて振り返った。倫子は胸に手をあてたまま、思いつめたような瞳をしてじっと立ちすくんでいる。
『どうした・・・?』
『・・・先生、私・・・タンポポ・・石倉さんのためだけに探していたんじゃないんです・・・』
『・・・』
『石倉さんのためだけじゃありません。本当は・・・本当は先生のために・・・先生にも見せてあげたくて・・・タンポポを・・・。私には石倉さんのように先生も春を待ち望んでいるように見えたから・・・どうしてだかわからないけど・・・タンポポを見る先生のほうが春を・・・。私、そう感じたんです・・・』

倫子は庸介をまっすぐに見て言った。溢れるような想いに身体が震えた。
『・・・先生!もう一人でボートに乗らないでください!憶えていますか?ボートの約束・・・。私、忘れていません!いつかボートに乗せてくれるって・・・。二人で乗るって・・・。一人で乗るボートは寂し過ぎます・・先生はそう思わないですか・・・?!
私・・・先生のこと・・まだ良くわからないけど・・・なんだか・・・先生が・・・先生が消えちゃいそうで・・・』

込み上げてくる想いに胸が熱くなった。
『お願いです! 何もかも一人で抱え込まないでください・・・!
もうそんなに気持を押し殺したりしないで・・・! 辛いんです。そんな先生を見ているのは・・私辛い・・。先生は・・先生は一人ぼっちじゃありません・・・!』
庸介は立ちすくんだまま目を見張って倫子を見つめた。
『・・・先生は・・・一人ぼっちじゃない・・・』倫子の瞳から大粒の涙が溢れ、嗚咽が漏れてきた。
『ごめんなさい・・。私には何にも出来ないけど・・でも、どうしようもないんです! もう・・・もう引き返せないんです・・この気持・・・』
それから先はもう声にはならなかった。
喉からでる嗚咽をこらえながら倫子は庸介を見つめた。

庸介は無意識に倫子に歩み寄り、頬をつたわる涙にそっと手を触れた。
『・・・私じゃ駄目ですか・・・?先生・・・私じゃ・・・』
目の前にある庸介の顔が熱い涙でかすんで見えた。
『・・・ごめんなさい・・・しつこくて・・・私・・・ごめんなさ・・・』
瞬間、庸介の唇が倫子の言葉をさえぎっていた。
崩れ落ちるように倫子の細い身体が庸介の胸におさまり、庸介の腕が倫子の震える身体を抱きしめた。
倫子の瞳から溢れる熱い涙は庸介の頬をつたい、二人の唇を濡らし、流れておちた。川の水面の光が無数に浮かび上がる闇の中で、庸介は倫子の震える身体を抱きしめた。
冬の冷たい静寂の中、静かに流れ続ける川の波音が抱き合う二人を包み込んでいった。

『・・・君は強い・・・強いな・・・』
かすかな波音とともに、庸介の息ような声が倫子の耳に熱く響いた。
庸介の唇が倫子の濡れた瞳に触れ、熱い余韻の中でそっと瞳をあげると、庸介の潤むような深いまなざしが倫子を見つめていた。
庸介はかすかにうなずきながら、倫子の頬をつたう涙をぬぐい、細い指先が髪を優しく撫でていった。

庸介への熱い想いに溢れる心を感じながら、倫子は庸介の胸に顔をうずめた。倫子の震える身体を胸の中に抱きしめたまま、庸介は静かに流れ続ける川の波音を聞きつづけていた。

Part5に続く

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