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由香里さんが書いたサイドストーリー 「白い影−命の輝くとき」


■ 開かれた心の扉 1

食事を終えた二人は車に乗ってレストランを後にした。
バイクを川辺に残したまま来てしまったと言う倫子に、庸介はうなずいて行き先を告げた。都会の大通りを曲がるにつれて車はビル街から少しづつ離れてゆき、住宅街へと近づいて行く。
しばらくして街の通りを行き過ぎ、橋を渡ると倫子がいつも病院へ通う川沿いの道へと車は進んでいった。
川に連なる道へ入ってしまうと、行き交う対向車の数も急に少なくなり、車のライトに照らされた道だけが白々と浮かんで見えている。
倫子は車窓から広がる夜の川に視線を向けた。
暗い川面は星空の色をそのままに溶かして、ゆるやかに川下へと流れてゆく。いつも見慣れている夜の川であっても、今夜はひときわ輝いて倫子の瞳に映っている。

庸介と夕暮れの川岸で出逢い、彼とともに幸せなひとときをともにした倫子の心は、豊かな情愛とときめく想いに甘く満たされている。
無口で決して多くを語ることの無かった庸介が、重い口を開いて昔の自分のことを話してくれたことが、何よりも倫子には嬉しかった。
尊敬する恩師、七瀬との懐かしい思い出、今まで知らなかった行田病院へ転院してきたいきさつ、そして彼自身の医療に対する情熱と生きがい・・・。
そのひとつひとつがまるで彼自身の物語のように倫子の心に浮かんでくる。あの孤独な心を閉ざしたままでいた庸介が、少しづつ見えなかった心の内を解き明かすように語ってくれたことは何よりも倫子の心を暖かく潤している。

愛する人のことを知る、心が触れあうような満ちたりた時間を庸介と過ごせたことが、倫子にとって何よりも幸せだった。
夕日に染まる川のほとり、彼に抱きしめられたあの瞬間は、倫子にとって鮮烈なとまどいでもあったけれど、倫子のすべてを包み込むような庸介の熱い抱擁には、彼の偽りの無い深い情愛が感じられた。

”もしかしたら・・もしかしたら、先生に愛されているのかもしれない・・・”
そのほのかな想いは、倫子の心を豊かにさせた。
庸介のまっすぐに自分を見つめる優しい澄んだまなざしの中に、倫子は本能的に彼の愛を感じとっていた。美しい光のきらめきに満ち、穏やかに流れる川は、倫子のそんな心を表しているかのように豊かに流れ続けてゆく。

”このまま・・・時が止まってくれれば・・・”
そんな想いが倫子の心を揺れ動かしていた。

『家は・・・この近くなのか?』
車に乗ってからずっと沈黙していた庸介が口を開いた。その声に庸介を振り返ると、彼も車窓から広がる川の夜景を静かに眺めていた。
『あ・・・はい。ここからはすぐ近くですけど』
庸介はしばらく黙ったまま、伏せ目がちに言葉を続けた。
『バイク、乗って帰るのか?』
『え・・・?』
『飲んでるだろ。大丈夫か?』
『あ・・・はい、あの・・・大丈夫・・だと思います』
『そうか・・・』
『あ・・・でも・・あのう・・・』
倫子は少し言いよどんでから言葉をついだ。
『あの・・・先生。止めていいですか?車』
『ん?』
『・・・車から降りたいんですけど・・・』
倫子は視線をそらして、うつむきながら言った。
『どうした?』
『少し・・風にあたりたいなって・・・』
『風に?酔ったのか?大丈夫か?』
『いえ、酔ってるわけじゃありません。そんなに飲んでませんから・・・でも・・すみません。いいですか?』
『・・・』
『・・・少し風にあたって歩きたい・・って思って』
『ん・・。わかった』

庸介は倫子の言う通りに運転手に言って車を止めさせた。
二人は川沿いの道で車を降りた。
車が走り去ってしまうと、静まりかえった暗い夜道に取り残されたように、二人の影が淡くぼんやりと浮かんで見えた。晴れ渡った夜空の遥か高く、曇りの無い月が輝いて暗い夜道を白く浮かび上がらせている。

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