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由香里さんが書いたサイドストーリー 「白い影−命の輝くとき」


■ ふれあう心 7

『昔・・・先生に厳しい一喝を受けたんだ・・・』
『直江先生が? あの七瀬先生にですか?』
倫子は目を見張った。
『ん・・・』

庸介は懐かしそうに笑みを浮かべながら続けた。
『初めて癌の患者を受け持った時。もう手の施しようの無い末期の状態で、告知するかしないかで心底迷った。その時先生に、告知が辛いようなら医者になる資格は無いと言われた。
それが充分に解ってはいても、治ると信じる家族を前にしてやっぱり辛くて、まだ迷っていたら・・・その時に・・・』
『告知を・・・』
『医者になるなら、受け持った患者や家族に対して最後まで気持ちを共にしてやれと・・・そうあの人は言ったんだ』
『気持ちを共に・・・患者と・・・。あの先生が』
『何に染まることも無く、純粋に医者の職責を真っ当する先生のような医者になるのが・・・夢だった。
あの人の元で教室の研究を続けたかったのも本当だ』
『それがどうして?』

庸介は遠い目をして窓の向こうに映る川の流れに視線を移した。
暗い川面は深い色合いをさらに増してゆき、静かな輝きに満ちている。
それを見つめる庸介は不思議な眼差しになっていった。

『ある時・・・もうひとつの・・・医療に気付いた』
『もうひとつの医療?』
『自分に出来うる限りの・・・可能な限りの治療だ。それは・・メスを握るだけでなく、技術を超えて・・・』
『・・・』
『それが医者の道を選んだ・・・自分自身の生きがいに繋がる。そう思った。』
まっすぐに倫子を見つめる庸介の瞳は不思議な光に満ちていた。
『医者の生きがい・・・先生の・・・』
『ん・・・。まあ、なかなか七瀬先生のようにはいかない。まだまだ未熟で不器用だからな、俺は。
大学の面倒な雑事にとらわれずに、臨床に専念したかった。』

庸介の言葉をじっと聞いていた倫子はしばらく考えてから言った。
『そうだったんですか。だから先生はあんなに石倉さんに・・・。
わかるような気がします。先生の気持ち・・・。
私、先生が行田病院に来てくださって嬉しい。ホントに嬉しいです』
『・・・』
『だって、先生と出逢って・・・・』
倫子はわずかに頬を赤らめながら言葉を続けた。
『先生と出逢えて、本当に良かったです。先生は本当に患者さんの気持になって治療できる先生だなって・・・』
『・・・』
『石倉さんの時も、宇佐美さんの時も。先生の嘘の意味が私にも理解できるようになって・・・。
たくさんのことを教わって。先生は未熟なんかじゃありません。私・・・』
そこまで言って倫子はまっすぐに庸介を見つめた。
『尊敬します。七瀬先生も、直江先生も。』
庸介は静かな笑みを浮かべて微笑んだ。

『君は最初・・・俺を見て泣いて非難したな。あの時・・・』
倫子は一瞬、思い出してとまどった。
『あ、あの時は、その・・・。まだ先生がどういう人か全然わからなくって・・・。
何を考えてるのか、驚かされることばかりだったし。』
『君の一喝もなかなかだったな。正直言うと・・・結構きいた。あれは。』
『あ・・・そんな、一喝だなんて・・・すみませんでした。でも、あれから私も少しは成長したつもりです』
『そうか。そうだな・・・。それでいい』
『はい。先生』

遠く彼方から船の汽笛がゆるやかに聞こえてきた。
かすかに響くその汽笛に惹き寄せられるように庸介は流れるようなまなざしで窓の夜景に視線を移した。
遠く光の彼方、夜空を見つめるその瞳は、倫子が病院の屋上で見ていた彼の瞳と同じように感じられた。
遠い瞳は何を映しているのだろう・・・。
倫子は庸介の瞳を追って、同じように夜景の空を見つめていった。

Part4に続く

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