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由香里さんが書いたサイドストーリー 「白い影−命の輝くとき」


■ ふれあう心 5

『偉い先生なんですね。それになんだか・・ほら、とっても心が広くって、すごく頼れそうな感じで。素敵な先生ですね』
『あの人は人格者だ。医師としても、人間としても。心から尊敬できる。』
『そうなんですか。立派な恩師の先生なんですね。でも恩師の先生と言うよりも、なんだかまるで・・・まるで先生のお父さんみたいな感じだったです。あの七瀬先生。』
庸介は目をあげて倫子を見つめた。
『なんだかあの時、ふとそう思ったんです、私。仲良さそうに並んで歩いているお二人を後ろから見てて。何となく親子みたいだなぁって。ちょっと先生が羨ましかった』
倫子は小さく笑って言った。

『あ・・・私、あの・・・小さい頃に両親が離婚したって言いましたよね。
だから、ああいう心の暖ったかそうな優しい目をした年配の人を見ると何となく憧れるんです、昔から。小さい時からお父さんいなかったから・・・。
特にあの時は、先生のお父さんのように、そんな感じに見えて・・・。いいなぁって。』
庸介は倫子の言葉に何かを思いめぐらすようにじっと耳を傾けていた。
ゆっくりと煙草の灰を落とした。
『確かに、ある意味では父親のような人だった。七瀬先生は。
奥さんも3年前に亡くして、身体の弱い人だったから子供もいない。だから俺のことも息子のように・・・』
囁くように語った庸介は遠い目になっていった。
『あの人には、本当にいろいろなことを教わった。今の俺があるのは先生のおかげだ。感謝してる。』
『そうなんですか。素晴らしい先生なんですね。それで先生はもう? 長野に帰られたんですか?』
『昨日・・・。東京駅で見送った』
『先生、次の日仕事お休みだったでしょう。だったらずっと一緒に? 七瀬先生と一緒だったんですか?』
『ん』
『そうなんだ・・・。久しぶりに懐かしい先生と二人で、いろんなお話できたんでしょう?
良かったですね。どんなお話したんですか? 先生』
倫子は少し考えながら続けて言った。
『あ、昔の・・・先生が学生時代の話とか、それから教室での講義とか、研究の話とかたくさん・・・』

庸介は煙草の煙を吐きながら静かに首を振った。
『あ、じゃあ、どんな話・・・?』
『雪かき』庸介は静かに倫子に微笑んだ。
『え?』
『雪かきの話』
『雪かき・・・先生と・・・』
『先生は雪かきの指揮官なんだ。俺の雪かきが一番上手かったって誉めてくれた。』
庸介は静かに続けた。
『向こうの雪の多さは東京とは比較にならない。
毎年雪が積もる季節になると、教室のみんなを集めて雪かきの陣頭指揮をとるんだ。七瀬先生は。最初はみんなはりきって参加しても、途中で根をあげる奴がほとんどで・・・。
いつも最後は先生と二人で雪をかいてた。』
『二人で雪かきを・・・』
『大学を卒業して長野へ行った時、初めて先生と逢った時もあの人は一人で雪をかいてて・・・それを手伝ったのが最初だった。』
『・・・』

倫子はそんな庸介を見つめながら小さく答えた。
『先生と雪かき・・・。いい思い出ですね・・・とっても。何だか羨ましい。』
『・・・』
『あ、私・・・前にいた病院は、あまりいい病院じゃなかったっていいましたよね。
尊敬できるような先生なんていなかったから。だからその、とっても羨ましいです。
そんな素晴らしい先生が恩師だなんて。』
『そうか』

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