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由香里さんが書いたサイドストーリー 「白い影−命の輝くとき」


■ ふれあう心 4

”先生の側にいたい・・・。このままずっと先生を見つめて”
一度は自分のことを拒絶した庸介だったが、あのときの彼自身、そうしなければならなかった何かがあったのかもしれない。
庸介への想いがつのればつのるほど、倫子は彼の心を理解してあげたい気持が強くなってくるのを感じていた。
彼に抱しめられた時から、その想いは倫子の中でさらに強く・・・。

”何が先生を変えたのだろう・・・?”
その思いが心によぎった時、倫子の脳裏に庸介に会いにきた初老の紳士のことが思い出された。
あの人の年齢は60歳前後だったろうか?
気さくに片手を上げて庸介の名を呼びながら、懐かしそうな笑顔で微笑んでいた。
”あの人を迎えた時の先生は・・・”
あの紳士の面会にはかなり意外そうだった庸介だったが、あの時の嬉しそうな彼の笑顔は倫子の心の中に強い印象となって残っていた。思わず聞きたい衝動に駆られた。

『あの、先生。今思い出したんですけど。先日、病院に先生を訪ねてきた方がいらっしゃいましたよね』
庸介のグラスにつけかけた唇が止まった。
『あの、おとといの夕方です。先生がお帰りになる時、病院の玄関でお逢いになった男の人。
たしか先生って。ちょっと年配の方でしたけど・・・』
『七瀬先生のことか』
目を伏せたまま庸介はゆっくりとグラスを置いた。
『七瀬・・・先生とおっしゃるんですか?』
『ああ』
『先生にとってあの人は?』
『あの人は・・・俺の恩師だ』
『恩師・・・』
『長野の病院での・・・』庸介は倫子の目を見てそう言った。
『先生の恩師・・・。長野の病院の時の・・・。ああ、そうだったんですか』
庸介はかすかに微笑んでうなずいた。

『先生の恩師の先生だったなんて・・・』
倫子は病院へ来た時の七瀬の面影を思い浮かべて言った。
『とっても優しい感じの先生でしたね。長野から先生に逢いに東京までいらしたんですか?』
『ん・・・』
『先生の肩に手をかけて握手してましたよね。懐かしそうに。
とっても優しそうな笑顔だった』
倫子は庸介を見ながら少し思い出したように続けた。
『でも、七瀬先生も印象的だったんですけど、あの先生に逢った時の直江先生の方が・・・私にはもっと印象的だったんですよ』
倫子は悪戯っぽく笑った。
『・・・?』
『だって、あのう・・・あの時の先生は、何て言ったらいいか・・・先生、ホントに嬉しそうだったから。』
『・・・・・・』
『あんなに嬉しそうな笑顔の先生・・・私、初めて見ました。ちょっとビックリしたくらいです』

確かにそうだった。倫子はあんなに嬉しそうな笑顔の庸介を見たのは初めてだった。
普段、あまり感情を面に出さない庸介を見慣れている倫子にとっては珍しい彼の態度だった。
『そうか?』
『あ・・・だって嬉しいのは当然ですよね。恩師の先生が長野からわざわざ逢いに来てくれたんですもの。直江先生に逢いたくて東京まで出て来られたんでしょう?』
『ん』
『先生と同じ外科の?』
『ああ。七瀬先生は信州医大の教授だ。それも第1外科・・・』
『教授先生なんですか』
『大きな教室を主催してる。大学の教室・・・。大所帯の中で、診療、研究、教育の三役をこなさなければならないからな。仕事は多忙を極めてる』
『大変なんですね。大学の先生って』
『忙しいのに時間を作って来てくれた。それが嬉しかった。』
庸介は右手に持ったグラスを揺らしながら静かに微笑んで言った。

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