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由香里さんが書いたサイドストーリー 「白い影−命の輝くとき」


■ 倫子の想い 8

そっと横を見ると、庸介の膝の上でバケツに摘んだタンポポが揺れている。
その小さな花たちは倫子の目に、寒さに身を寄せ合い、お互いをかばいあっているように思えた。.
庸介もそんな花を静かに見つめている。
”先生がタンポポを抱っこしているなんて・・・”
病院のみんなが見たら何て思うだろう?ふと、そんな思いが倫子の心をよぎった。
自然とこみ上げてきた不思議な思いに、クスリと小さく笑った。

『ん・・・?』 庸介が倫子を振り返った。
『あ・・・。いえ、あのう、ちょっと・・・』 倫子は慌てて口元に手をやりながら答えた。
『何・・・?』
『いいえ、何でも・・・。あのう・・ただ・・・。』 倫子は上目使いに庸介を見て言った。
『タンポポ・・・膝に抱っこしてる先生を見たら、みんながどう思うかなぁ・・・なんて・・。』
『みんな・・・?』
『はい。病院のみんなです。』
『・・・可笑しいか?』庸介は不思議そうに聞き返した。
『はい、ちょっとだけ・・・』倫子は悪戯っぽく笑って答えた。
『そうか・・・』庸介はわずかに苦笑しながら、細い指先でタンポポの花に手を触れた。

そんな庸介の端整な横顔は、車内の淡い光の中で青白く浮かび上がるように倫子の目に映った。その透き通るような白い横顔は、抱きしめられた時に感じた彼の頬の冷たさと重なった。
額に触れたときの、庸介の頬・・・。
それは、倫子の方が温かいと感じさせるほどに冷たかった。
そういえば倫子の手からタンポポを受け取った時も、彼の手はとても冷たく凍えていた。
”先生は一人で・・・いつからボートに乗っていたんだろう・・・?”

あの川の岸辺で、庸介と出逢ったことは不思議な偶然だった。
子供達に導かれて、春のように咲くタンポポを見つけて夢中になっていた時、水鳥の鳴き声でボートに乗っている庸介の姿に気付いた。眩しい夕日の中で、庸介はボートの上からまっすぐに自分を見つめていた・・・。

”先生も一人で・・・ボートに乗って川を流れて・・・” 倫子の心は不思議な想いに揺れる・・・。
あの日・・・、庸介の部屋で、初めて自分の気持を打ち明けたあの日。
庸介へのつのる想いから倫子も一人でボートに乗った。
優しい川と一緒にあっても、高く澄みきった空をどれほど近くに感じていても、なぜか言い様の無い不安と心に染み入るような寂しさを感じた。
まるで空と川の間に自分一人だけが取り残されたような、胸が締め付けられるような孤独に思わず身を震わせた。

今までずっと、川の優しい流れに癒されていたはずなのに、埋めようのない寂しさに自然と涙が溢れてとまらなかった。
”空と川をこんなに近くに感じていても、先生だけがいない・・・”
その想いは今まで倫子が感じたことの無かった、初めて意識に生まれた震えるような孤独だった。
庸介を愛し、彼だけを見つめつづけるようになってから、熱い想いとともにその孤独な心も倫子の中で膨らみつづけていたのだろうか・・・。あんな気持を意識に感じたのは初めてだった。

”一人で乗るボートは寂しすぎる・・・”
自分の心の中にひしめく孤独と、抑えきれない不安な気持をどうしていいのかわからないまま、倫子はそのまま庸介の元に行った。
”先生はどんな思いでボートに乗っていたんだろう・・・?”
流れる川と空を見つめながら、庸介の心はその時、何を感じていたのだろうか・・・。

多くを語らない庸介の胸の内を倫子は想いつづける。
”先生と同じ思いを感じあいたい・・・。”
哀しい時も嬉しい時も、そして苦しい時であっても、庸介と同じ時、同じ思いを感じあいたいと、倫子は願い続ける。
彼の側にいられることで満たされる孤独と幸せを実感しながら、倫子の心は庸介の心を求めて揺れつづけていた。

Part3に続く

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