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由香里さんが書いたサイドストーリー 「白い影−命の輝くとき」


■ 倫子の想い 7

暮れなずむ光の中で庸介と倫子の影は時おり重なり、また離れながらゆっくりと揺れている。かすかに浮かんで見える庸介の細い影を見つめながら、心の中に溢れる熱い想いを倫子はじっと噛み締めていた。

”先生は、私に話してくれるだろうか・・・?”
彼が心の裏側に秘めている、哀しい孤独のわけを・・・。
”いつか先生は、話してくれるかもしれない・・・”

いつの日かその時がくるならと、倫子は願う。抱きしめられた時から身体に残る庸介のぬくもり・・・。
凍てつくような真冬の風の中であっても、庸介と触れ合った感覚は、優しい実感として倫子の心を満たしている。
それは倫子にとって甘く小さな、しかし確かな幸せだった。

『車だ。あれに乗って行こう。』
庸介の声に倫子はハッと我にかえった。
思わず顔を上げると、立ち止まった庸介が倫子を見つめていた。
『どうした・・・?』
『あ・・・いえ、何でも・・・。何でもありません』倫子は小さく笑って答えた。

星が高く見え始めた夜道で、吐く息が一段と白くなった。
気がつくと、暗くなりかけた夜道の向こう側から、車のライトが近づいてくるのが見える。庸介は無言でうなずき、車を止めるために軽く手をあげた。
一台のタクシーは、眩しいライトの光を照らしながらゆっくりと二人の前に停車した。

『この前のところでいいか?』
『え・・・? この前って・・・。あ・・・あの川の夜景の素敵なところ・・・? 先生が初めて連れて行ってくれたところ・・・ですね』
『ああ・・・』
『はい』倫子は素直にうなずいた。
二人は後部座席に乗り込んだ。庸介が行き先を告げると車は静かに走り出した。

車内は暖房がとても良くきいていて乾燥した空気に包まれている。外の冷気とは比較にならない車内の暖かさに、倫子はほっと息をついた。

タンポポを摘んでいた時から、冷たい冷気にかじかんでいた指先は感覚が無くなりかけているほど冷たく凍えている。
倫子が息を吹きかけてこすると、指先の血管が少しづつ緩み始めるように膨らんでゆき、再び血がかよいはじめるような感じだった。冬の冷気に包まれて堅くなっていた身体も次第に暖められて、乾燥した空気に馴染むようにゆっくりとやわらいでゆく。
手をさすりながら窓から見える夜景に目を移すと、静かに流れる川はいつのまにかその色を暗く染め変えていた。
流れる水面の波は街の灯火を移しながら揺れ動き、少しづつ淡い輝きを増してゆく。夕日に紅く染まっていた空も、徐々に蒼くその色を変えてゆき、遠く無数の星がちらつきはじめていた。

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