お題10『首輪』          
 
 

 
 
 
 

『帰ることだけ知っている』7 

 
 

そのころ…。 

中尉達が事態の裏を推察していたその約10分と後… 

ロイ・マスタングとハイマンス・ブレダ両名は正確に同じ結論を導き出していた。 
情報の少ない人間が結論を出すにはもちろん罠にかかってからでしか無いのだが。 
 
 

 自分たちのために仕掛けられていた大量の爆薬は爆発した。 
それは地面に埋められており、爆発した時にはそれこそ大地を裂きえぐり、地の底から天に向かって火柱を吹き上げた。 
周囲にあったものは、すべてその火柱に巻かれるか爆発の衝撃に轢殺され吹き飛ばされた。 

しかし彼らはとりあえず生きていた。それだけでなくほぼ今のところ5体満足ですらあった。 
背中に火柱が上がり衝撃波で車が横転したが、それも隣の倉庫の扉をぶち抜いて止める事に成功したし、頑丈な倉庫の壁と屋根はとりあえずおちかかる火の手をふせいでもくれた。 
これらは運となによりもとりあえずブレダのお手柄であった。 
「だ…大丈夫ですか?大佐」 
頑丈な軍用車の下からはい出してブレダはぜぃと息を吐いた。 
「とりあえず生きているな」 
轟音で耳が死んで、あちこち打ち身でどうにかなりそうだが。 
彼よりはいくらか楽に車の下からはいだしてロイはバカになった耳を何度も叩く。 
「しかしよく分かったなブレダ」 
倉庫街の使い古された煉瓦の舗装道路の真ん中の一部が新しいことをいぶかしく思ったブレダがその場所を迂回して避けようとしたためにロイ達は地面に大量に埋められた火薬の爆発、火柱をまともに浴びずに済んだのだ。 

「分かったわけではないですよ。ただこういう重い荷物が行き来する場所で敷石を真ん中だけ取り替えるというのはあり得ない気がしたんで」 
ブレダは一緒に乗っていた二人の面倒をみながら悔しそうにつぶやいた。 
「わかっていたらあいつら殺さずに済みましたよ…」 
車で走っている最中のことではあったし確証がもてなかったためい指示が遅れた。 
そのためにトラップは少し離れて後ろについていた護衛車が踏んだのだ。 
「いや、とりあえずお手柄だ…ここを生きて抜けられたらな」 

爆音は収まり炎をはくごぉぉぉという音に変わっている。そしてその音に紛れて大勢の人間の声が聞こえてきた。 
なにやらさがせーというような声と怒号とが殺気に混じり合って倉庫の中にも届く。 
「…まぁトラップ一個かけっぱなしではないと思いましたけれどもね」 
「ふん、午前中の倉庫街にしては働く人の気配が少ないと思ったが…あらかた人払いされたか?」 
で、いるのはテロリストばかり。 
「でしょうね」 
ブレダはため息を吐いて立ち上がった。 
「どう出ますか」 
「そっちの二人はどうだ?」 
「戦えます」 
「多少怪我はありますが問題ありません!」 
元気な返事にとりあえずロイにほっとした笑顔が浮かぶ。 

「じゃぁお前達は隠れていろ」 
「大佐?!」 
「それが一番いいでしょうねぇ」 
部下達の悲鳴にブレダが苦笑した。 
炎に混じる声や気配は10や20は軽く越えている。 
この人数差だ。4人固まったところでなぶり殺しがいいところだ。むしろ動きが鈍くなるし、目立つ。それよりも… 
「奴らはすぐここを見つけるだろう。とりあえず私とブレダが派手に暴れて逃げ回るから
敵がいなくなったらここを抜け出して軍と連絡を取れ」 
この爆発なら憲兵は割とすぐに駆けつけてくるかも知れないが、そうなると混戦、被害が拡大しかねない。 
これだけの火薬を持ち込んでいる連中だ。持っている装備も憲兵の通常装備で太刀打ちできるものではないだろう。 
「迅速に軍を動かす必要がある、わかるな!」 
「しかし大佐!それならば大佐がおとりになるようなマネは!」 
「ふん、テロリスト全部を引きつけようというんだ。私にしかできないことさ」 
戦力も最強…発火布が使えればだが。 
「やっぱりそうなんでしょうねぇ」 
ブレダが銃に弾を補充しながら大佐の言葉に応えてのんびりとつぶやいた。 
やはりブレダの同じ意見のようだ。 
「奴らの狙いは私だろうからな」 
「大佐!」 
しかし突き放された兵士達がそれ以上何かを口にすることは許されなかった。 

「来るぞ!隠れておけ!!」 
「はい!」 
上司の問答無用の命令に部下達は条件反射で反応するとさっと奥に積み上げられた荷物の中に潜り込んだ。 
そしてロイは地面に錬成陣を書くと倉庫の床を隆起させひっくり返った車をとりあえず表に返した。 
「動きそうか?」 
「エンジンはかかりますけどフロントがつぶれているんで使えそうにないですね」 
「エンジンがかかってとりあえず動けばいい」 
外の騒ぎが大きくなる。破壊されたドアを見つけたようだ。 
「それは大丈夫そうです。バッテリーもオイルかぶってませんし」 
ブレダは後ろに積んであったガソリンのタンクを引きずり出して入り口に放り投げる。 
外のテロリストが入ってくるタイミングでロイはそれに拳銃を何発も撃ち込んで爆発させた。 
タンクは爆発して周囲に火の固まりをまき散らす。
「うわぁ!!」 
「もういっちょ」 
エンジンをかけた無人の車を入り口につっこませる。 
そしてロイが濡れている発火布を付けた手をかざした。青い錬成光が走り入り口に溜まっていたテロリストのど真ん中でそれは倉庫の壁を巻き添えにして爆発炎上した。 
「バッテリーはいい点火装置だな…」 
エンジンのかかった車の内部に高濃度の可燃ガスを発生させてみたのだが…、 
その破壊力にロイは思わずしみじみと吹き飛んだ壁を検分してつぶやいた。 
「なにのんびりしているんですか!すぐ次来ますよ!」 
「そうだな」 
二人は破壊された壁から飛び出して、とりあえず倉庫が密集している見通しの悪い方へ走った。 
しかしその逃げ道をふさぐかのように人の足音がいくつも倉庫の壁に反射して届く。 
「なんてまぁ、こちらのルートは想定済みかね」 
倉庫と倉庫の隙間に飛び込んでロイは大きく息を吐いた。 
「逃げ出されたときの行動は当然向こうもシミュレーション済みでしょうな」 
「そこまで向こうは想定していると……ま、当然かな」 
「タイミングが良すぎますからな」 
「良いも何もはなっからこれがねらいだったんだろうさ」 
気がつかなかった自分は迂闊だったがな…。ロイはふてくされたような声でそれに返事をする。 

「たしかに俺もうかつでした」 
イーストシティにまで行って奴らの動きを見たはずなのに。 
ブレダが苦虫をかみつぶしたような顔を隠しもしないで自分に毒付いた。 
罠を仕掛けられてねらわれて… 

ブレダとロイが同時に理解した結論。 

「奴らは最初っからコレが狙いで事を起こしたと言うことだ」 
 
 
 
 
 

分かってしまえば大概の話はひどく簡単で単純なことだ。 
 

まず、イーストシティに戦端を開いて、小競り合いを起こす。姿を見せ、隠れ… 
通常よりも人数が多いように偽装、いかにも大きな問題が発生したように見せかける。 
実際に直接ぶつかるような戦い方をしなければそんなに難しいことでも無かろう。 
いきなり問題が増えればまだ就任して日も浅いハクロよりもロイの方に問い合わせ、連絡非難が来るのは当然のことである。
そしてテロの方は大きな争いやテロを起こす必要はない。 
むしろ小競り合いを起こしつつ相手をかわし、のらりくらりと日を稼ぐ。 
そうしているうちに南との戦いが激化している中央は焦ってロイに討伐命令を出すであろう。 
個人的な能力の差もあろうが、実際まだイーストシティの兵をうまく仕切れるのはロイ・マスタング以下東方司令部の人間なのだから。 
部下がでた場合は今回の例だ。 
とっとと引き払って何もなかったようなふりをする。 
もともとほとんどが虚偽で膨らませたテロリストなのだからかくれるは簡単だ。 
そして部下が帰ったらば、また同じように騒ぎを起こす。 
そうすれば目的を完遂できなかった部下の責任もかねてどうしてもロイ・マスタング自身が出向かなければいけない状況ができあがる。 
ロイがでればしめたもの。 
東方は砂漠の多い地域だ。 
実際セントラルからでてすぐ大きな砂漠が広がっており、そこを通ってイースとシティに行こうとすれば通るルートは汽車、エベル街道、二通りに絞られる。もちろん遠回りすればいくらもあろうが、テロ相手に迅速な行動は当然のこと。 
この2ルート問題がなければどうしても圧倒的に時間のかかる迂回ルートを使う意味はほとんどない。 
もし、ロイが司令部をでる時間、どちらのルートを使うかがはっきりと早く分かったのなら…。 

「つまりあのラジオ放送はそれの合図だったと?」
ファルマンはものすごい勢いで火器使用、移動、出撃に関する申請書を整えながらホークアイに話しかける。 
「ええ、たぶんそうね」 
ホークアイは自分たちがいない間の支持、ごまかし方を部下達に指示をしながらの返事。 
ラジオ放送を何かの合図に使う方法は珍しくない。アジトや連絡員に見張りがついている場合など下手に動けばばれてしまうし、連絡としても通常の通信回線は警戒させるだけだろう。 
とある連合軍が全軍あげての包囲作戦を実行した日は朝からあるラジオ放送がずっと同じ曲をかけ続けていたのは有名な話だ。 
「セントラルは一応我が国で一番監視の厳しい街だから…」 
首都でテロなどおこされてはたまったものではない。面目に関わるから監視は他の街に比べれば信じられないくらい厳しい。 
「大佐がでるのは見張られていて、でどのルートを使うかはっきりしたら曲で合図を送る。すると実働部隊が動く」 
「たぶん曲にあった、砂の道は街道のことで…汽車ならば分からないけど鉄の道とかそういう歌になるんでしょうね」 
「ゴンドラは大佐のことで波は…たぶんイーストシティの部隊のことでしょうか」 
「そうね、寄せては返しの繰り返しでゴンドラを引っぱり出す。ゴンドラがでてこなければ部隊を引かせる。 
そしてまた寄せる。そんな合図でしょうね」 
「じゃぁ、まさかハボック少尉の乗った列車が破壊されたのも…」 
 

「あの列車の爆破も当然その一連だな」 
ロイは外をうかがいながら忌々しそうに吐き出した。 
「でも部下を吹っ飛ばすのに意味はないですぜ。それで大将が警戒してセントラルに引っ込んだら元も子もないですし」 
周囲を警戒してかそれよりもずいぶんと小さな声なのはブレダ。 
「ふん、あのときたまたま私はあのバカを見送りに駅まで行っているのさ」 
「じゃぁ、向こうは大佐が汽車を使うと勘違いして…」 
そういうことだな、とロイは頷いた。 
「問題はイーストシティでバカ面さらしているふんぞり返った獲物より、セントラルに引っ込んだとりあえずイーストシティから引退の私をねらうという心境だな。こんな手の込んだマネまでして」 
自分にそこまで価値があるとは思わなかったな。 
ロイは建物の影に小さく身体を潜ませてうんざりした調子でつぶやいた。 
ブレダは極力音を立てないように弾の補充をすませる。 
「大佐だからでしょう?テロリストが躍起になってねらっていた獲物の最上級品ですぜ、大佐。それを傷一つ付けずにしかも、自分たちの屍を手みやげに出世頭としてセントラルに返すなんてプライドが耐えられなかったんではないですか?」 
「ふん、テロリストのプライドね」 
「プライドがあるからテロやっているという話もありますぜ」 
プライドがなければ長いものに巻かれていればいいのだ。 
「その辺は評価しているさ」 
だから本気で相手をしてやっている。 
冗談ともつかない台詞をロイは物騒な笑みで吐き出した。 

会話はのんびりしているが、彼らの置かれた状況はまったく絶体絶命だった。 
敵は何にいるか分からないがたぶんこちら2名の10倍以上。 
さっきから建物の影に縮こまっているのも外をうろうろする人数が多すぎてどうにも飛び出すタイミングがつかめないからだ。 
一緒にいた護衛達は逃げ切れて連絡を入れてくれたのかさっぱり分からない。 
じわじわと詰まってくる包囲網。ここに隠れていられるのもそう長い時間ではないだろう。 
こちらの手にあるのはそれぞれ普段から携帯している銃2丁および予備の弾ポーチ1つ分…。 
あとは濡れて火のでない発火布…。 
もちろんロイもブレダも人並み以上に戦えはするのだが。 
「まったくこういうときに限ってどうしてあいつがいないんだ」 
ロイはぶつぶつと足しにもならないことを考える。 
こういうのは奴が専門だろうが。 
もちろん出発したときはこんな予定などどこにも無かったわけだし、奴の出勤は午後だ。 
あのバカ犬は夕べさんざん好き放題して、甘え倒してまだバカ面さらして人のベッドで寝ているに違いない。 
「記憶をなくしてもあいつはバカ犬だ…」 
今朝はそれなりに甘やかして何も言わずに置いてきてしまったが普段ならたたき起こして文句の10や20ぶつけて置かなければ気の済まないところだ。 
もちろんロイにとってもそういう相手の方がうれしいと思えるのはばかばかしくも真実で。 

「………本当に起こせばよかったな」 
せっかくそういうことがいえる仲に夕べなったのだから。たぶん…。 
遠慮なんかしないで。 
どうにも思い返すと今になって腹立たしさがこみ上げてくる。 
ロイは首に手をやって取り上げたチェーンをそっと撫でる。 
本当ならあのバカ犬の首になければならない首輪。

「なんとしても…抜けるぞ…」 
「はい、もちろんです」 
なんとしてもここを切り抜け今朝いえなかった文句を山ほどバカ犬の言葉と一緒にぶつけてやるのだ。 

「いたぞ!」 
すぐ側で鋭い声が飛ぶ。 
「見つかったか?」 
「みたいです」 
いつもならそれなりに人の出入りの多い街道沿いの倉庫街もたぶん通り道を封鎖されているのだろう 
殺気立ったテロリスト以外の人間の気配はない。 
「こっちだ」 
怒号とともにばたばと足音が角を曲がってきた。 
「ちっ…!やっかいな!」 
「大佐!俺の後ろに!」 
ブレダがとっさにロイを背後にかばって立ち上がる。 
「かまうなブレダ!めくらましをかけるから弾を無駄にするなよ!」 
ロイはそれを制し、一言叫ぶと発火布をかまえ、濡れた地面に押し当てた。 
稲妻のような錬成光が地面を走る。 
「うわっ!」 
すると突進してきたテロリストの足下からいきなり突風が吹きあがった。 
突風は渦を巻き、水と泥を跳ね上げる。 
「ブレダ!!」 
もちろんなにが起こったか理解できなくてもこのチャンスを無駄にするブレダではなかった。 
めくらましは一瞬の効果しかなかったが、大佐の声に呼応してブレダは引き金を引き、次々に相手を打ち抜いていく。 
そして二人はとりあえず寄せてきた囲みを突破して別の建物影に転がり込んだ。 

「今の…なんすか?」 
建物の影で弾を補充し、息を整えながらブレダが口を開いた。 
「錬金術だよ」 
ロイは湿気って張り付いた手袋付きの右手をひらひらと振ってみせる。 
「でも発火布は…」 
「この手袋の布自体は火をおこすためのものだがね、この錬成陣は火をおこすものではない。可燃物を生成するためのものだよ」 
「知っていますけど」 
「今やったのは水を分解して水素と酸素に分離させた。すべてのものには質量がある。水の質量は1モル…ああモルとはアボガドロ数…分子、原子、の個数の単位のことだがね。水の質量はH20の式量だから18g。体積にすれば比重約1だから18cc。 
ところがこれを分解すると2モルの水素、1モルの酸素にするわけだが、気体の体積は質量に関わらず1モル約22.4リットル。まぁ温度や気圧でだいぶ変化するがな。それでも18ccの水がいきなり22.4×3=67.2リットルの気体に化けて見ろ」 
小さい場所から発生した空気は一斉に外に向かって吹き出す形となる。 
それは局地的瞬間的には台風並の風圧になる。 
「あーわかりました」 
「危険性も高いので近くでやりたくはないのだがな」 
「危険性?」 
倉庫の壁を伝って近づいてくることを知らせる足音に、ロイは濡れた手袋を引っ張り上げ構えると、今度はすぐ横の壁に手をついた。 
今度の錬成光は壁を伝い建物の反対側に伝わって突風を起こす。 
どんっ!! 
鈍い地響きがして建物の一部が吹っ飛んだ。 
「大佐…」 
ブレダが唖然とした声で吹き飛んだ先を指さした。 
「あれ…ちょうどいいタイミングで引き金を引いたバカがいたかな」 
リボルバーかな?ロイが声だけはのんびりとそれに答える。 
「……そうか、水素と酸素だ」 
その場から一気に逃げ出しながらブレダは雰囲気にそぐわない疲れたような声でぼんやりとつぶやいた。 
錬成したのは…。その風が渦を巻いているときに誰かがあわてて引き金なんかを引いたのだろう。 
銃の火薬に火のつくようなマネをすればその風に火が引火しないわけもない。 
「いっそ全部それでカタつきません?」 
「むりだな。密閉された空間ならいざ知らず…。水素の比重が軽すぎてあっという間に空に霧散してしまうだろうから」 
もっとも爆発の起きやすい燃焼物濃度は20%程度。それを維持できればちょっとしたショックでも爆発は起きるのだが…それより高くても低くても爆発は格段に起きにくくなる。 
そんな濃度をこんな開けた空間での維持は無理に決まって…。 
そこまで説明してロイは少しの間、黙り込んだ。 
「ふむ…その手があるかな?」 
「大佐?」 
そしてロイは何かを思いついたように頷きながらつぶやく。 
「危険だがこの状況だ、しのご言ってはいられないな」 
局地的に見れば勝利している二人だが、それで囲みを抜けられているわけではない。 
周囲の音を聞けば明らかに包囲網が縮まっているのが分かる。しかも相手はまだ火薬、迫撃砲も含めて相当の武器を所有していると見て良いわけで。 

「よっ…」 
ロイは右手をかざしてまた錬成をする。そして今度は次の瞬間、敵の目の前に転がりだした。 
「大佐!」 
次の瞬間爆発音がしてその敵が吹っ飛んだ。 
「やはり獲物が前にいると、引き金を引いてくれるもんだな」 
「危ないマネ止めてください!」 
さすがのブレダも息が止まったようだ。 
「仕方ないだろう、確実にしとめていかないと…」 
この調子だと援軍がくるのを待てるほどの余裕を持たされはしないだろう。 
援軍が来ると仮定しての話だが…。 
来なければそれこそ全部自分たちで始末しなければいけないのだ我からなおのこと無理をする必要があるわけで…。 

走る度に首もとの銀の鎖がたてる音はやけに大きく耳に響く。 
ハボックの首に合わせたものだ。自分には少し大きい。 
そのたびにこういうときいつもはとなりを走る男の事を考えて首を振った。 
いない戦力を考えても意味はない。 
ああ、でも自分に何かあったらこのチェーンが今度は私の迷子札になる訳か。 
そんなことを考えてロイは心のなかで苦笑する。 
役に立つじゃないか…これも。 
そんなこと言おうものなら火を噴いたように怒り出されそうだが…。 
いまは戦うことだけを… 
ロイは一度だけぎゅとその鎖握りしめて離した。 

「思いっきり行くぞ」 
「しかたないですかね」 
ロイは今度は発火布を両手にはめると渾身の力を込めて敵が集まりつつある箇所の水をすべて空気に換えた。 
そして敵の目の前をかすめるように走り抜ける…。 
しかしそこで目の端に留まったのは…。 

「しまった…!」 
「大佐!!」 
思惑はどんぴしゃりと当たった。 
荒れ狂う突風の中、走り抜ける獲物を目に留めて必死で引き金を引き、火を発するものはいた。 
しかしそれ以外にいたのだ。腹にぐるりとダイナマイトのようなものを巻き付けた男が…。 
多数を相手にするようなときならいざ知らず、少数を多数で追い込むときに、多数側のなかに周囲に被害を出すかもしれない装備をしている人間がいるとは思わなかったロイの甘さなのかも知れないが…。
空間が爆発し、そしてその爆発は当然そのダイナマイトをも巻き込んだ。
一つの火はいくつもの爆発を生み、桁外れの熱量がそこから一気に外に膨れ上がり周囲を焼き、その力は縦横無尽に空間を走り回り爆発した。 
 
 

地面が大きく揺れ、もう音とも呼べぬ轟音とともに周囲のすべてが吹き飛ばされた。 
 
 

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