からからと何かが動く音が聞こえる。
だが、厳密な意味で此所に音は存在しないから、ジーンの中の感覚が音と認識しているのだろう。
さもすると混濁する意識をその音に集中させる。
何かのからくりか。
大きな歯車がゆっくり動いているイメージ。
もっと意識を集中させれば自分は何か、大きなからくりの中に居るようだった。大なり小なり、色も形状もさまざまな歯車が複雑にかみ合って入り組んだ大きな仕掛け。それでも一つ一つが確実に隣に並ぶ歯車に動きを伝えて全体をなしている。
子供の頃に分解して壊してしまった懐中時計を思い出す。
不意にその中の一つが軋んだ音を発して大きく撓んだ動きをして見せると、歯車ははめ込まれていた軸から大きくずれて、傾いたまま動かなくなった。
何を動かしていたのかは分からないけれど、これではもうこの仕掛けは駄
目だなと、意識を逸らそうとしてその音に気が付いた。
からからから───
規則正しく響くからくりの音。
見れば大きく傾いた歯車の向こうに同じ大きさの歯車が見える。その歯車と歯車との間にもう一つ、一回り小さな別の歯車が存在していたのだ。どうやらその小さな歯車が動くことで大きな歯車が稼働する仕組みらしい。大きな歯車はシンメトリーのように同じ動きをするはずだったようだが、今や片方は大きく傾いで動かない。もう一つの歯車を巻き込んで崩れ落ちそうである。ひとつ間違えば傾いだ歯車は小さな歯車をも巻き込んで、今度こそ、すべての動きを止めるだろう。それでも小さな歯車はもう一つの歯車を動かし続ける。
からからから……
微妙なバランスの上に成り立っているこの仕掛けを救うには、傾いた歯車を元の位苫に戻してやれば良いのだろうが、見れば歯車の一部が欠けていて、このまま戻してもこの歯車はうまくかみ合わず、遠からずもう一度その動きを止めるだろう。
からからから───
なら、いっその事この歯車だけを取り除けば良いのだ。
だけど、それの意味するところは……?
ジーンの意識は再び深い眠りに落ちて行く。深く深く、白い闇の底に落ちて行く。