目の前に車が追ってきた時、ジーンが真っ先に思い浮かべたのはイギリスに居るナルの事だった。
双子というのは往々にして似たような運命を辿ると云う。
もしかしたらナルもこんなふうに事故にでも遭っているのじや無いかと心配したのだが、それは杞憂に終わったようだ。
意識を取り戻したジーンが真っ先に見たものはグリーンのハレーションと自分が車のトランクに詰め込まれる所だったから。すぐにナルの見ているヴィジョンだと分かった。だから安心すると同時に、逆の心配もした。
自分の辿った運命が彼をも巻き込みはしないだろうかと。
それから何度も意識がはっきりする度にナルに話しかけているのにアンテナがずれてしまったようでジーンの声は届かなかったが、かわりに麻衣とラインが繋がっている事を発見する。
過去にあれ程まで繋げようとして繋がらなかった麻衣と、このような形で繋がるなんて皮肉だなと思いつつもナルを助ける手段を見つけ喜んだ。
初めて麻衣とラインが繋がったとき、麻衣のトランス状態があまり良くなかった事もあるが、直接話が出来ることの方が嬉しくて、つい、名乗るのを忘れてしまった。
その後、何度も麻衣とは接触出来たものの、彼女が自分をナルと勘違いしてること、そして何より自分が既に死んでいる事とを考えて自らの正体を明かすことは諦めた。
何よりもあのナルが気に入っている少女なのだ。
あれだけナルの事を理解し、尚且ついつもそばに居てくれる存在など、この先いつ、現れるか保証出来ない。
死者はおとなしく身を引くべきだと考えてのことだったが、いざ其のように振る舞ってみても齟齬感は抗えない。
ナルの一挙一動に一喜一憂する麻衣を見ていると、足元から何か冷たいものが這い上がってくる。それでいて麻衣の行動に振り回されているナルの姿に寂しさを覚える。
自分はどうしたいのか。
麻衣が自分の代わりにナルの支えになってくれたらと願っていたのに、そして事実そうなりつつあるのに。
かたわらに
いつもぬくもり
それさえあれば
他に何も要らないと思っていた
だけど自分は失われてしまった。
そして今、どちらも失いたくない自分がいる。
だけど何時か自分という存在はこの世から完全に消えてなくなるだろう。
一人は寂しい。
一人では寂しすぎる。
自分の中に存在する一片の醜い魂。それは時折甘く巧みな言葉でジーンを誘惑する。
なら、連れていってしまえば良い───と。
一人が嫌なら二人で、二人でも寂しいのなら三人で。
そうすれば孤独ではなくなる。
甘美な囁き。心がぐらつきそうになる。
だけどそんな時に、決まって麻衣の顔が浮かぶ。
───いつもそんなふうに笑っていればいいのに
これはナルに向けた言葉。
───笑って……? 謝るぐらいなら、笑って?
初めて自分自身に向けられた言葉。
───仮にも霊媒が道に迷うなんて。とっくに向こう側だと思っていれば
情け容赦の無い半身の言葉。
ジーンの大好きな笑顔。
どちらか一つなんて選べない。
二人の言葉が胸に痛く突き刺さる‥‥‥
何故、彼女だったのだろう。
何故、彼女に出会ったのが自分でなく、ナルの方だったのだろう。
この迷いは何処から来るのか。
そして自分は何処へ行くのか───