| 38.第二幕.その5 |
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| ■祖母への花束贈呈 | |
| (司会) 『ご歓談中恐れ入ります。これより、新婦のあでりーさんから、お世話になったお祖母様への花束の贈呈がございます。それでは皆様、あちらの席にご注目ください』 | |
| (♪BGM) 小夜曲(セレネード)/さだまさし | |
| あでりーは実家にいた頃、ずっとお祖母ちゃんと同じ家で暮らしていた。いろんな意味で、結びつきが強い存在である。これまでのお礼の意味をこめて花束を渡したいということは、最初に式の準備をはじめた頃から決めていた。もちろん、お祖母ちゃんには内緒にしてあり、サプライズ企画だった。 式開始時から新郎新婦席に置いてあった花束は、じつはこのためのものだった。あでりーが花束を持ち、僕がマイクを持って、お祖母ちゃんの席に移動する。お祖母ちゃんも嬉しそうな声をあげ、立ち上がって僕らを迎えてくれた。 |
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| (あでりー)『ああちゃん……。あの、うちでは祖母のことを“ああちゃん”と呼んでいます』 お祖母ちゃんが、あでりーに声をかけてくれる。あでりーは声が詰まってなかなか言葉が出ない。 (あでりー)『……今まで、ありがとう』 (祖母)『元気でやらにゃいかんよ』 あでりーとお祖母ちゃんが抱擁する。それからお祖母ちゃんは僕のほうに向き直り、「大事にしてあげて、私の一番大事な子だから」と、何度も繰り返す。僕は、はい、と答えながら、こみあげる涙をこらえていた。お祖母ちゃんはさらに僕ら二人にいろいろと言葉をかけてくれた。会場から大きな大きな拍手がわき起こる。 |
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| (♪BGM終了) | |
| ■二度目のお色直し | |
| (司会) 『それではこれより、新婦、2度目のお色直しのため中座となります。ここであでりーさんからご提案がありまして、今度はぜひ、新郎のお母様と一緒に退場したいとのことです。新郎、HARUNAさんのお母様、どうぞ前の席までお越しいただけますでしょうか』 | |
| これももちろん、内緒にしてあった。僕の母親はなんだかきょとんとした感じで、スタッフの指示にしたがっている。手持ちの紙袋に忍ばせてあったハンカチを手に、あでりーの元に歩み寄る。あでりーのお母さんが手を叩いて喜んでいる。 | |
| (司会) 『結婚式ではどうしてもお父様のほうが表(おもて)に立たれることになります。そこで、ぜひお母様にもスポットを当てたい、というあでりーさんのご提案により、こうした形式をとらせて頂きました。それではお二人揃っての退場となります。みなさまどうぞ、拍手でお見送りください』 | |
| (♪BGM) Over the Rainbow/エバ・キャシディ | |
| あでりーと僕の母親がゆっくりと歩き出す。母は一度目のお色直しの時も泣いていたが、今回も同じく、目に涙をためて歩いている。恥ずかしさのためか、なんだか早足になっているように見える。テーブルを訪れるたび、温かい拍手がおこる。 BGMは、最初のお色直しで使った「虹の彼方に」と同じ曲を、エバ・キャシディという別の歌手が歌ったものである。オリジナルははるか昔のミュージカル「オズの魔法使い」の劇中歌であり、誰もが知っているメロディーだが、90年代にカバーされたこちらの曲のほうはかなり印象が異なっている。 どちらの曲も、BGMとしてすごくマッチしていたと思う。それぞれお互いの母親と共に新婦が退場するシーンなので、別のアレンジによる同じ曲を使うというアイデアは大成功だった。 入退場口でいちど振り返り、あでりーと母は皆さんに向かって一礼をした。その場でしばらく写真を撮影し、あでりーは控え室へ、母は自分の席に向かった。 |
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| (♪BGM終了) | |
| ■ビデオ上映、そして新郎中座 | |
| (司会) 『さて、このお時間を利用しまして、もう一本、ビデオを上映いたします。ビデオの内容につきましては、新郎のHARUNAさんより、説明をいただきたいと思います』 | |
| ビデオは、結婚式の準備風景をまとめたものである。その説明、および、テレビモニターが1台壊れてしまった説明もここでおこなった。 (HARUNA)『僕ら二人、今日までいろんな準備作業をおこなってきました。その模様をずっとVTRに収めておりまして、それを編集したのが、これから見ていただくビデオです。本当はこの辺(ステージ向かって右手)にもう一台モニターがあってですね、見て頂く予定でした。昨日のリハーサルではばっちりだったんですが、今朝になって壊れました。ということで、申し訳ありません、もしよろしければ向こう側(向かって左側のテレビモニター前)で、席の移動などして見て頂ければと思います。それはVTR、スタート!』 合図と共にVTRが流れ出す。テレビモニターが壊れたのは本当に残念で申し訳なかったが、何人かは席を移動して見て下さった。僕は、一回目のお色直しの時と同様、ペンギンのぬいぐるみを席に置き、こっそりと控え室に移動した。 一回目よりも着替えは楽だった。僕は自分でちゃちゃっとズボンを履き替え、ネクタイのみスタッフの方にやってもらった。上着は同じなので、また羽織るだけである。胸にブートニアを挿し、白手袋を手に持つ。これで完成だ。 あでりーは、純白のドレスである。マーメイド型で、シンプルなのにオリジナリティにあふれた、素晴らしいドレスだ。頭には、特別に羽根飾りをたっぷりあしらってもらった帽子。手には、二人で作った大きなブーケ。完璧な組合せである。メイクや髪型も、このドレスに合うようにまたやり直されている。スタッフの動きは完璧だ。 |
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| 再入場の時刻が迫った時点で、二人で控え室を出て、花のある場所で記念撮影をおこなう。 | |
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