| 36.第二幕.その3 |
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| ■来賓スピーチ(2) 共通の知人 Kさん | |
| (司会) 『それでは引き続き、ご来賓の方より、ご祝辞をいただきたいと思います。新郎新婦、共通のご友人でいらっしゃいます、K様にお願いいたします。K様は、名古屋港水族館にお勤めされておりまして、以前はペンギンの飼育員をなさっていました。新郎新婦のお二人が店番をしていたペンギンアート展を訪問されたことから、お二人との交流がはじまったとのことです。それではK様、よろしくお願いいたします』 | |
| Kさんと知り合ったのは、名古屋のペンギンアート展初日のことだった。つまり、僕とあでりーとKさんとは、まったく同じ日にそれぞれが初めて出会ったわけである。とても話し好きで明るく、こうした席ではスピーチをしないほうがめずらしいほどのお人柄で、スピーチを誰にするか考えた時、まっさきに候補に挙がったのがKさんだった。 今日はさすがにペンギン関係の人らしく、礼服のポケットから小さなペンギンのぬいぐるみを2つものぞかせていた。 スピーチの要旨は以下の通り。 |
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| 『HARUNAさん、あでりーさん、今日は本当におめでとうございます。いまご紹介にありましたように、4年前、名古屋でのペンギンアート展が開かれまして、当時わたしはペンギンの飼育係をしていましたので、なかなか面白そうな催し物があるんだなあと思いまして、初日に会場に行きました。その日のお店番をしていたのがHARUNAさん、アート展に出展されていたのがあでりーさん(あでりーは店番と共に、出展もしていた)、お二人ともいらっしゃいました。お二人もその日が初対面だったそうですけれども、わたしも偶然その場に居合わせまして、いろいろペンギンの話などを楽しくさせて頂きました。それ以来、お二人はたびたび、わたしの勤めております水族館に足を運んでいただきました。 最初会った時にHARUNAさんと少しお話をしたんですが、物静かな表面に見えるんですけれども、きっとすごく自分が打ち込むこと、好きなことにはすごく熱心に取り組む、そういう人に見えました。実際、ペンギンに対する深い愛情、というか、深い興味、好奇心を見ていれば、すごく自分が熱中できることがある人なんだなあということがよくわかりました』 |
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| 『ペンギンアート展を通じて、いろんなペンギン好きな人たちとお会いすることができまして、いまわたしが座っているあちらのテーブルはだいたい、その関係者です。僕自身はペンギンの飼育係をしていましたけれども、ペンギンはあくまで仕事相手であって、そんなに深い愛情を持つ対象としてはあまり考えていませんでした。HARUNAさんをはじめ、こうして多くのペンギン好きの人たちと出会っていろんな話をしていると、まあもともと人気がある生き物というのはわかっているんですけど、ペンギンを深く愛している人がこんなにもいるんだということに、いつも驚かされてきました。 わたし自身も4年間ペンギンの飼育係をしていたんですけれども、いったんはペンギンに携わったものの責任として、ペンギンの魅力をより多くの人に伝えていきたいなということを考えています。 ここでHARUNAさんのスタイルについて、ちょっとコメントを……。モデルはエンペラー(ペンギン)でよろしいでしょうか?』 (HARUNA)『その通りです』 『じゃあちょっとHARUNAさん、立っていただきましょうか』 (僕は席を離れ、テーブルの前に立つ) |
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| 『ペンギンというのは世界に18種類いるんですけれども、その18種類のうち8種類がこの式のテーブルの名前とイラストに描かれています。そのうちのひとつが、皇帝ペンギン、エンペラーペンギンと呼ばれるもので、白と黒のツートンカラー、首の周りに薄黄色の模様が入るのがエンペラーペンギンの特徴です。 そして、このエンペラーペンギンの素晴らしいところは、ペンギンの中で唯一、真冬の南極で子育てをするところです。体感温度でマイナス40度とか50度、そういうとてつもない寒さの中でエンペラーペンギンは卵を産みます。卵を産む場所は氷原の上です。周りには冷たい氷と雪以外、何もありません。エンペラーペンギンたちは普段海で泳いでいて、卵を産むために氷の上に上がってくるんですけれども、かなり内陸に近いところまでよちよち歩いてきて、そこで巣を構えます。巣と言っても氷の上ですから、何もありませんので、みんなでそこに集まって卵を産みましょうということになるだけです。だいたい海から100kmから200kmくらい離れたところまでやってきて、そこで卵を産むのです。卵はだいたい450gくらいですから、普通のニワトリの卵の7個から8個分くらいの重さになります。大きい卵を一つだけ産みます。 メスの皇帝ペンギンは産んだ卵をまずオスに預けます。オスはこの卵を温める任務を最初に与えられます。普通の鳥は地面の上に巣を作り、その上に卵を産んで自分がその上に伏せて温めるという方法をとりますが、なにせマイナス40度の氷の上ですから、その上に卵を置くわけにはいきません。そこでエンペラーペンギンは、自分の両足の上に卵を産みます。そうすると直接氷に触れないで済むわけですね。 ペンギンはおなかがだぶだぶなんですね。すごく脂肪が厚いんですけれども、おなかの皮を上からぐっとかぶせて……、あのー、オバケのQ太郎を思い浮かべていただくとわかりやすいのですが、だぶだぶのおなかの皮をぐるっと自分の足下まで伸ばして、卵をまるごとすぽっと覆って温めます。つまり、オスのペンギンは横になれないんですよ。立ったままなんですね。そのままの姿勢で、ヒナがかえるまで温め続けます。歩くことはできますが、卵を足の上に乗っけたまま器用に歩きます。そして、卵がかえるまで約2ヶ月間、ずっとマイナス40度の中で立ってるんです。これがエンペラーペンギンのオスの仕事です。 で、メスは何しているかと言いますと、卵を産む重労働を終えたあと、まず栄養補給に行かなければいけませんので、餌を取りに行きます。100kmから200km離れた海までトコトコ出かけていくので、メスも大変です。そこで海に出て、おなかいっぱい餌を入れて、また100kmから200km歩いてオスの元に戻ってくるのに約2ヶ月かかります。その間ずーっとオスは卵をあっため続けています。それで、メスがちょうど帰って来る頃にヒナも産まれるというわけです。わたしはエンペラーペンギンのオスに産まれなくてよかったと、常々思っています。 そのあとは、オスとメスと交代しながら、ヒナを足の上に置いて育てます。約半年間、ヒナを育て上げて、ヒナは親とそれほど変わらないサイズになって、ふわふわのヒナから、つるつるとした親と同じ羽根に生え替わります。半年たちますと夏になっていますので、氷も溶けて海がすぐそばまでやってきてるんですね。それでヒナたちはすぐに海に泳ぎ出すことができる。そのために親はわざわざ、いちばん寒い冬に卵を産んで育ててあげるんです。 HARUNAさんご夫婦も、やがて親になるものと期待しておりますが、エンペラーペンギンのごとくですね、オスもメスも子育ては実際大変なんですけれども、是非がんばって、この少子化の現代、すこしでも人類の繁栄に寄与していただきたいと思っております』 |
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| さすがに元飼育員らしく、ペンギンの専門知識を織り込んだ結婚式のスピーチとなっており、素晴らしい内容だったと思う。うまい終わり方だなあと感心していたら、実はこれで終わりではなかった。 | |
| 『最後にひとつちょっと……。エンペラーペンギンが実際にヒナの世話をしているところをですね、HARUNAさんたち二人に、演じていただこうかと思います。 じゃあHARUNAさんはヒナです。どうぞこちらへ』 (導かれて僕はふたたびテーブルの前に出て行く) 『HARUNAさん、しゃがんでください。お母さん、早くしないと、ヒナが凍えて死んじゃうよ』 (あでりーも僕のそばにやってくる) 『あでりーさん、後ろに立ってください』 (あでりーが僕の後ろに立つ) 『はい、こんな感じです。こういう感じでエンペラーペンギンの親鳥は、ヒナを、正確には足の上に置いてちっちゃい間は育ててるんですね。じゃあですね、ヒナ鳥に餌をあげてもらいましょう』 (そう言い残して、Kさんは僕らの席のほうに移動し、僕らの食事からきんぴらごぼうのお皿とお箸を持ってきた。僕はこの時点で、これからおこなわれることの概略が予想できた) 『えー、南極の魚は仕入れて来られなかったので、今日はきんぴらで。餌はですね、お母さんが海で、本当は魚を獲ってくるんですね。それをおなかの中にたくさんたくわえて、口移しで、与えます』 (ここでようやくKさんのたくらみが明かされる。あでりーは口をあんぐりと開けていた。てっきりお箸で与えるものと思っていたようだ。 『それではまず、お母さんのほうに餌をくわえていただきましょう』 (あでりーが何か小声でしゃべっている。箸じゃだめですか、と頼んでいるようだ) 『箸じゃだめですかって言われてるんですけど……』 (会場から、「ペンギンは箸は使いませ〜ん」の声が上がる) 『ペンギンは箸を使えないんですけど、あのー、箸は使わないほうがいいなと思われる方は拍手を』 (万雷の拍手。あでりーはこれで観念し、しぶしぶきんぴらを口にくわえる。後ろに立ったあでりーがしゃがみ、僕の顔の前にくわえた“餌”を差し出す。「がんばれー」という声、そして失笑。僕は厳しい体勢ながらそれを口移しで受け取った。拍手と笑い声がわき起こる) 『えー、このようにして、親子の絆、夫婦の絆は深まっていくんですね。HARUNAさん、あでりーさん、今日は本当におめでとうございました』 |
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| (司会) 『ありがとうございます。ペンギンの生態もよくわかったような気がいたしますが、本当にどうもありがとうございました。今一度、大きな拍手をお贈り下さいませ』 | |
| ■来賓スピーチ(3) 共通の知人 Oさん | |
| (司会) 『それでは、本日、結びのご祝辞をいただきたいと思います。新郎新婦、共通のお知り合いでいらっしゃいます、O様にお願いいたします。O様は、新郎新婦の二人が出会うきっかけとなった、ペンギンアート展の創始者でいらっしゃいます。それではO様、よろしくお願いいたします』 | |
| 最後のスピーチはやはり、この人にお願いした。二人の出会いのきっかけとなったペンギンアート展の創始者、Oさんである。ペンギンアート展がなければ僕らは出会うことはなかった。照れ性で、Kさんに比べてこういう場でのお話には慣れてらっしゃらないとのことだったが、心のこもったスピーチで、素直に感動した。 スピーチの要旨は以下の通り。 |
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| 『こんな席でお話するのが、たいへん苦手なものですので、何を話せるかわからないと思ったので、今日はちょっとこの、ふじこちゃんをダシに、持ってきました』 (Oさんは、体長50cmくらいのペンギンのぬいぐるみを抱いて登場された。このペンギンの名前が「ふじこちゃん」だった。ペンギンの着ている服はなんと、ご自身が幼少の頃に着てらっしゃった服だとのこと) |
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| 『ペンギンアート展の創始者という大きな言い方をして頂いたんですが……、ペンギンアート展実行委員会の代表という、大きな名前を頂いております。 まずはじめにお会いしたのはあでりーさんのほうでした。ペンギンアート展というのは芦屋で、初めは本当に小さな小さなかたちで、二組の夫婦が発案したというか、そういうかたちで始まったわけですが、二回目の時だったかに、まだ本当に私たちの周りの人しか知らないような時期に初めて、遠くのほうからいらっしてくださった初めてのお客様でした。私はもうそんな芦屋の地に遠く岡崎から来てくれるなんて思いもしませんでしたので、この時はほんとうに喜んで、すごく嬉しかったです。 ペンギンアート展というのは、あそこのテーブルの人はよくわかっていますが(ペンギン仲間のテーブルを指さす)、たぶんその他の人にとっては、ちょっと変わっているっていうかあまり想像ができないと思います。ペンギンをテーマにした文化祭という形で、いろんな方がいろんなものを作って出すという一風変わった展覧会です。そういうものを見に来て下さるかたがいるんだろうかというのが、はじめの私たちの疑問だったんです。そこで、遠くから、お仕事をお休みして来て下さった初めてのお客様があでりーさんでした。それから本当にペンギンのことでいろいろ話が弾んで、長い間、話をしました。 HARUNAさんのほうは、それから少したってから、「ペンガホリック」というペンギンの好きな人のサイトが主催するオフ会がありまして、そこで初めてお会いしました。初めはとってもおとなしい、物静かな、静かに物を考えて沈着に行動なさるという、そんな印象の方でした。楽しくペンギンの話などをさせて頂きました。 そんなお二人が、そのあとでペンギンアート展の名古屋展というのを二人で一緒になさるということになりまして、まさかそれがこういうことになろうとは、そのときはたぶんご本人たちも思っていなかったかもしれませんが、私もそこまでは考えておりませんでした。ちょうど名古屋展の初日に、先ほどのKさんの行かれたのと同じ日に私も参りました。お二人が初日の大変なところで、すったもんだをしておられました。とってもお忙しく、いろんな準備をやっておられました。その時にお二人が忙しく立ち働いているところを拝見したんですが、その時にもうすでに共同作業を始めておられたわけで、ちゃんと準備は整っていたのだと思います。その時、初めてお会いされたと聞いたんですが、お二人でペンギンアート展のいろいろな作業を一緒にしておられる姿は、初めて会った二人とは思えなくて、本当にうまくやっておられたのを覚えております。それがきっかけでお付き合いをなさっているというのを後から聞きまして、びっくりしたんですけど、ああなるほどなあというか、あまり意外ではなかったわけです。今日はこんな形でお招きいただいて、本当に感激いたしております。本当にありがとうございます。 ペンギンが好きな人に悪い人はいないと私は思うんですけれども、そういう簡単なことではなくって、ペンギンがかわいいから好きだよっていうだけではなく、ペンギンが好きな人、とくにお二人のような形で親しくなられた人は、何か生き方というか、ただ趣味が同じというだけではなくて、ペンギンを通して生き方までも同じような方向に向かっていくっていうようなことを感じます。ペンギンが暮らしやすいところっていうのは、人間にとっても暮らしやすい、ペンギンがいていいなっていう雰囲気のところは、人間が暮らしていてもすごくいい雰囲気で、楽しいところだなあという感じがします。ペンギンを見て環境のことがわかったり、平和の象徴としては鳩が言われていますが、私はどちらかというと平和の象徴としてはペンギンのほうがふさわしいんじゃないかと、そういう鳥だと私は思います。 どうぞ今、ペンギンを通してつながっておられるお気持ちそのままに、ずっといいご家庭を築いていかれることを願っております。ペンギンによって、より人間らしい、人間にとって一番大切なことだとかいいところがペンギンによってすごく教えられるというか、ペンギンを好きなことによって強調されてくるというか、そんな気がいたします。どうぞお幸せに、これからもペンギンと共に歩んでいただきたいと思います。どうもおめでとうございました。 |
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| (司会) 『ありがとうございます。かわいいペンギンと共に、お祝いのお言葉をいただきました』 | |
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