| 31.第一幕.その1 |
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| ■入場直前 | |
| 招待客全員が、フクロウ展示ゾーンの前に集合した。ここには世界から集められた本物のフクロウが展示されており、待つ時間を紛らわしてくれる。お客様からはまだ、宴席スペースは見えない。僕とあでりー、それから互いの両親は並んで宴席の端に立ち、お客様を出迎える準備をする。 |
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| 【ウェルカムボード】 | |
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| 【通路に展示された鳥(キバタン)。後方に、入場を控えた招待客の方々】 | |
| ■入場開始 | |
| (♪BGM) サークル・オブ・ライフ/劇団四季 | |
| チーフプロデューサーの合図と共に、オープニングの曲が鳴る。ミュージカル「ライオンキング」のテーマ曲、「サークル・オブ・ライフ」である。アフリカの大自然を思い起こさせる曲と歌詞をバックに、お客さんたちがゆっくりと入ってくる。宴席スペースまでの通路は花で埋められ、本物の鳥もとまっている。この不思議な空間にお客さんたちがどよめいている雰囲気が、僕らのいる場所まで伝わってくる。さあこれから始まるんだ、これまで頑張ってきた成果が見られるんだと、あでりーと二人で気持ちを新たにする。 | |
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| 【入場開始!】 | |
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| 【通路の様子】 | |
| やがて最初のお客様が、我々の立つ場所にたどりつく。一人一人に頭をさげ、ごあいさつをする。皆さん手に手にカメラを持ち、じっくりと撮影をされている。ほぼ全員、事前の訪問でお会いしていたが、あでりーの姉の夫、つまりお義兄さんとはこの日が初対面だった。「初めまして、なかなかごあいさつできなくて……」などと言葉を交わす。ペンギン仲間たちは、さりげなく、あるいはあからさまにペンギンをあしらったそれぞれのいでたちで入ってこられる。みなさん笑顔で、とてもあたたかい。 | |
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| (司会) 『みなさま、ようこそお越しくださいました。席札がございますので、ご確認のうえ、ご着席くださいませ。なお、トイレは奥にございます』 | |
| 宴席スペースでは、事前に渡してあった席次表をもとに、お客様おのおのが着席されていく。混乱はまったくないものの、皆さんが我々の前でじっくりと撮影をされるため、入場に時間がかかってしまった。予定では、4分のオープニング曲の間に全員の入場が終わり、僕らも自分たちの席に移動し、曲の終わりとともにお辞儀をする予定だったが、そうはならなかった。曲が終了してしまい、少々時間をもてあましながらも、そこは音響担当のSさんが気を利かせてくれて、同じ曲をもう一度流してくれた。 最後のお客さんが通り過ぎたあと、僕ら二人はゆっくりと歩き出す。チーフプロデューサーのSさんがアテンドとしてそばに付き添ってくれる。席にたどりつき、二人でタイミングを合わせてお辞儀をし、席につく。 新郎席から、まっすぐ前を見た。招待したお客様は、ただ一人の欠席者もなく全員がそろっていた。広く会場を見渡しながら、この場所に決めてよかったと、心の底から思った。 |
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| (♪BGM終了) | |
| ■開式&新郎新婦のことば | |
| (司会) 『本日は、誠におめでとうございます。たいへん長らくお待たせをいたしました。ただいまより、HARUNAさん、あでりーさんの結婚式をとりおこないたいと思います。 それではまず最初に、新郎新婦より、ゲストの皆様へのごあいさつを頂戴したいと思います』 |
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| 僕とあでりーがその場に立ち、僕がマイクを持ってあいさつの言葉を述べた。ほとんど緊張はなかった。誇らしい気持ちで一杯だった。 あいさつの要旨は以下の通り。 |
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| 『本日は遠いところをお越し頂き、ありがとうございます。僕たち二人がなぜこの会場にこだわったのか、今、席に座ってらっしゃる皆様はもうおわかりかもしれません。皆様の入ってこられた時の反応を、こちらで見ていました。どよめきの声、そして温かいお言葉を頂きました。去年の3月に僕らがここを訪れた時の反応も、今の皆様とまったく同じものでした。ああすごい、この会場で結婚式がしたい。そう僕らの胸は決まりました。その後いろんな交渉のすえ、今日の日を迎えることができ、本当に嬉しく思っています。 今日の結婚式は、普通の結婚式とかなり形が異なります。例えば僕らの両親は、僕らから一番近いテーブルに、両家が揃って座っています。普通、両親の席は末席に置くのが常識ですが、僕らはそれを知りながら、あえてこの配置にしました。僕ら二人の晴れ姿を一番誰に見て欲しいかといえば、それは両親をおいて他にないだろうということは、皆様にもご理解頂けると思います。 また、普通は挙式のあとに披露宴、となりますが、今回は最後にセレモニーが控えています。途中、僕ら二人がいろんな作業をすることもあります。今回の式は、新郎新婦が割とでしゃばる式となります。 とにかく手づくりの式となります。専門のスタッフにご担当いただいておりますが、一人何役もこなすような形で我々の無理な要求を聞いて下さっています。皆様への配慮を忘れているつもりはありませんが、ゆきとどかない点がございましたら、ご容赦ください。 それでは今日一日、よろしくお願いいたします』 |
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| (司会) 『それではみなさま、お食事はすでにテーブルの上にご用意してございます。乾杯のご発声はとくにございませんので、どうぞお食事をおはじめください。お飲物としてとりあえず皆様にビールとウーロン茶をお持ちいたしますが、それ以外のものをご希望の方は、お手元の飲み物リストに書いてあります中から、ご希望のものをスタッフまでお伝えください。なお、新郎新婦の二人は式後に車の運転がございまして、お酒のほうは控えさせていただくとのことですので、あらかじめご了承下さい』 | |
| 乾杯の発声は省いた。そんなものは誰も望んでいないし、無目的にそうした形式的な項目を実行することのほうがよほど不真面目であると考えたからだ。事前に決められた数の瓶ビール、ウーロン茶の入ったピッチャーが各テーブルに運ばれ、そのまま皆さんに食事をはじめてもらう。 | |
| (司会) 『ここで、本日のお食事のご説明をいただきたいと思います。説明をしていただくのは、新婦のあでりーさんです。みなさま、お食事をしながらで結構ですので、どうぞ耳をお傾けください』 | |
| 全員の食事がはじまったのを確認したのち、あでりーが立って食事内容の説明を始める。今回の食事は「庄屋料理」と呼ばれ、山菜や保存食を使ったいわば精進料理のような内容である。この会場で通常出されているメニューとほぼ同じ内容であり、普通は結婚式で饗される料理ではない。それでも僕らは、この料理を皆さんに食べてもらいたかった。 二人で試食した時も、とても美味しいと思った。庄屋料理は遠い昔、客人をもてなす料理であったという。その意味合いからすれば、結婚式で出してもおかしくはない。そうした僕らの考えをじゅうぶんにわかってもらうため、このコーナーを設けた。 あでりーが話している最中に僕は、彼女の説明している食べ物を箸でつまんで皆様にお見せするアシストをやりながら、ここぞとばかりに料理を口に入れた。食欲がないわけではないものの、胸がつかえてなかなか入らない。それでもがんばって食べた。けっきょくまともに料理を食べられたのは、この時ぐらいしかなかった。 あでりーの話した内容は以下の通り。 |
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| 『今召し上がっていただいている料理は、「庄屋料理」と言います。桃山時代から庄屋であった加茂荘の客人接待を伝える料理だそうです。自給自足の時代にそのまま麹(こうじ)を寝かし、味噌、醤油をはじめ、色々な漬物や山菜を季節ごとに心がけて取り揃え、心を込めて手作りしたものです。その料理を重箱に詰めて隣近所にも配った習慣に準じて取り合わせたのがこちらの「庄屋料理」になります。 くちなしの実で黄金色に染めたもち米入りのご飯に大豆を散らしたもの。こちらは「染め飯」になります。ちまきもこちらに作り伝えられた保存携行食です。「遠州ちまき」と言います。味噌汁には自家製の3年味噌を使い、その他にも旬の野菜の煮物、手作りの色々な漬物、山菜を添えてあります。 漬物とは別に佃煮みたいな物がありますが、これは「醤油の実」と呼ばれるものです。もろみを寝かし、溜まり醤油を取った残りに、ユズ・ショウガ・シソの実、ナスの干したものを混ぜて漬け込んであります。ピンク色の丸いぽこぽこしたものは、ヤマモモの実です。小さい箱には落雁がはいっております。どうぞご賞味ください』 |
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| 【庄屋料理】 | |
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