■会場へ
7月2日。
僕ら二人にとって特別な特別な一日が、これからはじまる。
その日の朝、僕はシャワーを浴び、普段は伸ばしっぱなしにしている髭を念入りに剃った。あでりーは会場入りしてから挙式用のメイクをするため、すっぴんのままだ。
外は薄暗く、小雨が降っている。なんだか今日が結婚式だという実感が沸かない。昨夜は寝付かれないかと心配したが、意外に早く眠りに落ちた。体調は万全である。
8時前、あでりーのドレス一式を積み込み、別々の車でホテルを出た。会場入りするまでに、それぞれにやることがある。僕はデニーズで子供用の食事セット2人分を受け取り、あでりーはコンビニで子供用食事に追加するサラダなどを買う。ふたたび車に乗り、会場の手前にさしかかったあたりで、僕の車のすぐ後ろを走るあでりーの車が見えた。
| 【会場の加茂花菖蒲園 正面が宴会場となる大温室、右手が受付会場の加茂荘】 |

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■着替え
会場に着き、関係者用の入り口から二人して中に入る。既にスタッフの方が何人かいらっしゃっていて、おめでとうございます、と声をかけられる。本日はよろしくお願いしますと言葉を返しながら、自然に顔がほころぶ。
宴席についてみると、天井から落ちた花や水滴で、予想以上にテーブルが汚れていた。それらをきれいにし、テーブルクロスをかけ、各招待客用の席札や紙袋を置いていく。やがてアルタモーダさんのスタッフが入場され、あでりーはメイクのために控え室に移動した。僕は残りの作業をおこない、音響機器の電源を入れてセッティングの確認をおこなった。
一通りの作業を終え、僕も控え室に移る。あでりーのメイクが始まっていた。最初は和装である。髪を上げて化粧を施し、頭に高島田のかつらをつける。アルタモーダさんのメイクは、華美になりすぎることなく上品にまとめられており、かつらもコンパクトで軽い。もともと美容師であるチーフプロデューサーのSさんをふくめ、女性スタッフが3人がかりでてきぱきと作業をこなしていく。仕事が素晴らしく速く、僕がビデオで撮影しているうち、あっという間に白無垢姿のあでりーができあがった。
控え室にいると、見知った車が入ってくるのが見えた。招待客の方々が集まる時間だ。掛川グランドホテルからのバス、あでりー実家からのマイクロバス、そして自家用車で来られる方、とルートは大きく分けて3つある。
受付は、式場となる大温室から少し離れた加茂荘という場所である。もともと庄屋屋敷だったものがそのまま残され、普段は見学用に開放されている。今回はここを招待客の受付と待合い用に使わせて頂くことになっていた。
心配していた雨はやんでいるようだ。開式前には駐車場から受付、受付からメイン会場までと、屋根のない場所を歩いていただくことになるため、この時間帯にはなんとかやんでくれと思っていた。願いは天に通じたようだ。
着付けの方から声がかかり、今度は僕が着替える番となる。上はU首のシャツ、下はパンツの上にステテコという姿になると、女性スタッフ2人がそそくさと準備を始める。胸に野球のキャッチャーが付けるプロテクターのようなものを装着し、その上に長襦袢、着物、と重ねていく。袴をつけ、角帯が締められると、苦しさに声が出た。我慢できないほどではないが、少なくとも物を食べられる状態ではない。着付けの女性にそう話すと、ゆるんで落ちない程度にゆるめて下さった。
あでりーよりもさらに速い時間で、僕の着付けは終わった。あでりーは大きく動くことができないため、椅子に座ったまま僕の着付け風景をビデオで撮影してくれた。
着替えを終え、僕は一人で宴会スペースに戻った。音響担当のSさんが来られていて、機器のテストをおこなっている。ここでトラブルが発生した。2台ある大型テレビのうち、レンタルした27型テレビの電源が入らないのだ。朝来て確認した時には問題はなかった。が、Sさんに言われて見てみると、確かに、電源ボタンを押してもすぐに切れてしまう。何度か試してみるが、うまくいかない。この時点で9時半。両親との写真撮影の時間となっていた。
| 【着替えの様子(あでりー)】 |

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| 【着替えの様子(HARUNA)】 |

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■両親との写真撮影
スタッフの方が、僕の両親とあでりーの両親、それから祖母を連れてやってきた。ビデオを撮影してもらうため、あでりーのいとこ二人にも先に入ってもらう。みな一様に、会場の素晴らしさに驚いた様子だった。僕の母親は、僕らが和装をすることを想定していなかったようで、僕の袴姿を見て似合ってるね、と言ってくれ、あでりーの白無垢姿には涙さえ浮かべていた。
僕ら二人を中心に、咲き誇る花の前に総勢7人で並ぶ。カメラマンの柿本さんが巧みにみんなの笑顔を引き出してくれる。何ショットかを撮ったあと、撮影は終了となった。両親と祖母はそのまま会場に残り、僕ら二人と一緒に、入場してくる招待客を出迎える。ビデオ係のいとこ二人にも会場でスタンバイをしてもらい、入場風景を撮影してもらうことになっている。
僕は急いで先ほどのテレビのほうへ向かう。携帯でレンタル業者さんに連絡を取り、指示をあおぐ。いくつかアドバイスをもらい、操作してみるがうまくいかない。それでもいろいろといじくっているうち、なんとか電源が入った。これでよし、と別の場所に移ると、バチバチ、という異音が聞こえた。先ほどのテレビの電源が落ちており、ショートしているような音が聞こえる。これはやばい、と電源を落とし、コンセントを抜く。もう開式まで時間はない。あきらめるより他なかった。Sさんと一緒にテレビを宴席スペースから撤去した。
「お客様をご案内してよろしいでしょうか!」
チーフプロデューサーのSさんの声が聞こえた。開式の時間である。テーブルにはいつの間にか食事がきれいに並んでいる。招待客の皆さんが、入り口からフクロウの展示ゾーンを通り、メインスペースの直前まで移動してきた。
| 【両親を交えての記念撮影】 |

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| 【待合い室となる加茂荘の様子】 |

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| 【セッティングの完了した宴席】 |

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| 【ペンギンで一杯の新郎新婦席】 |

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