■朝のはじまり
7月1日。
いよいよ式の前日を迎えた。
今日一日かけて、加茂花菖蒲園を結婚式場に改装するのだ。
レンタル機材の搬入は業者さんに手伝ってもらえるが、それ以外の作業はすべて、僕とあでりーの二人だけでおこなう。この日のため、会場で何をすればいいのかの手順をしっかりまとめてきてある。あとはそれを実行するのみだ。
朝、ホテルを出て会場に移動した。昨日からの天気予報では、今日明日と雨の予報だった。今朝は雨は時折ぱらつく程度で、搬入にはとくに問題はなさそうだ。搬入さえ済ませてしまえば、あとは室内作業が主となるので雨でもほとんど関係はない。問題は明日、招待客の皆さんの出入りする時間帯に降らないでいてくれるかである。
会場に到着するや、さっそく台車を借り、荷物の搬入作業にかかる。一番の大物である43型テレビを二人で運び、あとは二手に分かれ、それぞれの車から荷物を下ろした。宴席スペースとなる喫茶コーナーはこれから大がかりなセッティングを控えているため、テレビ2台とDVDプレイヤーなど、音響設備だけを運び入れ、それ以外はとりあえず入場口近辺に残した。その後、控え室となる事務室、それから厨房への搬入をおこなった。飲み物など重いものは台車を使い、何度か往復してすべての荷物を運び入れた。
次に、宴席のセッティングにとりかかる。温室内の喫茶コーナーを使うのだが、現在置いてあるテーブルはすべて撤去し、この日のためにレンタルしたテーブルを置くことになる。椅子も必要数以外はすべて別スペースに移動させる。菖蒲園のスタッフの方も手伝ってくださり、意外に早く作業は終了した。
あでりーは入場口のあたりで、テーブルごとの紙袋の用意など細かい作業をしてくれていた。菖蒲園さんはこの日から閉園となるのだが、知らずにやってくるお客さんが何人かいて、あでりーに話しかけてきたらしい。そのたび、いえ私は関係者ではございませんので、という応対をしていたのだそうだ。
9時半にレンタル業者のダスキンレントオールさんが到着した。音響設備の基本セッティング、テーブルの設置などはお願いしてあったので、早速とりかかってもらった。僕はセッティングの指示や手伝いをし、あでりーは控え室および厨房の作業をおこなうことにした。
| 【宴席スペース … 作業前】 |
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| 【宴席スペース … テーブルと椅子を撤去したところ】 |
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| 【宴席スペース … レンタルしたテーブルを並べたところ】 |
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■二手に分かれて
レンタル業者さんが帰られたあとも、細かなセッティングを続けた。午前中にアルタモーダさんのスタッフが会場を訪問され、音響システムのチェックと打合せを行う手筈になっていたため、先にそちらに手をつけることにした。
ビデオ上映用に、自前の43型テレビとレンタルの27型テレビが会場の左右に並ぶ。もう1台の14型テレビは、音響担当の方の手元に置き、操作確認用として使用する。流れる映像は3台とも同じで、DVDプレイヤーからの映像が式のあいだじゅう流れっぱなしとなる。
音声は、マイク2本の音に、DVDからのBGMやビデオ音声がミックスされる。スピーカーは4本が会場を取り囲むように設置された。配線を確認したのち、DVDのディスクを入れ、映像と音が正しく出ていることを確認した。マイク2本の音声も正常だった。
| 【会場セッティング図】 |
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| 【音響機器接続図】 |
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あでりーは、控え室と厨房のセッティングを一人でやってくれた。加茂花菖蒲園様の事務室を控え室として使わせていただくため、まずは机を動かしてスペースを作る必要があった。それから着替え用の姿見、ウェルカムボードなどの梱包を開けて組み立てる。テーブルの上には、スタッフ用飲み物、子供用食事のお皿、式中で使う手提げのカゴなど、必要なものを置いた。別棟となる受付に持っていくもの(席次表、会費箱、ウェルカムボード、紙コップ、ゴミ箱、ゴミ袋、お盆、ふきん、等)は、翌日の朝すぐに持っていけるよう、まとめておいた。
厨房では、自分たちで持ってきた飲み物をすべて冷蔵庫に入れ、持ち込み品のリストをそばに貼った。飲み物のうち、翌日受付に持っていくものは、わかるように分けておいた。冷蔵庫にウェディングケーキが入るスペースがあることを確認し、ケーキ皿・ストロー・コーヒーフレッシュなどがあることも確認した。自分達で搬入したフォークとワイングラスを洗い、他のコップなどと共に所定の場所に置いた。
新郎新婦用の席は、会場の別スペースから長机を持ってきて、所定の位置に置いた。式中で使う各種グッズを置く場所をどこにするかと考えたが、音響操作スペースの奥に事務室へ通じる小さなドアがあり、そのそばに適当な場所を見つけた。お色直し中に席に置くウェディングペンギン(ぬいぐるみ)、余興のゲーム用グッズ、署名式用の色紙・トレイ・タオル、両親へのプレゼント用のフラワーアレンジメント、シャボン玉キットなどをそこに置いた。
■アルタモーダさん到着
アルタモーダさんが来られると、僕は明日音響操作をご担当いただくSさんを紹介していただき、早速打合せに入った。僕が用意したのは、BGMやビデオなど、式で使うすべての音楽と映像を収録した1枚のDVDディスクで、それぞれの音楽や映像がメニュー画面からの操作で再生できるようになっていた。Sさんはこれに戸惑ったらしく、普通はメニュー画面からではなく、一つの音楽が終わったら「NEXT」ボタンで次へ次へと送っていくような作りになっているという。僕としては、メニュー画面を通した操作のほうが便利だと思ってそうしたのだが、このあたり、事前に打ち合わせをしておけばよかったと後悔した。
それでももう作り直す暇はないため、これでお願いするしかない。何度か試した末にSさんは、なんとかこれでやってみましょうとおっしゃってくださった。
その後、あでりーと共に、チーフプロデューサーのSさんと最終の確認をおこなう。いちばんの変更点は新郎新婦の入退場口で、前回の打合せ時に事務室から厨房を通って出入りするように変更したものを、もう一度元にもどした。厨房担当の方からこの日、狭い厨房内をドレスで行き来するのは難しいとのお話をお聞きしたからだった。
それからいくつか簡単な確認をおこない、最終打合せは終了した。
■午後
アルタモーダさんが帰られたあと、食事コーナーの席に座り、買ってきていたサンドイッチやおにぎりで簡単な昼食をとった。
食事のあと、ふたたび僕らは二手に分かれ、それぞれの作業を継続した。あでりーは、午前中に搬入される予定のビールが届かずに焦っていたらしいが、午後になりようやく届けられた。
僕は音響操作席や小物を置いたテーブルが招待客から見えないよう、別の場所に置いてあったついたてを3つほど運び、設置した。
その後、駐車場から受付までの案内板を設置するため、外に出た。使えそうな立て看板を各所で見つけ、それに「受付こちら」と書いたA4の紙を貼り、駐車場と受付の間の何カ所かに置いた。途中、やはり閉園を知らずに訪れたお客さんから僕も声をかけられ、今日からもう閉園なんです、という返事をすることになった。
心配していた雨はすっかりあがり、暑さが体にこたえるほどだった。一気に汗が噴き出てきた。
招待客の入場ルートに、生きた鳥を止まらせておくことになっていた。鳥はヨウムとキバタンという種類で、普段からこの会場の中にいるのだが、その場所をすこし移動させてもらう必要があった。鳥担当の方がいらっしゃったのでその旨を伝え、作業をしてもらった。その後、招待客の方が触ってかみつかれたりしないよう、鳥の周囲に簡単な柵も設置された。
だいたいのセッティングが終わったところで、二人で簡単な通しリハーサルをやってみた。入退場のルートを、BGMを流しながら歩いてみたり、余興をおこなうスペースを確認したりなど、実際に会場に立ってやってみることで、さらにイメージをふくらませることができた。
僕はこのあと、新郎新婦の通るルートの床面に、汚れ対策のキッチンシートを貼った。5メートルほどのロールを何本か使い、主要なルートに両面テープで貼り付けた。
天井から花びらが落ちてきたりしずくが垂れる可能性があるため、椅子は逆さまにして置き、テーブルクロスは当日の朝かけることにした。このため、テーブル上のセッティングも当日におこなうことになり、各テーブルに置くものは紙袋にまとめて入れ、喫茶カウンターに置いた。
会場が使えるリミットの午後5時をすこしオーバーしながらも、なんとかセッティングを終えることができた。一日で本当に終わるのか心配だったけれど、今日予定していたことはすべてやり切った。安堵と満足と心地よい疲労感を感じながら、二人してホテルに戻った。
| 【音響操作スペース前に置いたついたて】 |
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| 【新婦の通るルートにキッチンシートを敷く】 |
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| 【セッティングの完了した控え室】 |
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| 【セッティングの完了した宴席スペース】 |
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■ホテルでのあいさつ
ホテルでは、この日最後の仕事があった。宿泊客の皆さんへのごあいさつである。まずは、まとまって食事をとっているHARUNA側親戚一同のもとに顔を出した。遠いところをどうもありがとうございます、と皆さんに頭を下げてから、一人一人、簡単にお話をして回った。
兵庫のそれぞれのご自宅から姫路駅に集合し、そこから新幹線に乗り、途中でこだまに乗り換えての掛川到着。高齢の方も多いなかの長旅である。それでもみなさん、笑顔で迎えて下さった。僕の両親はとても嬉しそうな顔をしていた。
ひととおりお話が終わったあと、母親と一緒にホテルのロビーに移動した。まずは、祝儀がわりの会費を母親から渡された。HARUNA側親戚全員のぶん、さらには出席されない方からの御祝儀も含まれていた。金額は、当初定めた3万円よりも多額のものがほとんどだったが、母親と話をして、それらについては返却はしないことに決めた。
僕のほうからは、式当日に渡してもらう心づけを母親に渡した。ホテルのフロントの方、それから、ホテルから会場までのバスの運転手に渡すぶんである。当日僕ら二人は先に会場入りするため、手渡すことができないのだ。
その後、今度は父親から、ビデオカメラ一式を受け取った。僕の持ってきた2台に加え、さらにもう一台、父親のものを貸してもらうことになっていた。
開式前におこなう親族紹介についても、僕らが同席することはできず、お互いの両親主導でやってもらう必要がある。このため、事前に作ってきた親族リストを両親に手渡し、おおよその内容を確認した。また、会場全体の見取り図も渡し、簡単な説明を加えた。
■部屋にて
両親との話を終えたあと、皆さんにあいさつをしてその場を離れた。いったん部屋に戻ったあと、友人関係でホテルに宿泊される方々に内線で連絡をし、部屋まであいさつにうかがった。HARUNA側親戚を除くと、ホテルに泊まっているのはあでりーの友人、それから二人にとってのペンギン仲間である。ペンギン仲間のOさんとYさんは、当然のごとくペンギンファッションで身を固めていた。しばらくペンギン話に花を咲かせ、明日よろしくお願いしますとあいさつをして部屋を出た。
あでりーの友人であるMさんとAさんとは、我々の部屋で一緒に食事をとりながらゆっくりとお話をした。二人ともなかなか会えない場所に住んでいるため、あでりーはここぞとばかりにはしゃいで話は尽きなかった。
夜10時前、Mさん、Aさんと別れ、忙しかった今日の予定はすべて終了した。あとは、明日の本番を待つのみである。
それほど緊張はなかった。むしろ楽しみでしかたないほどだった。明日も開式前にやることが山ほどある。しっかり眠ってエネルギーを充填するため、早めに床についた。