19.あと二ヶ月だ
2006 5
←前へ  次へ→
■ペンギンになるために

 ひきつづき、小物の準備に追われていた。引き出物はあでりーが一手に引き受けてくれて、各方面から品物を取り寄せてくれた。加茂花菖蒲園さんで作っている手製の味噌、ネットショップ「エル・ペンギンズ」さんのペンギンコースター、「ペンギンギャラリー」さんのタオル、「ひろはまかずとし」さんの食器、「あいや」さんのお茶、ギフトカタログ、旅行カタログなどの中から、招待客ごとに何を喜んでもらえるかを考えて組み合わせた。ギフトカタログについては、20社以上をピックアップした中から、安くて内容の良いものを選び出した。ネットで購入したり知り合いの店で安く手に入れたりしながら、着実に品物はそろっていった。
 ちなみに、ひろはまかずとしさんはあでりーの地元に近い蒲郡市出身のアーティストで、絵と短い言葉で人の心をつかむ作品を多く製作している方である。あでりーが昔からのファンで、事あるたびにポストカードや本などをいろんな人に贈っていた。僕も彼女から紹介されて作品を見るようになり、好きになった。今回の結婚式でも引き出物に何か入れたいと思い、3月に下見は済ませてあった。引き出物の食器のほか、ウェルカムボードもここで注文することにした。

 式内での庄屋料理の説明は、我々でおこなうことにした。読み上げるのはあでりーが担当することになり、原稿も彼女が考えてくれた。それから、新郎新婦紹介はそれぞれの友人にお願いすることにし、内容の概略もそれぞれで考えることにした。

 式で出す飲み物のうち、酒類の準備についてはあでりーに任せていた。ほとんど酒を飲まない僕より、多少はたしなむ彼女のほうが適任だった。ビールやワイン、日本酒のそれぞれについて、どの銘柄がいいか、どこで買えば安いのかを入念に調査してくれた。

 式の最後の退場時、シャボン玉シャワーで新郎新婦を見送るという演出を予定していた。このため、電動の自動シャボン玉機、それから口で吹くタイプのシャボン玉セットを用意した。口で吹く方はドイツ製で、一気にたくさんのシャボン玉を作ることができ、さらには人体に無害な液体を使ったものである。
 小さな子供さんが2名出席する予定なので、なにかプレゼントをあげようということになり、これも適当なおもちゃや絵本をあでりーがネットで探し、購入してくれた。また、ドレス色当てゲームの商品についても検討を重ね、静岡特産のメロンに決めた。その他、結婚証明書として使う折りたたみの色紙など、必要な物をひとつひとつ購入していった。
 
 僕が着る燕尾服の修正にはかなり頭を悩ませた。燕尾服自体がペンギンと似ているため、さらに手を加えてなんとかペンギンに見えるような形にしたかったのだ。さんざん考えたあげく、黒の上着に白のズボンをはき、シャツの中に黄色いスカーフをアスコットタイ風に入れることでエンペラーペンギンになる、という感じのイメージを絞り出した。
 首に巻く黄色のスカーフは探せばすぐに見つかるだろうと踏んでいたら、なかなかいいものが見つからない。黄色一色で模様がついてないものが欲しかったのだが、たいていのスカーフには模様があるものだ。デパートへ行くたびに探してみるが、思うようなものがない。何軒も探し回ったあげく、あでりーの実家近くのお店でみつかった。スカーフではなく、薄手のマフラーのような布地だったが、これで十分だった。
 あとは、上着の袖口のところに先が尖った布地を付け足し、ペンギンのフリッパー(羽根)のように見える細工をすればよい。町なかでよく見かける洋服修繕のお店にお願いしようと思ったが、サイズ直しの店ばかりでオリジナルな細工を施すところが見つからない。ところが灯台の元は暗いもので、家のすぐ近くにあった小さなお店にお願いしてみたところ、なんとかやってみますとの返事をもらった。

  【タキシード修正依頼書】


■ペンギン指輪

 あでりーの実家近くにオーダーメイドの宝飾店があったので、試しに二人で行ってみることにした。職人肌で話好きな店主は、これまでにデザインしたオリジナルリングの写真をいくつか見せてくれた。ここでは地金の素材を使い、一から加工してくれるので、自由なデザインで作ってもらえる。どういうものがいいですかと聞かれたので、あでりーがその場でデザイン画を描き、それを元に試しのリングを作ってもらうことになった。

 指輪に使う素材についてもお話をお聞きした。プラチナが一般的だが、意外なことにとても柔らかく、すぐに形が崩れてしまうという。プラチナの次によく使われるのがホワイトゴールドという素材で、こちらのほうが断然硬い。ただ、黄味がかったくすんだような色合いをしており、通常は銀色のメッキをしてプラチナのような色合いを出す。だから見た目はプラチナと変わらないが、メッキなので年月が経つとどうしてもはがれてきてしまう。
 プラチナのほうがもちろん値段は高く、最近さらに価格が上昇しているという。値段を安く済ませようとするほど素材が薄くなり、さらに変形しやすくなってしまう。
 メッキをする前のホワイトゴールドの素材を見せてもらったところ、たしかに黄色っぽい感じだが、これはこれで悪くないと思った。また、ホワイトゴールドでも上質のものは、きれいな銀色になる。プラチナほどの輝きはないが、これならメッキをしなくても十分だと思った。価格、色合い、型くずれのしにくさから考えて、僕らはホワイトゴールドでいくことにした。
  

【あでりーが即興で描いた指輪原画】



【後日できあがった指輪見本】

←前へ  次へ→