11.入籍
2005 11
←前へ  次へ→
2005年11月5日

 お義父さんから出された“宿題”を検討したすえ、僕らは旅行に行く1月よりも前に入籍をすることにした。どうせなら何か意味のある日にしようと考え、11月5日をその日に決めた。3年前の同じ日、僕とあでりーは出会ったのだった。

 今年の11月5日は土曜日だった。土曜日でも区役所は受け付けてくれるが、受理した婚姻届を精査するのは翌営業日となる。もしそこで不備が発覚すれば修正して再提出となり、入籍日は再提出をした日になってしまう。ネットで調べてみると、こういう場合に備え、事前に役所に行って不備がないかどうかを確認してもらったほうがいいらしい。僕らは10月の下旬に区役所に出向き、記入済みの婚姻届を見てもらった。とくに大きな問題はなく、あとはこれを提出するのみとなった。

 ちなみに「籍を入れる」とか「籍に入る」と言うが、これだとどちらかの戸籍に相手が入るというイメージになる。しかしこれは通常正しくない。再婚や養子などは別だが、初婚の場合は通常、双方が親の戸籍から抜けて新しい一つの戸籍を作ることになる。だから、「作籍」とでもいうほうが実状に近い。戸籍という新しい「箱」を、二人で作るのだ。

 ついにその日は来た。当日、まず僕があでりーの実家に行き、次に彼女の祖母に会ってから最後に区役所に向かうというスケジュールになった。籍を入れるというのは完全に親から独立することであり、これから生活を共にしていく僕と一緒に、「今から入れに行きます」と言いたい。あでりーから事前にそう提案され、僕はなるほどと思い、即座に了承した。
 近くにある料理屋さんで食事をし、それでは行ってきます、とあいさつをした僕らを、あでりーの両親は温かい目で見送ってくれた。その後、当時手術のため入院していた祖母の病室を訪れ、同じようにあいさつをした。祖母との結びつきが強いあでりーにとって、やはりこれは必要な過程だったのだと思う。

 その後、車で区役所へと向かった。駐車場に車を停めてから、婚姻届を持った写真をお互いに撮り合った。これを提出する前と後とでは関係が異なるのだと思うと、不思議な感じがした。
 提出場所は、役所の警備室だった。がらんとした部屋で簡単なチェックをしてもらい、はいOKですよ、おめでとうございます、と言われた。手続きは一瞬だった。部屋を出て駐車場に戻りながら、なんとなく照れくさい気分を味わった。

 しょせんは紙切れ一枚だ、とよく言われる。要は二人の関係自体がどうなのかということであって、たしかに籍を入れようが入れまいが関係ないとも言える。だが、入籍をきっかけにいろんなものが動き出すことは事実であり、それは決して軽いものではない。これを紙切れ一枚のことと済ますなら、どんな重要書類だって同じであり、ひいては人一人の存在すら紙切れに過ぎなくなる。
 じゃあ入籍をしたからどうなるのか、と訊かれると、何も変わらないと答えるしかない。どうなるのかではなく、どうするのかしかないと思うし、実際の生活において変わることは何もない。今までどおりの気持ちで、今まで通りの行動を続けていくだけである。だってこれまでだっていい加減な気持ちでやってきたわけじゃなく、二人で一所懸命考え、その中で行動を決めていったわけだから、そこから何も変わることはない。

 区役所からの帰り、近くのスーパーでいろんなものを買い込み、二人でお祝いをした。あでりーの提案で、僕らはそれぞれ来年の自分たちに向けて手紙を書くことにした。書いたものはその場で読まず、来年の同じ日に開ける。そしてまた、その次の年のために手紙を書くのだ。

 紙切れ一枚だかどうだか、よくはわからない。ともあれ僕らはその夜、とても幸せだった。


■入籍後

 一緒に住むところは新婚旅行の後に決めることにしていた。あでりーは入籍から数日を僕の家で過ごしたのち、いつものように実家に帰っていった。
 これから式に向けてどう勧めていくかを明確にするため、二人でごく簡単なスケジュールを作ってみた。やるべき項目を書き出し、だいたいの時期を入れる。とくに年内に済ませておくべきことを中心に書き出してみた。たくさんの項目が並んだ。

 ウェディングケーキについて、ケーキ屋さんからメールが来た。会場が温室であるため、生クリームを使ったケーキは難しいらしい。そこで、パウンドケーキで外形を作り、それにシュガーコードで模様を描くという提案があり、僕らはそれでいくことにした。しばらくして料金の見積もりが送られてきた。想定していたよりちょっと高めだったが、ケーキ製作と会場までの運搬、式内でのパフォーマンスなども含まれるため、妥当だろうと納得した。
←前へ  次へ→