■ついに!
6月の加茂花菖蒲園でのお言葉が色よいものだったので、すぐに正式なお返事がいただけるかと思っていたら、なかなか連絡がこない。7月に入り、8月になっても連絡はなかった。ふたたびしびれを切らし、こちらから電話をしてみた。今度は常務のUさんとつながった。時期が7月になっても構わないこと、温室の状態が今年と違っても構わないことなどを確認したすえ、U常務がおっしゃった。
「はい、それなら問題はありません。このまま話を進めてもらっていいですよ」
「本当ですかっ!?」
やった! ついにやった。
数ヶ月を要した長い交渉が、いま、ようやく実ったのだ。思い描いていた結婚式がこれで実現できる。
なによりまずあでりーに携帯メールを送る。すぐに電話がかかってきた。僕らは互いに喜び合い、これまでの健闘を称え合った。
■プロの仕事
ついに会場が決まった。これで拠点ができ、すべての準備が本格的に始動できる。さっそく衣装選びに動くことにした。僕の家からすぐのところにあるお店をネットでみつけ、予約して訪れてみた。
レイナ三城(みき)さんというデザイナーが経営するサロンだった。住宅街の真ん中にあり、お店と言ってもぱっと見は普通の一軒家である。街で見かけるレンタル衣装屋さんとは、趣がまったく異なる。中へ入ると、レイナ三城先生が丁寧に出迎えてくださり、お茶の用意までご自身でしてくださった。
一休みしてから、試着に移る。ここで借りられるのは、女性用のドレスのみである。
Aライン、プリンセス、マーメイドなど、僕にとって初めて聞く言葉が行き交う。ドレスの種類を表す用語らしい。レイナ先生はそれぞれのドレスごとに、デザインの意味、式で着る時にはどこをどう手直しするかなど、詳しく説明をして下さる。
それにしても、出てくるドレスすべてが、それぞれに素晴らしい。まだそれほどいろんなお店を廻ったわけではないが、どこでも見たことのない独創的なデザインのものばかりだ。なにしろレイナ先生は、東京や名古屋でファッションショーを行い、多数のウェディング雑誌で作品が紹介されるほどの方である。聞くと、今回用意してくださったドレスの中には、実際にファッションショーで使われるものもあった。そりゃ他の店とは違うはずだ。
そして僕はレイナ先生の、肩書きだけではない、実力としてのすごさを肌で感じた。
ドレスのひとつひとつに相当な時間をかけ、即興でアレンジを施していく。ほんの少し手を加えるだけで、同じドレスがまったく違って見える。プロだ。これはプロの仕事だ。あいさつの時はていねいな物腰だったのが、試着に入ると急に厳しい言葉も飛び出す。いい物を作ろうという確固たる意志とプライドを持って仕事をしているのが伝わってくる。僕はビデオとカメラで撮影をし、あとは見ているだけだったけれど、すこぶる楽しくて充実した時間を過ごした。
ひととおり試着を終えてから、料金の話になった。これだけいい物だけれど、手が出ないほど料金が高かったら仕方がないな、と思いつつ聞いてみると、なんと驚くべきことに、世間の相場よりも安いのである! ほんとにこれでいいんですか、と聞き返したくなるほどだった。
気づくと、到着してから3〜4時間ほどが経過していた。レイナ先生はまったく疲れたそぶりも見せず、みっちりと我々に付き合ってくださった。
お礼を言ってサロンを辞去し、車に乗り込む。あでりーは相当気に入った様子であり、試着の最中からそれはうかがえた。もちろん僕も同じ意見である。とことん自分達のやりたいものを追求し、本当に望む形のものを実現するという、これまでやってきた自分達の方針にぴったり合うところだと思った。
「もうここで決めちゃってもいいくらいだね」
僕らはそろって口にした。
〜この日に撮影した写真 〜
(ビデオからの取り込みのため、画像が荒くなっています)
◆ドレス その1.




ドレス その2.



ドレス その3.



ドレス その4.


