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雪の日 Vol.2

※これは「雨やどり」というパラレル小説のゾロサンになります。

 野菜を入れ、薄くダシと醤油で味を付けた雑炊を部屋に運ぶと、寝ていると思っていたゾロが目を開けていた。
「起きてたのか」
「ああ…腹減った」
「風邪ひいてても食欲はあるんだな?良かった。雑炊作ったから食うか?」
「食う」
 もそもそと身体を起こしてベッドから降りようとする。
「ああ、いいから。そのまま布団に入ってろ。トレイに載せたままだから、ベッドの上でもいいだろ。上なんか羽織ってな」
 持っていたトレイを一旦テーブルに置き、羽織るものをクローゼットから取りだし、ベッドヘッドに凭れて座っているゾロの肩に掛ける。サンジの動きを目だけで追うゾロが何か言いたげにしていた。
「なんだよ?」
「いや…何でもねぇ」
「なんだよ、気持ち悪ぃな。どうかしたなら言えよ?寒いか?エアコンの温度上げた方がいいなら…」
「寒くねぇ」
「…?じゃなんだ?」
 リモコンに手を伸ばしたトコロで止められ、首を傾げた。
「本当に何でもねぇ。コレ、食っていいか?」
「…ああ。熱いからちゃんと冷まして食えよ。寒かったらちゃんと言えよ?あ、あと汗かいたら拭いて着替えなきゃなんねぇから、ソレも言え」
「分かった」
 短くそう言うと、もそもそと食事を始めた。
 よく冷ましてから一口食べると、眉間に皺が刻まれる。どうかしたのかと問うと、あんまり味がしない、との事だった。
「まぁ薄味にしてるってのもあるだろうけど、熱が高いからかな?」
「分からねぇ」
「ま、そうだろうな。オレサマが作った料理が不味い筈は無い。取りあえず食ってしまって、薬飲んで寝ろ」
 むーっと口をへの字に曲げ、ホカホカと立ち上る湯気の向こうにある雑炊を、親の敵かなんかと勘違いしているかのような風情で睨み付けている。
 そんなゾロを見てサンジは、良いから食えよ、ガキ、と笑った。



 ゆっくりと時間を掛けて雑炊を食べ終えたゾロの手からトレイを受け取り、頭を枕に押し込む。押し込んでから薬を飲ませなきゃと思い出した。
「あ、薬。水持ってくるから、ちっと身体起こしとけ」
「あー…」
 冷蔵庫からペットボトルを取りだしてから、ふと薬局のおばちゃんが白湯で飲ませるように言っていた事を思い出し、マグカップにお湯を注いだ。これは水で割る訳にはいかないのだろうか。暫く思案していたが、そこまでは聞いて来なかった事を後悔したが仕方がない。
 マグカップを手に部屋に戻るとゾロは枕に頭を押しつけたまま寝ていた。
「キツイか?」
「…ん。薬飲むのか?」
 もそもそと起き出そうとする肩を押し留め、テーブルにカップを置く。
「まだイイ。湯が冷めてからだ」
「ああ…」
 熱を持ったゾロの頬に、額に手を当てる。
 自分の手が冷たいのか、ゾロが熱いのか。うっすら浮いた額の汗を指で拭いながら、どの段階で汗を拭いてやればいいのか考える。
 もっとこう、どばーっと汗が出たら拭いて着替えさせればいいのだろうか。
 なにせあまりにも経験がないので、どうしていいのか分からない。
 ゾロは苦しそうに息を荒くしているし、顔も赤い。寒気がする訳ではないようなので、やはり冷やすべきなのだろうか。
「熱高いな…。汗かいて冷ますのがいいって言ってたけど、寒くねぇか?頭熱ぃ?まだアイスノンは冷え切らないよな。冷えピタじゃあんま効かないなぁ。氷枕とか作れればいいんだけど…あ、氷嚢くらいなら作れるかも。待ってろ」
 ベッド脇から立ち上がり、再びキッチンに向かおうとする手を掴まれた。
「どうした?」
「お前の手がイイ」
「え?」
「…お前の手、冷たくて気持ちいいから、触ってろ」
 掴んだ手をゾロの額に持って行かれる。
 とんだ甘えん坊に変身したらしい。
 クスクス笑いを漏らしながら、その場に座り込む。手は額に当てたまま。
 ゾロが片目を開けて睨んできた。笑ったのが気に障ったらしい。
「…笑ってんなよ」
「頭痛は少しはマシになったのか?」
「ああ。さっきよりいい」
「そうか」
 やはりこの汗は拭いた方がいいかもしれないと、足下にあったタオルを引き寄せ、湿気を帯びた頭を軽く拭いてやる。額に貼った冷えピタも、既に熱くなっているので剥がしてからタオルで拭い、新しい冷えピタを貼った。
 手が離れる事を咎めるようにムッと眉間に皺を寄せたが、額ではなく撫でるように頬に手を添えると、安心したように目を閉じた。
 本当にガキくさい。
 暫くそのまま、母親が子供にするように髪を梳いて、頬を撫でて、ゾロが落ち着くように、早く熱が引くように、傍に居た。

 薬を飲ませ、汗を掻いたパジャマを着替えさせてから、ゾロが寝付くまで傍に居た。


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2006/5/10UP

Kei

大変お待たせいたしました。
そして終わってません…。