雪の日 Vol.3
※これは「雨やどり」というパラレル小説のゾロサンになります。
夜中目を覚ました。ベッドの横に座り、ゾロの傍で寝ていたらしい。さすがに寒く、ぶるりと震えると肩から何かが落ちた。 「…?」 ずれ落ちたソレを拾い上げると、それはゾロが羽織っていた上着。食事をする時に羽織らせておいたのを、そのまま布団の上に置いていたはずだが、途中で目を覚ましたゾロが掛けてくれたのだろうか。 ベッドの上を見ると、ゾロは静かな寝息を立てていた。 少し汗をかいているだろうか。タオルでそっと汗を拭ってやる。額の上の冷えピタを剥がし、額を付けると熱は先程より下がっているようだ。 「オレもひとまず風呂入ってくるか…」 ゾロの布団を肩まで引き上げ、明かりを落とした。 湯を張るのは諦めてシャワーで身体を温め、バスルームから出ると、消した筈の寝室の明かりが点いていた。 何やらごそごそ物音もする。 「おい。何やってんだ、病人」 「あ…いや」 ベッドから降りて、鞄の中を引っかき回しているゾロが、見つかってしまったと言うような仕草で手を後ろに回した。 「…何隠してんだよ。つーか、寝てろよ、オマエ」 「や、隠してるっつーか…」 押しつけられるように渡されたモノは長方形の味も素っ気もない石。 「え…?これ…」 「俺にはよく分からねぇが、愛宕山だか何だかから採掘したヤツらしい。お前前欲しいって言ってたから、何とかならねぇかと先生に聞いてみたら、連絡取ってくれたから行って買ってきた」 「先生…」 「ああ、道場の。あそこには真剣もあるし、時々研ぎに出してるって言ってたから」 「買いに行ったって…?」 わざわざ愛宕山まで…? 手の中のズッシリした重みを愛宕山の砥石に目を落とす。 確かに砥石が欲しいと言った事があった。でも、別にゾロに言った訳ではなく、何気なく会話に出ただけの言葉だった筈だ。 「お前、もーすぐ誕生日だし、プレゼントとかって俺にはよく分からないし、欲しいって言ってたのをやるのが一番かと思ってよ」 「誕生日…あ、オレのか…」 「ちょっと早いんだが、別にいいだろ」 どうしよう。 えーと、どうしよう? 凄く嬉しいんですけど…。 バイクですっ転んだのも、そんな遠出していたのも、全ては自分の為だったと。 誕生日プレゼントが砥石ってのは、色気も素っ気もないが、ほんの些細な会話の中の一言を覚えていた事に感激した。思い立ったが吉日とばかりに、雪の中を行ってくれた事が嬉しい。 「ありがとう」 「気に入ったか?」 「ああ。凄く。すっげぇ嬉しい」 あんまり嬉しくて、ゾロの頭を引き寄せて口づけようとしたら、大きな手のひらに邪魔された。 「…」 ムッとして睨んだら 「風邪がうつる」 と、諭された。 なんで、こんな風邪ひき野郎に諭されなきゃならないんだ。 うるさいとばかりに、後頭部を掴み、噛み付くように口づける。及び腰なゾロの舌を引っ張り、派手な音を立ててやった。 「ばぁか。インフルエンザでもなきゃ、風邪なんつーもんは、うつらないんだよ。オレのちゅーを逃げるくらいなら、さっさと熱下げてもっとやらしい事しようぜ」 オレ、今きっと顔赤い。 ここで照れてどうするよ。 「ほらほら、もう寝ろ。明日は旨い飯食わせてやっから、早く熱下げろよ」 「おう…」 神妙な顔で答え、ベッドに上がるゾロを引き留め、汗をかいたスウェットを着替えさせた。もう冷えただろうアイスノンもタオルを巻いて頭の下に入れてやる。 一緒のベッドで寝る訳にもいかないので、自分用に床に布団を敷いた。多少硬くても一日くらいなら大丈夫だろう。 明かりを消しても、外がぼんやり明るくて、そっとカーテンを捲ると、静かに雪が降っていた。 しんしんと音もなく降り続く雪は、辺りを白く照らし、世界を真っ白に変えていく。 暖かい部屋の中、胸の奥も暖かい。 舞うように降る雪を、暫く見ていた。 |
2007/2/3UP
Kei
大変遅くなりました。