雪の日 Vol.1
※これは「雨やどり」というパラレル小説のゾロサンになります。
ゾロが風邪をひいた。 風邪なんてひいたこともねぇし、病気らしい病気は殆どしていないと言っていたので、最初は風邪だと思わなかったらしい。というか、分からなかったらしい。 熱いのに寒いな、と思ったくらいで、これが熱が出ているという状態だとは気が付かなかったと言うのが、ゾロの談だ。 怪我はともかく、病気を知らないのはサンジも同じで、ゾロが風邪をひいているという事に全く気が付かなかった。実際風邪をひいているゾロでさえ分からなかったのだから、サンジに分かれと言う方が無理な話だろう。 まぁ、いつにも増して無口だな、くらいは思っていたが。 「ばぁっかじゃねぇのか?!オマエは!!」 「……頭に響く…喚くな」 「ああそうかよ!!そりゃ悪かったな!!ばぁか!!」 「……〜〜〜…っ」 ゾロの耳を引っ張って、とびきりでかい声で叫んでやったら、頭を抱えた。眉間の皺がいつもより深く刻まれている。 「熱があるってのにぶっ倒れるまでバイトしてるオマエが悪い。てか、バイト行く前に気付けよ。頭痛かったんだろ?そうだよな。朝妙だったもんな、オマエ。寒いとか暑いとかあんまり言わねぇのに今朝に限って『今日は冷えるな』なんて言ってたくらいだもんな。いや、実際今朝はこの冬一番の冷え込みだったけどよ」 「……もう黙ってろ」 「……」 分かった。分かりましたよ。 ソファにぐったりもたれ掛かったままのゾロの服を、無言で剥いでいく。抵抗する気力もないのか、ゾロはされるがままだ。パジャマ代わりのスウェットを着せ、ベッドに放り込んだ。 二月もまだ寒い日。雪で路面が凍結していたのに、いつものバイクでバイトに出掛け、スッ転んで怪我ひとつしなかったのは、頑丈なゾロの事だから別に不思議にも思わないが、その半壊したバイクを押して歩いて帰ってきたと聞いた時には、本物の馬鹿だと思った。 その上それが元で今の高熱が出ているとしたら、今まで風邪をひいた事がないと言っていただけに、鬼の霍乱としか思えない。そんな繊細なタマじゃないとは思うが、実際熱があるのだから仕方がない。 サンジはゾロの広い額に冷えピタシートを貼り付けて、水枕を用意すべくキッチンに向かった。 サンジが仕事から帰宅した時、酒も飲んだ様子もないのにゾロがソファに凭れて眠っていた。変だなと思い、広く愛嬌のあるデコを叩いたら、その額が思いの外熱く、一大事とばかりに近くの薬局まで走って冷えピタシートやら水枕やらを買い込んで来たのだ。 だからまだアイスノンとやらはぬるいままで、ぐんにゃりしている。とにかく頭を冷やして身体を温める事、と薬局のかなりお年を召した女性の薬剤師から聞き、今の状況に至る。 「冷えピタとかこんなちっこいモンで頭冷えんのかなぁ?このアイスノンとやらは冷凍庫に入れるとしても、冷えるまで時間が掛かるだろうし、取り敢えず保冷剤とかでもいいんかな…」 冷凍庫にアイスノンを入れながら、目に付いた保冷剤を取り出してみる。カチカチに固まっていて、これを枕にするのはかなり頭が痛いのではないだろうかと思うが、応急処置だから仕方がない。 取り出した保冷剤にタオルを巻いて、ぐったりという体で寝ているゾロの頭の下に押し込んだ。 「解熱剤は…取りあえずメシ食わせてからだな。お粥がいいのかな?栄養つけなきゃなんねぇから野菜とか入れて雑炊みたいにした方がいいのか…?」 もっと詳しく聞いて来るんだったと、小声でブツブツ言いながらキッチンに戻る。 いつもなら今日あった事をつらつらと喋りながら、聞いているのかいないのか、おう、とかああ、とか簡単な相槌を打つゾロの声を聞きつつ、夕飯の準備をするのだが、今日はその声が聞こえない。 「風邪ひくなんて、初めてだよなぁ。オレだって風邪ひいた事ねぇのに、先越されたよ、オイ。つか、風邪ってツライのかなぁ?熱出すとどうなんだろ?」 手を動かしながらもサンジの口からも独り言が漏れる。一緒に暮らす前はどうしていたのか思い出せないくらい長く一緒に居る訳ではないのだが、ほんの数年の間に一緒に居る事が当たり前になっていた。 これからあとどれくらい一緒に居られるのだろうか…。 |
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2006/3/16UP
Kei
一旦区切ります。
あまり長引かずに終わらせられるといいな…。