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※このお話は『雨やどり』というパラレルの学生ゾロサンです※

Honey Honey Crescent Moon

<Vol.7>

 風呂は広々としていた。
 どこかの温泉センターと違い、ライオンの模造品も見当たらないし、客も老年に差し掛かろうかという風情の男性しかいないため、静かだ。
 岩肌から染み出ている温水の音が小さく聞こえてくる。
 部屋の風呂にはまだ入っていないが、見た目はあの露天風呂がそのまま拡大されたような感じだろうか。
 温泉はサンジには少し熱すぎるようで、少し浸かった後、今は足だけをぱちゃぱちゃ浸けている。
 普段は先にゾロが熱い湯に入り、次に湯を少し抜いて温めの湯にゆっくり浸かるのがサンジだ。肌が弱いのだろうか、あまり熱い湯だと白い肌が真っ赤になっている。
 歌を口ずさみながら気持ちよさそうに足を湯から出したり入れたりしている仕種を見ると、どうやら機嫌は急変しているようだ。怒りのツボとか喜ぶツボというのが、イマイチ掴みかねる。
「でかい風呂ってイイよなー。コレ冬だったら雪景色でもっと綺麗なんだろうな?」
「そうだな」
「雪見酒って洒落込んで、ほんのり頬が染まったナミさんとかビビちゃんとか、見てみたいよなー」
「あ?何でソコでナミが出てくる?」
「だって野郎のじゃつまんねぇじゃん。こう…温泉ってのは、女の子がちょっと湯当たりしちゃった〜って頬をピンクにして寄りかかってくるのが良いんじゃねぇか」
 アホか。とは口に出さなかったが、相変わらずの女性第一主義には困ったものである。
「その前に今のお前が赤ぇよ。のぼせる前に上がった方がいいんじゃねぇか?」
「…んだよオレに先に上がれってのかよ」
 ぷうっと頬を膨らませ、口を尖らせて文句を言う。
「んや、俺も上がる。落ち着かねぇから、部屋で入る」
 苦笑しながらザブリと湯から上がり室内に戻る。少しだけひんやりした空気にホッとしながら、サンジも後を付いて来た。
「なんだよ、落ち着かないって」
「酒でも呑みながらゆっくり浸かりてぇ」
「まだ飲む気かよ?ほんっとザルだよな、テメェ」
 ケラケラ笑いながら後ろから歩いてくるサンジは、ゾロの本心には気が付かなかったようだ。
 白く細い身体。細いながらしっかり筋肉の付いた肢体を、隠す事無く、惜しげもなくさらけ出しているのに、周りには他人が居てそれを見ているかと思うと、多少ながらムカムカするものがある。
 男同士なのだから、そう気にする事もないのだろうが、腰にタオルすら巻かずに、堂々としている姿を見てしまうと、どうにもゾロは落ち着かない。
 そう言うゾロもタオルは肩に掛けているので、腰には隠す物はないのだが。

(分かってんのかなー…コイツ。布団の上じゃ灯り消せって騒ぐくせに…)

 他人が多数いるような場所では、平気で服を脱ぐ。気にする方が変なのかもしれないが、惚れた相手の真っ裸を見て平常で居られる訳がないではないか。若いのだから。
 悶々とした気持ちを抑えつつ着替えを済ませサンジを振り返ると、着崩した浴衣のまま、マッサージチェアに座っていた。更には隣に座っていた中年の男性と談笑までしていた。
「へぇ〜おっさん、娘さんと一緒に旅行に来てんのか!いいねー!!」
「娘が珍しく一緒に旅行に行こうって言ってくれてね」
「親孝行な娘さんじゃねぇか!いいなぁ。ドコ見て回った?お宮の松とか見たかよ?」

(人懐っこいにも程がある。俺を放って他の野郎と喋ってやがる…)

 ゾロは濡れた頭をガシガシとタオルで拭きながらサンジに近寄ると、腕を取り引っ張り上げるようにして立たせた。
「な…んだよ?」
「お前は早く髪を乾かせ。俺がその間ココに座ってる」
「んだよー…」
「髪乾かすんだろ?」
 いつも髪が濡れてて気持ちが悪いとか、乾かさないと寝癖が付くとか、ブツブツ言われ続けていたので、そう言ってサンジを急かした。そうでもしないと、いつまでも部屋には戻れない。
「ちぇっ。じゃ、おっさん。明日も良い旅を!娘さんによろしくな!」
「ああ。ありがとう」
 手を振りながら鏡の方に向かっていくサンジを見送り、マッサージチェアのスイッチを入れる。

(おお、コレは結構いいかも…)

 グォングォンと振動音を立てながら、ローラーが背中を程良くマッサージしてくれる。
「君達は夏休みで旅行かな?」
「あ?」
 マッサージの気持ちよさに、早くも睡魔に襲われていたゾロは、隣から掛けられた声に覚醒する。声の主は先程サンジと話をしていた中年男性だった。
「夏に熱海に来るなんて、今時の若者でもあるんだねぇ」
「ああ。アイツが来たいって言ってたからな。お互いに時間がねぇから夏に温泉って事になったけどよ」
「大学生くらいかな?ウチの娘も大学生なんだよ。今の学生さんってのは、温泉なんて好きなんだろうかね?」
「あー…他は分からねぇけど、アイツが言うには女は好きらしいな」
「君達は、二人で来ているのかな?」
「ああ」
 サンジが人懐っこいだけが原因ではなく、このオッサンも話好きのようだ。
 ふと鏡の方を見ると、サンジがチラチラコチラを振り返っていた。備え付けのドライヤーの音がうるさくて、会話までは聞こえないらしいが、何やら気になる様子で見ている。
「男の子同士で来るのも珍しい気がするが、それもまた気兼ねが無くて良さそうだな」
 気兼ねどころか、人の機嫌を殆ど取ったことがないゾロには、意味がよく分からなかった。
「おい、終わったぞ」
「もういいのか?このマッサージ機気持ちいいな。部屋にねぇのか?」
「あるんじゃねぇの?部屋戻るんだろ?」
 何をソワソワしているのだろうか。先程までのんびりしていたのはサンジの方なのに、今はやたらとゾロを急かしている。
「ん?もう行くのかね?」
「ああ、じゃぁな」
「オッサン、今度娘さん紹介してくれよな」
「機会があったらね」
 簡単にしか乾かさなかったのか、前を歩くサンジの後頭部が少し湿っているように見えた。
「…何喋ってた?」
「は?」
「さっき、オッサンと何か喋ってたろ?」
 何を気にしているのかと思ったら、そんな事が気になっていたのか。
「別に。野郎同士で温泉に来るってのは珍しいな、とか言ってたかな」
「オマエ…妙な事言ってねぇだろうな?」
「妙な事?」
 サンジの言わんとする事が分からず、鸚鵡返しに言葉を繰り返す。妙な事とはどんな事を差すのだろうか。
 ホカホカに暖まったサンジは、首筋までまだ赤い。少し湿った項を見ていると、吸い付きたくなる。
「何で来てるとか…」
「夏休みで来てるのかって聞かれたから、そうだって答えただけだ」
「そ…か。んじゃいい」
「何だそりゃ…?」
「オマエが…や、いい。も、この話は無し」
 湯上がりで火照っているのか、サンジの頬は真っ赤になっていた。

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2006/1/30UP


なんだろうか…進んでない気がする。
亀の鈍いです。

Kei