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※このお話は『雨やどり』というパラレルの学生ゾロサンです※

Honey Honey Crescent Moon

<Vol.6>

 サンジは一つ一つの料理や食材について何かしらのコメントを付けていた。どう料理すればいいのか、入手方法まで後で訊こうとメモを取りながら。
 熱心な料理人だ。
 ニコニコと楽しそうなサンジの顔をつまみに、ゾロも料理を平らげ、ビールから冷や酒に変える。
 テーブルの上の料理はすっかり食べ尽くされ、酒瓶も大量に転がっていた。
「食ったな〜」
「ああ」
 残りの酒をチビチビ舐めながら、サンジのほんのり染まった頬を眺める。
 本当につまみになる顔だ。笑っていれば尚良い。
「レシピは纏まったかよ?」
「ああ、大量。これでオマエにも旨いモン食わせてやれるなぁ。帰ったら早速作ってみてぇな。あ…でも、オマエすぐ合宿だっけ?」
「んー…そうだな」
「…だよな。今年は何日間だ?つか、今度こそ充電器忘れずに持っていけよ」
 少しだけ、ほんの少しだけ残念そうな顔を浮かべた後、去年の夏の事を思い出したのか、ムッとした表情に変わり、苦笑いが漏れた。
「分かったよ」
 手を伸ばしその滑らかな頬に触れ、そのままサラリと揺れる髪を掻き上げてやると、猫のように目を細め肩を竦めた。
 ふにゃりと崩れる顔に誘われるように身体を引き寄せようとした時−−
「お食事はお済みですか?」
 部屋の外から掛けられた女将の声に、サンジが慌ててゾロの手から逃れ、バタバタと入り口に走って行く。
 宙に浮いた腕が行き先を無くす。
 サンジが女将を部屋に招き入れている間に、浮いた手は何度かグーパーを繰り返した後、酒瓶を掴んだ。
「まぁまぁ、綺麗に平らげていただいて、ありがとうございます。お口に合いましたでしょうか?」
「ええ。そりゃもぅ美味しくいただきましたっ。女将は綺麗だし、料理は旨いし、いいトコロですねぇ」
「ありがとうございます。お風呂の方はまだでございましょう?こちらの部屋を片づけている間に、露天風呂にでもお入りになってはいかがでしょう?」
 サンジと女将の会話を聞きながら、庭に目をやる。
 露天風呂か。部屋の風呂なら誰にも邪魔される事無く、ゆっくり浸かれるなぁと、ゾロはぼんやり思った。
「ああ!片づけなんてオレがやりますよ〜!」
「あら、まぁ」
「はぁ?」
 女将はコロコロと笑い出し、ゾロは馬鹿な事を言うなと目を剥いた。
「馬鹿な事抜かしてんじゃねぇよ。旅館で食器の片づけやる客がドコに居る?馬鹿言ってないで風呂に入るぞ」
「ああ?!馬鹿だと?!テメェに馬鹿って言われる筋合いはねぇよ!」
「宿でまで家事やる事ねぇだろって言ってんだよ。骨休めも兼ねて旅行に来てるんだから、お前ももちっと休めばいいだろ」
 そして自分にもっと構え−−とは、口には出さなかったが、忙しなく動き回るサンジに休息を与えたいと思ったのは事実。
 サンジは普段からゆったり座っている事が少ない。部屋に居る時も、チョロチョロ動き回っている気がする。風呂場の掃除を始めてみたり、部屋を片づけ出したり、買い物に行こうと言い出したり、洗濯したり。
 身体を動かしていた方が楽だとでも言うように、そう広くもない部屋を行ったり来たりしている。
「休む時は休んでるよ!年がら年中寝てられるオマエと違ってオレは忙しいだ。そうそう休んでらんねぇんだよ」
「今がその休む時なんじゃねぇのかよ?」
「まぁ、喧嘩はお止めになって、本当にお風呂でも頂いて来てくださいまし。お部屋の片づけも私共の仕事ですから。でも、お気遣いありがとうごさいます」
 にっこりと大人の余裕で女将に諭され、漸くサンジが大人しくなった。
「分かりました。んじゃ、よろしくお願いします。オラ、風呂行くぞ」
「ああ?風呂ならココにあるじゃねぇか」
「バッ…バカか!!野郎二人で部屋風呂って、そりゃ寒いだろっ!!」
「真夏だから寒くねぇだろ」
「そーゆー意味じゃねぇよ!!キモイって言ってんだよ!!」
「キモイって…お前…」
「あーもーグダグダ言ってねぇで、さっさと行く!!ココに居ちゃ、片づけの邪魔になんだろうが!!」
 サンジに腕を掴まれ、引きずられるように廊下に出ると、背後から「ごゆっくり」と言う女将の声が聞こえた。どうも笑われているような気がする。
 掴まれていた腕を不意に外され、子供のような仕種でぷいと顔を背けられた。サンジはゾロに構わずスタスタと歩き出す。
「おい」
「うるせぇ。黙って着いて来い」
「何怒ってんだよ?」
「別に怒っちゃいねぇよ」
 どう見ても怒っているようにしか見えないが、風呂に行くしかないんだろうとサンジの後を着いて歩いた。
 本当に山の天気か秋の空か。サンジの機嫌はどこかの株価よりも急騰急落が激しい。
 怒り出すと手の着けようが無いし、どうすればいいのかも分からない。何故こんな面倒なヤツがいいんだろうと思うが、コレが笑ったり怒ったり拗ねたりするのも可愛いと思ってしまうのだから始末に負えない。
 もう末期だな、とゾロは頭を掻いた。
 仕方がない。面倒でも何でも、手放したくないのだから。


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2006/1/23UP


遅くてすみません。
5月に向けて、暫くこのお話を頑張ります。

Kei