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※このお話は『雨やどり』というパラレルの学生ゾロサンです※

Honey Honey Crescent Moon

<Vol.5>

「こちらでございます」
 にこやかな女将に案内され通された部屋の引き戸の上には、大きく『虎の間』と書いてあった。
「とらのま…ってオイ…」
 ゾロの小さな呟きは聞こえなかったようで、女将とサンジは部屋の中へ入って行く。どんなネーミングなんだ、と思いながらゾロも後に続く。
 女将が奥にある障子を開けると、窓の外には小さな岩風呂があった。
「へぇ…スゲェな」
「各お部屋に一つずつございます。お客様方はこちらより、大浴場の方がよろしいかもしれませんね。部屋を出て左手奥の方に大浴場もございますので、そちらをご利用くださいませね」
 にこやかに女将が言う。まぁ、野郎二人でこんな狭い風呂に入るだろうとは思わないだろう。普通。
 大きい風呂もいいが、ゾロとしてはやはりココで酒を浮かべて飲む方が良い。ここで熱燗でも浮かべて飲んだらさぞ旨いだろうと、ぼんやりとした灯りに照らされた露天風呂を眺めた。

(真夏に熱燗は厳しいだろうから、冷や酒のがいいか…)

 ついでにサンジの裸体をじっくり見ていられる利点もある。これは美味しい。
「あははははー。広い風呂があるなら、そっちがいいな。…トコロで混浴ですか?」
「あらまぁ、いえいえ、男女別になっておりますよ」
「あー残念だなー」
 背後では何やらアホらしい会話が繰り広げられている。部屋に露天風呂が付いているような所で大浴場が混浴の訳はないだろう。
「着いて早々ですが、お食事の方をお持ちしてもよろしいですか?」
 女将がお茶を淹れながら聞いてきた。
 そういえば、思いの外到着が遅くなった為、腹も減っている。
「あ、そうですね。じゃお願いします」
「では、ご用意させていただきますね。お飲み物はいかがいたしましょう?」
「ビール…でいいよな?」
 サンジがゾロの方をチラリと伺いながら聞いて来た。妙な間が気になるが、取り敢えずはビールで構わないので、おう、と答えた。
「承知致しました。では、少々お待ちください」
「何ならお手伝いしましょうか?」
「いいえ、お客様のお手を煩わせる訳にはまいりませんわ」
 にこにこと笑いながら女将が部屋を出て行くと、何やらサンジは居心地悪そうに、そわそわと落ち着かない様子で、ゾロの方を見ようとしない。
 ゾロがお茶に手を伸ばしただけで、ぎょっとしたような表情になり、ゾロの手の動きを目で追ってきた。
 そういえば何やら来る前に怒っていたな、とゾロは熱いお茶を啜る。
「何怒ってんだよ?」
 ゾロが声を出すと、ビクリと肩が大きく揺れた。
 なんなんだ、一体。
「何でって…」
 むーっと口をへの字に曲げて、拗ねた子供のような顔になる。
「なんかイライラしてっか?」
「…してねぇ」
「あの変な秘宝とやらがそんなに気に入らなかったのかよ。まぁアレを秘宝と言うのもどうかと思うけどよ」
「だろ?!秘宝って言うからよー、こう、エジプトの秘宝とかそんなのを想像するじゃねぇか。それがよー、何なんだよ、あのオヤジ趣味丸出しの、股間のブツがお宝みてぇに飾ってあってよ。レディのあんなはしたない姿の…とか、悪趣味だろ?!」
 秘宝に反応したのか、ゾロが口を挟む暇さえないくらい、サンジは堰を切ったように喋り出す。
「そりゃ…まぁ…でも、エロ本やエロビ見てんのと変わんねぇだろ?」
「違ぇよ!秘宝って書いてあんだぜ?映画見ようと思ってテープ回したらエロビが始まっちまったような気分なんだよ」
 それはそれで構わないんじゃねぇかと思ったが、ゾロは口には出さなかった。話がどうもズレている気がする。そもそも行きたいと言ったのはサンジだ。でもさっきその事を言った後もの凄く機嫌が悪くなったので、それに付いては触れずにおく。
「分かった。まぁ、剣道の試合に行ったら、柔道の試合やってたようなモンだな」
「…それは何か違う…。それは単にオマエが道に迷って剣道場じゃなく、柔道場に着いただけ」
「違ったか?でもそれだけで機嫌悪かったのか?」
「いや…まぁ、うん、そうかな」
 サンジは、違うような気がすると言いながら首を傾げた。
「ま、でもその前の盆栽のトコは良かったんだから、ヨシとしろよ」
「盆栽…ハーブ園だっつーの…」
 丁度話が途切れた所で、食事が運ばれてくる。
 舟盛りや、色とりどりの小鉢。冷えたビールに冷えたグラス。次々と並べられていく料理にサンジの表情が変わっていく。
 舟盛りには鯛や鮪、カンパチ、鰺、しいら、イカと旬の刺身が盛られ、やや小降りの鰻重や一人分用のすき焼きもある。
 準備が終わり、仲居が去る頃には、サンジの機嫌はすっかり浮上していた。簡単というか、分かりやすいというか。
「あ、コレ旨い。後から作り方聞いてこよう。もう少し薄味にすりゃ、オマエ好みだろ?」
「ん?ああ」
 薄味だろうが濃い味だろうが、あまり関係ないのだが、口に出すのは止めてみた。料理を前に嬉しそうにレシピやら食材の事を話すサンジを見ている方が楽しい。
「刺身は新鮮じゃねぇとなぁ。熱海だから海の幸は豊富だな」
「ああ」
 手酌でビールを注ぎ足しながら、相槌を打つ。
「今年の土用の鰻はいつだったっけ?この夏は夏バテしねぇようにしないとなぁ。オマエも合宿とかあんだから、しっかり食っとけよ」
「ああ」
 決して適当に相槌を打っている訳ではない。
「ん、これは何で味付してんだろう。後で訊いとこ。帰ったら作ってやるよ」
「ああ、楽しみにしてる」
 これは、本気で。
 サンジが作る料理はどれもこれも美味い。


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2005/7/22UP


なぜ進まないのか…。
只今色々スランプ中〜(汗)

Kei